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花日和 Hana-biyori

短編小説『レンブラントの帽子』

褒め言葉を言ったつもりが相手をひどく不快にさせていた。なんてことは、誰にでもあるのではないだろうか。

図書館でたまたま『レンブラントの帽子』(バーナード・マラマッド/夏葉社)を見つけたので読んでみた。

人間関係の摩擦をユーモアと哀切を交えてじんわりと描いていた。ほか2編の短編小説。

あらすじ>ニューヨークの美術学校で働く二人の教師は友人ではなかったが仲が悪くもなかった。しかし、美術史担当のアーキン(34歳)が、実習担当で彫刻家のルービン(40代後半くらい)の被っていた白い帽子を、「とてもいい帽子ですね。レンブラントの肖像画の帽子に似ている」などと言った途端、ルービンは激しく嫌な顔をしてアーキンをあからさまに避けるようになる。

アーキンはわけがわからず、悪気は無かったのだから自分は悪くない、とどんどん相手が憎らしくなって…。

***

いまだったら、「同僚と上手く付き合う方法」とかネットで検索しちゃうのかもしれないが、1970年代頃の話でありグーグル先生も存在しない。

当然アーキンは自分で原因を考えなくてはならず、ルービンに対して腹を立てたり、何か間違ったことをしたのかとこれまでのやりとりをつぶさに振り返り、彫刻家の作品群を観察するなどぐるぐるしまくる。

この思考の変遷が見どころで面白かったし、お互いに避けるようになるくだりはギャグ漫画みたいにコミカルだった。

最終的にはアーキンがある答えに辿り着くのだが、これってやっぱりアーキンが「美術史家」という研究職で、ルービンが「彫刻家」というアーティストであることからくる感情の行き違いだなと思う。

アーティストは作品が認められなくてはならないプレッシャーがあるけれど、研究職は簡単に批評めいたことを言ってしまう。

レンブラントはフェルメールと並び称される偉大な芸術家だ。自画像をよく描く画家で、白い帽子を被った自画像は有名であるらしい。

そんな偉大な画家が描いた自画像に出てくる帽子に似ているなんて、そのつもりがなくても皮肉めいて聞こえてしまったのだろう。

しかしこれは、無自覚無責任に放った失言を「不快にさせたなら謝ります」と誤魔化すひとが目立つ今日このごろには刺さる話だ。

正面から相手の気持ちを推しはかり、自分の間違いに気付くところまで考え抜く姿勢が細密に描かれていて惹き込まれた。


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