最終更新日:2021年2月27日
横浜の名所をめぐる路線バスに、2つの車体が列車のようにつながっためずらしいタイプが運行されている。連節バスとしては初の国産車である。筆者は’00年代にハワイ・オアフ島の市バス運行会社OAHU TRANSIT SERVICES, INC.やその工場を取材しているが、その「TheBus」でもこういったバスが走っていた。ハワイ気分?になれるかどうかはわからないが乗ってみた。
その名も「BAYSIDE BLUE(ベイサイド・ブルー)」
このバスの形は連節バスと呼ばれるもので、列車が2両つながったような格好のバスである(連接バスとも。ハワイではConnecting Busと呼んでいた)。
日本国内での連節バスはほかにもある。関東地域を見た場合、一般路線用としては千葉県・幕張新都心を走る「シーガル幕張」、神奈川県・藤沢市を走る「ツインライナー」などがある。しかしそれらはすべてボルボ、メルセデスベンツ、ネオプランなどの外国車である(架装や内装だけを国内で施工している例も)。
今回紹介する連節バスの愛称は「BAYSIDE BLUE(ベイサイド・ブルー)」。日野自動車が、いすゞ自動車と共同開発した国産初の連節バスで、全長約18mの車体が目を引く。水面のきらめきをイメージしたメタリックブルーの外装は、光の当たり方で変化する(厳密には連節機はHubner社製、アクスルはZF社製を使用)。
横浜駅東口から山下ふ頭までを往復する路線に投入されており、横浜市営の路線バスであるものの、観光客を強く意識した運行・運営が行われている。既存の「あかいくつ」「ピアライン」などとともに、みなと横浜を颯爽と走り抜ける観光客向けバスである。
これらのバスは「観光客向け」とは言っても、れっきとした横浜市営の路線バスなのであり、1乗車あたり大人220円、小児110円で乗ることが出来る(乗車時払い定額運賃)。また、横浜市営バス定期券、1日乗車券、みなとぶらりチケット、横浜市敬老特別乗車証、福祉特別乗車券も利用可能だ(ただし「あかいくつ」号だけは定期券・敬老特別乗車証・福祉特別乗車券の利用は不可)。
また、東京と三浦半島を結ぶ京浜急行電鉄の「横浜1DAYきっぷ」でもBAYSIDE BLUEに乗車可能だ。
BAYSIDE BLUEは横浜駅東口から
BAYSIDE BLUEの始発バス停は横浜駅東口のバスターミナルである。
じつはこのターミナル、横浜駅の東口(海側)からは国道1号や首都高速道路を挟んで少々離れているのだが、「東口バスターミナル」の案内表示に従って地下街「横浜ポルタ」を抜けて進んで行けば苦にならない(まれに「YCAT(わいきゃっと)」のバス乗り場へ行ってしまう人がいるので注意)。地上のバスターミナルに上がる手前には各バス会社の案内窓口が並んでいるので、事前にお得な切符を買うこともできる。
なお、昭和56年に整備された東口バスターミナルは、プラットフォームに至る最後の最後で、地下から地上へ上がる30段ほどの階段があるため、高齢の方などは心の準備が必要かもしれない(手すりあり)。
バスターミナルの乗り場は「Aの4番」である。
ビルの1階部分に作られた薄暗いバスターミナルであるが、Aレーンは赤色の案内看板なので、「赤の4番」と覚えてもOKだ。
この4番乗り場には異なる路線のバスもやってくるため、BAYSIDE BLUEに乗る人は、壁沿いに並ぶよう足もとに指示されているので気をつけよう。気づかずに一般路線バスの位置に並んでいる人もいるが、そこは優しい大人の状況判断・振る舞いで接しよう(バスターミナルはバス事業者のものではないので、大がかりな案内を設置できないという事情もあるのだ)。
なおマニアックな人(また下り階段の方が少しはラクだという人)は、横浜駅コンコースから地下街を通らずに駅ビルからすぐに地上1階へ出るといい。横浜駅の中央通路を東口に向かって歩き、空が見えたらすぐ右に曲がる(下りエスカレーターの手前だ)。そして目に入るガラス張りの短い上りエスカレーターで屋外に出る。ここでまっすぐ進めば国道1号に並行した車寄せになるし、左手を見れば歩道橋へアクセスするエレベーターや階段が見える。
この車寄せは山下ふ頭からやってきたBAYSIDE BLUEの降車場所となっており、通常なら十数分間バスが停車して乗務員が休憩する場所でもある。タイミングがよければ、ゆっくり眺めたり写真を撮ったりすることが出来る(乗車は不可)。場合によっては乗務員と少し話が出来るかもしれないが、ここは法的に決められた休憩時間なので、根掘り葉掘り質問したり引き留めたりしてはいけない。
この場所からバスターミナルへ移動するには、国道1号の上、首都高速の下を通る歩道橋を使う(地上移動は不可)。国道を越えるとバス乗り場へ「下りる」階段の案内表示「B」「C」が見えるので、「A」の位置を推測できる。
それからBAYSIDE BLUEは路線バスとはいえ、タイム・スケジュールを意識した通常の移動手段として利用するのには向かない。なぜなら、のんびりと名所を寄り道しながら走るバスだからだ。速度も最高で40㎞/h程度、体感平均は30km/h程度で走っているし、景色の良い区間など意図的にさらにスピードを落とすこともある(そのようにダイヤ編成されている)。
マニアック情報(1)
さて、この連節バスはドアが3か所ある。前・中・後の順で1番~3番ドアとも呼ぶが、一番前だけが乗車口となっており、乗車時に運賃を支払う。もちろん交通系ICカードも利用できる。ニーリング(車体が歩道側に傾く機能)するので、乗り込み時の段差もほとんど気にならない。車椅子の場合は2番ドアから反転式スロープで乗り込む。
車内は一般の路線バスとそう極端に違いはないが、前車室は段差のないフルフラット、後車室もノンステップエリアが広くなっている。また進行方向とは逆に向いて座る席もある。特に後車室の対面シートは足もと空間にゆとりがある。連節バスの乗車感覚を味わうなら、後部車室へ進んだ方がいいかもしれない。特に進行方向右側の席に座れば、全長18mの車体を大きく曲げてカーブするときの特別な様子をよく見ることが出来る。
なお連節部(ターンテーブル)に立ち止まることは禁止である。
薄暗いバスターミナルから明るい国道1号に出ると、すぐに大きく左に曲がる。
ここで興味のある方なら、連節バスはどういう運転になるんだろう?と考えるかもしれない。じつはこのバス、ある意味難しく、ある意味運転しやすい車両といえる。
たとえば内輪差が気になるところだが、コンテナ陸送などに使われる大型トレーラーに比べると、右左折時のオーバーハングは小さく出来る。車両の屈折点が先頭よりかなり後ろにあるためらしい(最小回転半径9.7m)。直角に曲がるときに必要な最小の道路幅は(ミラー等の張り出しを考慮しなければ)7.0mだそうだ。
運転そのものは「前輪2軸」の大型車の経験があれば、それほど違和感はないという。
ちなみに運転免許の種類だが、「大型2種」は当然必要となる。しかし「けん引」は必要とはされていない。これは、連節部が固定されており(専用工場などでない限り)切り離したり、再連結したりできない構造であるためだ。
ただ法的にはOKであっても運行事業者(横浜市交通局)として、けん引免許の取得を推奨、あるいは条件としている可能性はあるかもしれない(車庫などではバックすることもある)。
人によっては、1985年(昭和60年)に茨城県つくば市で開催された科学万博の際の連節バス「スーパーシャトル」を知っているかもしれない。このときも免許制度で関係者は悩んだそうだが、様々な条件付けと特例措置をおこなって運行にこぎつけたようだ。
ちなみに科学万博のときの連節バスは、足回りをスウェーデン・ボルボ社から輸入し、ボデーを富士重工で架装している。万博終了後は、TCAT(東京シティエアターミナル)~成田空港間で運行されたり、空港内のランプバスとして使われたりしたが、すでに全廃となっている。
BAYSIDE BLUEの運転席まわりは基本的に多くの路線バスと同じだが、ドア開閉スイッチが「前」・「中」・「後」の3本ある。幼いころ、このスイッチを操作してみたくて仕方がなかったことを、ほのぼのと思い出す。
変速装置は7速AMTといい、状況によってATとMTの両方のオペレーションを行うことが出来る。ハイブリッド仕様のこのバスは、前車部天井部分にニッケル水素バッテリーを搭載、モーターと直列6気筒のエンジンは後車部の最後部に搭載されている。そして駆動輪は後軸のみだ。つまりこの連節バスは、後の車体(シャーシ)が前の車体を押すような力学で走行していることになる。
運転席のメーターパネルの左右にはモニターカメラの画面がいくつも並んでいる。後付けの「無理やり感」がややあるが、後部車体の側面付近を映し出すモニターは、おそらく通常のサイドミラーでは確認しきれない「はるか後方」の様子を詳細に確認するためのものだろう。もちろん車内各所に設置されたカメラが、乗客の様子も映し出している。そしてこれらの画面は状況に応じて自動的に切り替わる。
マニアック情報(2)
このバスを運転する乗務員は、横浜市交通局の運転手から社内公募で選ばれた精鋭二十数名である。もちろん単に運転がうまいだけではダメである。「接遇」と呼ばれる接客センスも一般路線以上に必要だし、多少なりとも観光の知識も要求される。現場に入るまでには約80時間の実地訓練を重ねており、リーダー格となる5名は先行して日野自動車羽村工場にあるテストコースなどで講習を受けている。
そういえばこの連節バスが運行を開始した2020年7月23日よりもずっと前の2月に、筆者が横浜市電保存館を訪れたとき、すぐ隣にある(市営バスの)滝頭営業所で、真新しいBAYSIDE BLUEを目撃していたことを思い出す。
さらにBAYSIDE BLUE整備のために作られたといってもよい、日野自動車の幸浦(さちうら)工場が2020年5月初旬に稼働を開始している。国産初の連節バスならではと言えよう。ここには全長約18mの連節バスを、そのまま床下に下げて整備することが出来る「ヨコハマグランドリフト『シンカー』」が設備されている。これは世界初だ。
たしかに筆者がハワイのTheBusの整備工場を取材したとき、「コネクティングバス」は、リフトアップした状態で整備されていた。
また、この特殊な車両を整備する交通局のメカニックの人々も、やはり日野自動車で研修を受けているそうだ。
バスは「みなとみらい21中央地区」→「みなとみらい21新港地区」→「関内」→「中華街」と進んでいく(いずれもエリア名。バス停名ではない)。バスが右に左に曲がるポイントはいくつもある。なかでも小さいロータリーを通過していくところは見どころだ。
ひとつ目は、「パシフィコ横浜ノース」バス停につける直前のロータリーである。ふたつ目は「パシフィコ横浜」バス停につける直前のロータリーである。
ふたつ目の方がきついロータリーのようで、止まれの標識で完全停止した後、やわやわと周回路に進入し、フルステアリングをカマしたまま1周する。
この2か所のロータリーはいずれも右回りとなるので、右側に座ればいい写真が撮れるだろう(連節部に立ち止まることは危険なため禁止されている)。
なお路線を逆方向(山下ふ頭→横浜駅東口)に乗ってきた場合でも、バス停の順序こそ逆になるものの、まったく同様のルートでロータリーを通る。これら二つのバス停は、行き止まりの道路の途中にあるためだ。
終点の「山下ふ頭」
横浜駅東口のバスターミナルを出発したBAYSIDE BLUEは、最後に山下公園を取り巻くようなコースをたどって、世界最大のチャイナタウンである横浜中華街そばの「山下公園前」、そして終点の「山下ふ頭」に到着する。
終点はその名の通り、広大な敷地のずっと向こうに倉庫や上屋(うわや)、停泊中の船舶などが見え、コンテナ輸送の大型トレーラーが走っている。バスを降りると、広い空と港を吹く風の音に気付かされる。
2020年12月にこの山下ふ頭に期間限定でオープンした「ガンダムファクトリー横浜」の動く実物大ガンダムも見える。
じつはこの終点「山下ふ頭」でバスを降りると、その後の選択肢は(ガンダム以外)二つしかない。山下公園へ歩いていくか、それとも逆方向に向かうBAYSIDE BLUEに乗るかのどちらかである。
なぜならこのバス停がある山下ふ頭は、あくまでも横浜市港湾局が管理するふ頭なのであり、本来は関係者以外立ち入り禁止のエリアだからだ。BAYSIDE BLUEの写真を撮ろうと夢中になるあまり、車道に出てしまう人も見かけるが、港湾関係者に見つかると(ホントに)死ぬほど怒られるので注意しよう。こういったエリアは一般の街中とは世界が異なる。
ちなみに、一般人の立ち入りや撮影に関して警備員に注意されるポイントは横浜・横須賀に多くある。在日米軍である。横田空域をはじめ日本の陸・海・空は、実態としてすべてが日本のものというわけではない。令和のいまも米政府関係者は自国の一地方であるかのように六本木ヘリポート等を利用している。
我々は特殊な独立国に生きている。
ところで山下ふ頭バス停には待合のための建物がある。中に入ってみるとズラリと長椅子が並べられた平屋空間で、なんとなく離島に渡る船の待合所のように感じる。それもそのはず、この待合所も交通局ではなく港湾局の管理なのだ。
バスの切符購入やICカードチャージが出来る機械が1台だけ設置されているが、見た目の期待と裏腹にスマートフォンにはチャージできない。トイレはきれいだ(なんとなく船・港湾業界の「寸法感」がある)。
山下ふ頭は現在、カジノ誘致問題も絡んだ再開発計画が持ち上がっていて、政治的にはやや緊迫した場所といえるのかもしれない。しかし、2022年3月末までは実物大の動くガンダムがあるから、今後注目されるスポットとなりそうだ。
関連リンク
横浜市役所で、一杯やってきましたゼィ(筆者投稿)
BAYSIDE BLUE 車両概要
- 車種:日野ブルーリボン ハイブリッド 連節バス
- 事業者愛称:「BAYSIDE BLUE(ベイサイド・ブルー)」
- 全長17.99m、全高3.26m、全幅2.495m
- 車両総重量:24.515t
- 最大軸重:11.805t
- 乗車定員:113名