ハナウマ・ブログ

'00年代「ハワイ、ガイドブックに載らない情報」で一世を風靡した?花馬米(はなうま・べい)のブログです。

タクシーのウラ側から

2021年12月02日 | 自動車交通

タクシーをかしこく、そして気持ちよく利用するための知識をウラ側、すなわち業界側からの視点・立場で解説する。数十人の現役タクシー乗務員からの聞き取り調査と、企業・関係団体の公開情報、そして自家用車は一度も持ったことがない「レンタカー&タクシー主義」の筆者が、客として利用しながら得た体験をもとにしている。
なお本稿では、基本的に東京事業区域(23の特別区と武蔵野市、三鷹市の範囲、正確には「特別区・武三交通圏」)のタクシーを想定している。

INDEX

  • なぜタクシーは止まってくれないのか
  • 東京のタクシーは優秀?
  • 妊産婦向け、車いすユーザー向けは本当に役に立つか
  • タクシーに現金はない?
  • 一期一会というけれど

なぜタクシーは止まってくれないのか

「空車」が表示されているタクシーに向けて手を挙げているにもかかわらず、止まってくれないという話を聞くことがある。これは大きく客側の問題と乗務員側の問題に分けられる。
タクシーに対して手を挙げる行為は、法律上「運送契約の申込み」ということになるのだそうだが、タクシーが止まってくれない理由で多いのは「乗務員から合図が確認できない」、ついで「停車できる場所・状況ではない」、そして少数ではあるが「乗せたくない」である。

手を挙げると言っても人それぞれで、小学一年生のようにハッキリと手を挙げる人から、手首(!)から先だけをチョイと動かすだけの人、ひどい場合は(手足が動かせるにも拘らず)目で合図するような態度の人物までいるのだそうだ。

ただ、手をしっかり挙げているといっても、そのまま静止していると周囲の風景と一体化してしまい、乗務員が気づかない場合もあるとのことだ。
また夜でも明るいと思われがちな都市部であっても、立っている場所が街路樹の下などスポット的に暗く落ちている場合があり、そこに人がいることさえわからない場合もあるという。タクシー業界にも高齢化の波が来ているから、これは関係がありそうだ。
まずはしっかりと手を挙げ、できれば“振る”こと。そして夕暮れ以降は自分の立ち位置の明るさにも気をつけるといい、ということになる。
「夜はスマホ(の明るい画面)を振ってもらえるとわかりやすい」という意見もあった。

いっぽうで、手を挙げているのはわかっても状況的に停車できないという場合もある。法的に停車できない場合や、状況的に周囲に著しい迷惑・危険を及ぼす場合である。
意外と知らない利用客、そして乗務員さえいるようだが、交差点や横断歩道のそばでのタクシー乗降は本来「アウト」である。とはいえ実際にそういった風景を見かけることは少なくないし、特に高齢社会の現代ではあまり厳しいことを言っても却って現実的ではないという面もある。
要は状況判断ということになるが、タクシーが安全に止まりやすい場所を意識することも、ひとつ大切なポイントと言えそうだ。

そして「乗せたくない」だが、これは本来あってはならないことだ。
とはいえタクシーは、(たとえ会社であっても)個人事業主的な傾向の強い職種であり、トラブルにつながりそうな客を避けがちであることは間違いのない事実だ。
避けられる客の代表格は、①泥酔者、②不良、または反社会的傾向を感じる様子の人物、③女性である。

ふつうに酔っている程度なら問題ないそうだが、足元がふらついている場合や誰かに支えられているような場合は、トラブルにつながりやすいため避けられる。
ちなみに行先や経路を正しく話せない、言うことが二転三転する、その他安全な運転を妨害するような場合は合法的に乗車拒否、あるいは降車させることが可能なのだそうだ。実際には交番に横付けしたり、クレームに発展した場合は防犯ビデオ(後述)を見てもらうのだそうだ。

さて、問題は女性である。女性客を避けがちな乗務員は実際に少なくないようだ。ここでは小さい子どもを連れた女性も含めて考えるが、なぜそうなってしまうのか。 それは、①指示が下手、②文句が多い、③住宅街など奥の奥まで入れられ脱出に苦労する、ということなのだそうである。5円玉や1円玉で料金を払う、などという声もあった。
しかしよくよく聞いてみると、要するに「女性は時間や空間の把握、説明が苦手な人が多い」と乗務員が感じているらしいことがわかる。

具体的には、右左折や停止を直前になって口にしたり、「300mぐらい先」といいながらじつは100m程度だったりと、交通事故を招きやすい場合が少なくないからなのだそうである。また最後まで目的地を言わず直進や右左折だけを言うのでイラつく、といった声もあった。そしてその割に、「いつもよりワン・メーター(80円)高い」などと文句を言うのだそうである。
令和3年現在、東京事業区域では初乗料金が420円、その後は80円刻みで加算される「時間距離併用制」である。この80円は233mごと、あるいは時速10㎞以下となった時は85秒ごとに加算される。交通状況や経路によって多少の変動があるのは仕方のないところだと思うが、それが癪に障るらしい女性がいるのだそうだ。

しかし当然ながら、世の女性みながそうであるわけはない。
ただ「女性にはそういった傾向がある」と経験上感じている乗務員が少なくないこともまた事実のようである。
「女性は、というよりもタクシーに乗り慣れていらっしゃるかどうかという気もします」という乗務員もいた。
ただ考えてみれば、女性は防犯目的で家の前までタクシーで移動したいこともある。また大荷物を抱えていたり、ハイヒールで歩き回って足がボロボロだったりという場合もあるだろうから、住宅街の狭い路地まで入っていくのは致し方ないだろう。
そんな時は、タクシーが比較的ラクに脱出できる経路を「正確に」教えてあげると親切だろう。「カーナビがあるじゃないの」という意見も出そうだが、住宅街などの狭小路ではほとんど役に立たない場合が多いのである。

東京のタクシーは優秀?

60代以上の人なら、「東京のタクシーは世界一優秀」などと言ったことを聞いた記憶があるかもしれない。しかしそれはボッタクリがないとか、かつて「神風タクシー」などという言葉もあったように安全軽視の危険運転はしないといった文脈なのであり、前時代的感覚においての言葉でしかない。
令和のいま東京のタクシーのレベルは、「世界各国と比較すれば先進国の都市部なみ」であり、かつ「個人差がある」という、考えてみればごく当たり前の状況である。

ところが、東京のタクシー(の乗務員)に過度な期待を抱いているらしいのが高齢男女の一部にみられるという。「自分が知っている場所、ルートは乗務員も知っているはず」という思い込みが激しいのだそうだ。
おそらくこれは、「東京のタクシー運転手は東京をすべて知っている」と誤解していたり、自分の行動範囲が狭い高齢者が、「タクシーもそれぞれ狭い地域を走っているものであって、地元の道に詳しいはずだ」と思い込んでいたりするからだろう。
そういうお客は乗車後いきなり「○○医院まで、△△のお寺の道から」みたいな指示をするのだそうだ。一定の狭い地域しか走ろうとしない「高齢ローカル乗務員」ならともかく、都内全域を走り回って稼ぐのが信条である通常のタクシーは、そんなローカル感覚でモノを言われてもすぐにはわからないのだそうだ。

ちなみにタクシーのフェンダー部分に「杉並」とか「豊島」などといった地域表示がされているが、だからといってその地域に詳しい地元タクシーだなどとは必ずしも言えない。個人タクシーならともかく、運転している乗務員はまったくその地域を知らない場合もある。得意な地域が異なっていたり、そもそも遥か遠方から通勤してきている場合もあるからだ。特に東京のタクシー乗務員は、神奈川・埼玉・千葉・茨城などから通勤している人も決して少なくない。それはやはり「東京はどんな時間帯でも人が出歩いていて稼げる」からである。ちなみにタクシー会社の乗務員の通勤交通費は自腹である。

昨今はタクシー業界も高齢化が進んでいる。と同時に新卒でタクシー乗務員となる人も少なくない。中には家族を介護する必要があるため、あえて自分の時間を確保しやすいタクシー乗務員になったという若者もいる。
中途採用も含め経験の浅い乗務員がいても何らめずらしくないのも東京のタクシーの特徴である。そんな乗務員に対して常連顔、ローカル思考でものを言っても通じない場合もある、というわけだ。

妊産婦向け、車いすユーザー向けは本当に役に立つか

タクシー業界も新しいサービスをいろいろと開発・提供している。
車いすのまま乗車できるタクシー、妊産婦が前もって各種の情報を登録しておけるタクシー、料金の事前確定制度、定額での空港送迎制度、そして配車依頼・決済・ポイント管理などが一元的に出来るスマホアプリの提供などが代表的だ。
当然ながら各タクシー会社は車体ラッピングやTVCMなどで「便利でお得!」をアピールするわけだが、実際に現場でどの程度対応できるかはまったく別問題だと考えておいた方がいい。

東京2020オリンピック(実際は2021年開催)の少し前に話題になった、「車いすのまま乗れるタクシー」は、じつのところそれほど利用されていないようである。
理由は、乗務員がその煩雑な作業を敬遠することと、そんな実情をわかっている利用者(車いすユーザー)が期待をしていない、というところにある。
乗務員が敬遠する理由ははっきりしている。乗車時と降車時に時間をかけて煩雑な作業を行ってもなんら手当はなく、しかも短距離利用者が多いということもあって、営業効率的に大きなムダになるからだ。
乗降時、周囲の道路事情や交通状況にも気を使わねばならないし、クレームにつながりやすい作業にわざわざ手を出したくないという思いもある。そしていつしか乗降時の作業手順も忘れてしまい、必要な器具も紛失しているなどという悪循環となっている。
筆者は常々、医療や福祉・教育・宗教といった分野については経済合理性だけでものを考えてはいけないと思っている人間だが、タクシー乗務員というものは当然ながら、短期的で具体的な経済効率を上げることを行動原理に仕事をしている。こういった接点には何らかの知恵が必要だろう。

妊産婦タクシーや、小学生などが一人で利用できるキッズタクシーなどは、事前に利用者に関する情報をタクシー会社に登録しておくというサービスである。
サービス開始時はいちおう乗務員に対して研修を行ったりもしていたようだが、現在は人手不足もあり、何にもわかっていない乗務員、必要な装備すら搭載していないタクシーが割り当てられてやってくる場合もある。
特に「産まれそう」な場合は、乗務員も困惑し焦って運転することになり、却って期待しない結果を招くことにもなりかねない。
「もしパトカーに見つかったら先導してもらう覚悟で、ほとんど信号無視で突っ走ったことがある」と話す乗務員もいる。
こういったサービスは複数のタクシー会社に登録しておくのが、せめてもの防衛策と言えるかもしれない。近所に住んでいる個人タクシーの乗務員に事情を話しておくということも考えられる。ただやはり、この種のサービスにあまりに期待を寄せすぎていると、痛い目に合う可能性もありそうだ。

料金の事前確定制度は、乗車地と降車地、走行ルートを指定して料金を事前に確定しておく、スマホアプリを使ったサービスである。
渋滞などでも料金が変動することはなくその点では安心だが、通常走行時よりやや高めに設定されていることは知っておいて損はないだろう。そのためか事前確定の走行時は、料金メーターがカバーで隠されることになっている(利用規約となっている)。また途中で降りてしまっても事前確定料金は変わらない。
「はずれ」がない代わりに「あたり」もない、いわば飲食チェーン的な印象といったところだろうか。

最近利用者が増えているのが、スマホアプリを利用した配車サービスである。利用の仕方によって料金の支払いやポイント活用なども可能である。だがこれも、過度な期待を寄せすぎると不満を持つことになりやすい。
アプリでは指定した場所にタクシーを呼ぶことが出来るが、時間通りに期待したポイントにキチンと来るかどうかは、そのときのさまざまな事情による。
配車アプリ関連でクレームする人の多くは、スマホの表示どおりに世の中が回るはず、と発想するタイプが多いという。道路事情等によって必ずしも到着時刻が確約できない旨はアプリ規約に載っているはずだが、そんなものを読んで理解している人は皆無に近いだろう。

無線配車を受けたタクシーはナビの指示を基本に迎車ポイントへ向かうが、自動的に表示されるナビの精度はそれほど良くはない。奇妙な回り道を表示され、何らかの理由(右折禁止や歩行者用道路、スクールゾーンなど)があるからだろうとナビの指示通りに行くと、待ち合わせ時刻に間に合わない場合があるという。
逆に、指定場所へ最短ルートで行こうとしたら交通規制などで進めず、う回路を探している間に時間が経過してしまうという場合もあるのだそうだ。 都心部では、おおむね5〜10分で到着するよう表示されるようだが、それでも道路事情や交通規制などで遅れることはじゅうぶんにある。

経験した乗務員によると、車が入っていきにくい場所、わかりにくい場所ほど呼ばれることが多く、そんな場所ほど迎車ポイントまで時間がかかってしまうという。また右折禁止や一方通行が多い地域、立体交差が多い地域などでは、ちょっとしたことで大回りを余儀なくされることもあり、かなりの時間を食ってしまうともいう。
じつは配車を判断しているコンピューターシステムは、道路事情に関係なく、単に直線距離で空車のタクシーに配車要請を出すらしい。しかも乗務員側では、近隣で配車要請があること以外、一切の情報を与えられないため(公平性の確保)、迅速に向かえそうかどうかを判断できない。
さらに客側で設定する、アプリ地図上での迎車ポイント指定がいい加減だと、たとえば大通りの反対側や、建物の反対側にタクシーが来てしまったりして時間がムダになる場合も少なくないのだという。
いずれにしろ東京の都心部では、通りまで出てタクシーを待った(選んだ)方が話は早いことが多い。

タクシーに現金はない?

物騒な話だが、タクシーは間接的に犯罪に利用されたり、タクシー自体が犯罪に巻き込まれたりすることもある。
ただ昨今のタクシーは防犯システムが充実しており、たとえばタクシー強盗のようなものは、コンビニ強盗とか携帯電話を持って逃走する以上のマヌケな行為である。

ずいぶん昔からある仕組みとしては、非常通報のスイッチがある。客から見えにくい場所にあるが、これを操作することにより屋根の「アンドン」が赤色の点滅をはじめ、「空車」などと表示されるスーパーサインが「SOS」に変わる。これによりタクシーの車内で異常が起きていることを周囲に知らせると同時に、無線センターにも異常事態が通知されるようになっている。このとき客にはその様子はわからない。
都内などでは交番も多く、警備や取り締まり中の警察官も多いため、すぐに異常事態は確認される。無線センターでもGPS等によって追跡が開始される。

ただそれだけではない。車内の様子は四六時中ビデオ録画されている。
これは防犯目的もあるが、基本的には乗務員の監視目的のほうが大きい。わき見運転や過労運転、さらには急ブレーキなどの異常な運転行動を自動的に検出して、監視システムに通知する仕組みになっているのである。
ビデオの映像と音声は単に装置内部に記録されるだけでなく、状況に応じてセンターへも送信されている。

タチの悪い乗客の場合、「ドアに脚を挟まれた、どうしてくれよ」とすごんでみたり、最初から壊れているサングラスなどをドアに挟んで、「高級なサングラスをどうしてくれよ」などとゴネて多少の現金を得ようという、なんとも稚拙な手段をとる場合が多いのだそうである。
しかし乗車時から降車時まで、すべての行動と会話は記録されている。
いわゆる「言った、言わない」などのクレームがあった場合も、このビデオ記録で自分のマヌケな様子を見せつけられると、とたんに黙ってしまうのだそうである(酔っ払いが多いそうだ)。
もちろん車外を記録するドライブレコーダーも回っているから、タチの悪い乗客にとっても乗務員にとっても、ウソはつけないようになっているのだ。

そもそも最近のタクシーは、現金をあまり持っていない。キャッシュレスが普及しているからである。実際のところを聞いてみると、多いタイミングであっても3万円もないほどなのだそうだ。

一期一会というけれど

タクシーにまつわる話では「一期一会」などという言葉が出てくることがある。通りすがりの他人同士が、いっとき狭い移動空間をともにすることにより、ちょっとした出会いの感覚や連帯感のようなものが生まれるからなのかもしれない。
もちろん、必要最低限しか言葉を発しない客・乗務員もいるし、逆に迷惑なほどのおしゃべりもあるかもしれない。

タクシー乗務員という人たちはたいてい転職組であり、前職の業界に非常に詳しかったりもする。経験した業界がお客さんと一致して、専門的な話で盛り上がる場合もあるという。
また自慢話を始めとして、話を聞いてもらいたいお客さんも多いらしく、なかには人生相談まがいの話になり、目的地に到着してなだめていたところ泣かれてしまって大変だったなんて言う体験談も聞いた。
またタクシーの中では安心してしまうのか、かなりきわどい秘密情報をお客同士でする人もいたり、わざわざ乗務員に対してウラ情報を自慢げに話したりするお客もいるという。

乗務員はみな一様に「お客はいろいろ、としか言いようがない」という。もちろんそういう乗務員の方だって「いろいろ」なのだから、これはもうその時その時の組み合わせ、状況で変わってくることになる。
こんな、ある意味特殊な人間関係の時空で大切なことは、「過度な期待を持たない」、そして「物事を決めつけない」ということではないかと思っている。そしてこれは、社会生活一般にも通じるのかもしれないとさえ思う。
相手に対して期待を持ちすぎたり、何事かを決めつけたりすればするほど、そうではなかった時に腹を立てたりガッカリしたりすることになる。けっきょく不幸の原因は自分の中にこそあるということなのかもしれない。

他人同士がすれ違うという意味では、タクシーの中も、そして生活しているこの社会この世さえ、規模の差こそあれ似たようなものではないかと思えてくる。
皆お互い生老病死の途中をやっている人間同士、余計な力を抜いて自然体で、ゆるりと生きて行きたいものである。


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