『美しい彼』や『流浪の月』が有名な凪良ゆうの、本屋大賞受賞作品。朗読は柚木尚子、志村 倫生のふたり。
瀬戸内の海が美しい離島の町が舞台。17歳の青野櫂(かい)はスナックを営むシングルの母親と二人暮らし。母親が恋人を追って京都から引っ越してきたため転校したが、周囲には馴染んでいなかった。
同級生の井上暁海(あきみ)は、父親が浮気相手の家から戻らず、徐々に精神を病んでいく母親と危うい日常を送っていた。
ある日、暁海は母親から学校帰りに父親の様子を見てきて(迎えに行って)と頼まれ、成り行きで櫂と一緒に父親の恋人の家に行くことに。その後、似た境遇の二人は惹かれ合い付き合うようになるが…。
この辺から徐々に引き込まれて二人の行く末が気になってどんどん聴いた。
二人の視点で交互にストーリーと心情が語られ、オーディオブックのナレーションは櫂のときは男性、暁海は女性の朗読で、本当に二人の独白を順番に聞いているようだった。
愛媛県の今治市に近い島の一つが舞台のモデルとなっているようだ。娯楽が少ない島民にとって櫂や暁海のような家の事情は生のエンタメだという。
島というコミュニティの狭さは「世間の常識」を煮詰めて腐臭を放っている。その「世間」が押し付けてくるものに背を向けて二人だけの理解されない生き方を描いたのは、いつもの凪良ゆうらしいテーマだったと思う。
やがて櫂は漫画原作者として上京し、暁海は家庭の事情で地元に残る。遠距離を8年続けるが、二人の心はすれ違っていき…。
この、どうしようもなくズレて行く感じがリアルでもはや既視感!という人は多いだろう。恋愛がぐずぐずに終わっていくこの感じ。そして、この場合は夢を叶えた人と叶わない人との嫉妬のようなズレでもある。よくある構図、心情なのだが分かるだけにツラい。
それと、今回は凪良ゆうの生い立ちを新聞のインタビュー記事で読んだ後だったので、櫂が母親に数週間置き去りにされたという子供時代の回想は、そのまま作者の経験したこととして生々しくより痛ましく感じてしまった。どんなにひどい目にあってウンザリしても、親を突き放すことができないというのも、作者の心情と同じでなのではないだろうか。櫂の作家としての創作の源や葛藤も、作者とずいぶん重なる点が多かった。
こうした裏事情は、本当は物語に浸るためにはあんまり知らない方がいいかもしれないが、それもまた面白味の一つだった。
作者本人が児童養護施設で育ち、既成の価値観を理不尽に押し付けてくる教師に反感を覚えて高校を中退したという。つまり自分を守ってはくれない「世の常識」に反発して生きてきたので、作品も常にそういう骨格を持っているのだ。
それが、辛く苦しいエピソードや若干くどさを感じる心情吐露を超えて、力強く物語に引き込まれた要素でもあったと思う。ラストは出来すぎなくらい圧巻の美しい描写だった。
最新の画像もっと見る
最近の「読書」カテゴリーもっと見る
最近の記事
カテゴリー
バックナンバー
人気記事