花日和 Hana-biyori

『海賊島事件』読書会

昨日『海賊島事件』(上遠野浩平/講談社タイガ)の読書会でした。

どうやら『ブギーポップは笑わない』で鮮烈なデビューを飾ったらしい著者のことは、このたび初めて知りました 。文庫カバーの紹介文によると「ライトノベルブームの礎を築いた」方だそうです。知らなんだ。

ということで、皆さまの上遠野浩平やミステリーに対する思いの違い(あくまで私からみて)とともに振り返ってみます。間違っていたらこっそり指摘してください。※ゆるくネタバレありです。

◆風太さん(『ブギーポップ…』も今までの作品もそこそこ面白く読んでいたらしい)
「上遠野浩平は、私にとっては好きとそうでもないのせめぎ合い。今回の本はふつうに面白く読みました。それより娘がこんなに上遠野浩平が好きだったのか!と初めて知りました」

◆はづきさん(今回の本の推薦人)
「自分にとって“好きな作家”として名前は出てこないが、ずっと読んでいる作家でもある。なぜ好きなのか考えてみると、自分にとって気軽に読めるエンタメの“好き”要素が入っているからかなと。

 (例えば)その世界観でしか通用しない事を説明抜きで書くような”思わせぶりな書き方”や、女の子が意地を貫き通す話が好き。これも夜壬琥姫が世の中ざまあみろ、っていう話じゃないですか。ネーミングセンスもいい。ムガンドゥとかめちゃめちゃかっこいい響きだなと。

 それと、壮大に話を広げつつ最終的に“個人の思いが世界の存亡を左右する”という構造も好きで、面白いと思ってきた感じがあります。ただ、いまの時代はそれだと自己責任論に通じる部分もあるかもしれず、もう少し批判的に考えることも必要かもしれない、と今回は思いました。
 あと、申し訳ないですが、あとがきは毎回読んでいません!」

◆スウ(今回初めて読んで、本格ミステリもラノベもほとんど読んでこなかったその方面に疎い人)
密室殺人の謎解きといっても魔法が使える世界では意味ないんじゃ…と思いつつ楽しく読みました。(以下、日記と同じような話)

◆八方美人男さん(『ブギーポップ…』も読んだとおっしゃっていたような。途中までだったかな?ライトノベルもそれなりに読んでいた様子)

「ファンタジーだけど、通信手段など全部現代社会に置き換えられる。(魔法でなんでもというより)魔法が科学のような形で発展してきたという世界観なんだろうと思います。
 私もネーミングセンスはいいと思いました。中2心をくすぐられるというか。しかし風呂敷を広げすぎで最終的にはしょぼい(笑)。謎を解いちゃうとすごい小さなことをどこまで大きく広げられるかという構想があったのかなと。文章が気になったところが多くてふせんを貼ったのはほとんどその部分ですね。言い出すときりがないのでこのへんで…。
 ちなみにあとがきは最初の2行くらい読んでやめました(笑)」

◆きなさん(『ブギーポップ…』は「途中でぶん投げた」という本格ミステリ好き)
 「色々と突っ込みだしたらきりがないんですけど、それ込みで面白く読みました。ただ、会話がもう少し上手ければなと。会話の体裁を取りながらも説明の応酬でちっとも会話になっていない、全てを会話で説明しようとしているのが私にはちょっとうざったい。
 あとがき、解説は読んだんですけど、読まないほうが良かった。この作家は物語を紡ぐというより”物語に込められたある種の思想”を伝えたい、読者を楽しませることより読者という名の信者がほしいという人なのでは?

 登場人物については、スキラスタスに堕ちる女はいないよね…と。そんな彼に比類ない芸術家の才能を与えたのは面白くて好きでした。魅力的なのはムガンドゥ三世で、次いでレーゼ・リスカッセ。EDや風の騎士は狂言回し的で…もっと魅力的にもできたと思うのに残念。ただ、キャラクターが矜持を持って生きている世界観は好きでした。

 これを30年くらい前の萩尾望都が書いたら面白かったろうなあと。夜壬琥姫はもうひとりのトーマになりえたかもしれない。そう考えると、夜壬琥姫の死を悼む人が出てこなかったのが寂しい。全体的には、もっと作者が登場人物を自由にしてほしかったし、もっと読者を信じてほしい。1から10までこんな風に説明しなくていいのにな、と思いました」

◆くらさん(『ブギーポップ…』以来?久々に上遠野浩平読んだという本格ミステリ好き)

「この人私より年上だったんだなということに驚いた。昨年シンエヴァンゲリオンを見た時、アニメーションとしてのクオリティーは素晴らしいしやっと私たちが待っていたものが終わったなと感無量ではあったんですけど、このオチになるんだったら10年前にやっておけと。それと同じことをあとがきと解説を読んで思いました。還暦手前の人がやることじゃない、”元祖中2”と言われていたわけがわかりました。

 あとがきだけじゃなくそれは本編にも言えることで。思わせぶりな表現で読ませるほどのテクニックがないので、私はけっこうイライラしちゃいました。視点やパートの切り替えがうまくない、ここまで他視点にする意味がないとかテクニック的な難点が色々…。シリーズの一作という弊害もあるんですが。魅力的になるはずだったキャラクターが捨てキャラみたいになってしまったり。2本の軸でやるほどの話だったのかも疑問。1本でも成立しそうなのにもったいない。

 あとやっぱり私は本格ミステリを読んできた者なので、これ(魔法でなんでもできちゃう世界)をミステリというのはちょっと許せない(笑)。これと同時期に有栖川有栖の本を読んだんですが、何がどうしてどうなったという説明をちゃんとしてくれている。(物理的な)本格ミステリというのはそういうものなので。上遠野浩平は本格ミステリは向いていないからやめたほうがいいと思う。

 本作に限ったことではないですが、謀略系の話で難しいのは天才的な人(探偵など)が出てきた時、”書いている作家よりどれだけ頭良く見えるかどうか問題”というのがある。うまい作家はそこをクリアしてくるんですよね。海賊党事件は、そこは滑ってるなあと…。本作に限らず、その演出は課題なのかなあと思います」


 ***

だいぶ端折ったつもりですが長くなってしまいました。このほか、「鬼滅の刃」との比較なども面白かったです。

映像が浮かぶ展開の面白さ、キャラクターの魅力で引っ張るのが、良くも悪くもラノベの特徴なんだなと感じる回でした。だから文章や構成のおかしさなど技術面に引っかかると却って読みづらくなってしまうようですね。

推薦人のはづきさんが「あとがきは毎回読んでない」というのが衝撃でしたが、つまり作者の癖ツヨ的なところを上手くスルーするのが、楽しく読むコツなんだろうと思います。私も本編はそういう感じで読んだところがあります。あとがきと解説、読まなくて良かったんだなあ…読んじゃったけど、意味わからんかったもん。


 ***

次回は、以前私もちょっと推薦しかけた『戦争は女の顔をしていない』アレクシェーヴィチ(岩波書店)です。「100分de名著」でやっていて、好みの問題ではなく読んどかなきゃいけないと思った本です。
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