【2023年2月10日:関連リンクを修正】
【2021年8月5日:内容を一部更新】
本稿の続編をこちらに投稿しています。あわせてごらんください。
今年2020年に完成した横浜市役所では、「一杯やる」ことが出来る。もちろん市役所のフロアで酒を飲めるわけではないのだが、真新しいビルディングの中には、酒を提供する飲食店のほか、様々な店舗やイベントフロアなどが揃い、川辺を望むウッドデッキでのんびり食事することもでき、週末に家族連れやカップルで「市役所に遊びに行く」ことができるのだ。
横浜市
神奈川県の県庁所在地である横浜市は、人口総数3,757,630人(令和2年9月1日現在)であり、前年同月比で9,308人増加している政令指定都市である。
「横浜」と聞いてイメージするのは、ランドマークタワー、赤レンガ倉庫、ベイブリッジ、大さん橋、大観覧車、中華街、明治期以降の歴史を感じさせる建築群、もはや懐かしい場所となった感のある山下公園やマリンタワー、港の見える丘公園、元町界隈、外国人墓地など、すべて港の周辺に広がる地域ではないだろうか。しかし、横浜市は農地も広いし牧場だってあるのだ(マリンタワーは全館休業中。営業再開は2022年4月以降の見込み)。
横浜市の農地は約2,920haというから、東京ディズニーランドのザっと60倍の面積ということになる(平成30年1月1日固定資産概要調書ほか)。牛も14の農場で約300頭が飼育されている(平成27年度末調査)。考えてみれば、横浜開港で外国人居留地が出来るなど、生乳をはじめとした畜産物の需要が高かったという歴史がある。
そんな横浜市の新しい市庁舎が2020年1月に完成した(市役所としての正式移転は6月1日。市としての建物の呼称は「市庁舎」ではなく「市役所」)。
以前の庁舎はJR根岸線の関内駅前で、横浜スタジアムや横浜公園からすぐの立地であったが、1959年(昭和34年)の竣工以来、耐震性の問題や業務の拡大などで手狭になり、今回の新設・移転となった。
アクセスとしては、東急東横線から直通運転されている「みなとみらい線」の馬車道(ばしゃみち)駅が市庁舎に直結しているほか、JR根岸線・横浜市営地下鉄ブルーラインそれぞれの桜木町駅から徒歩5~10分、関内駅からでも徒歩で15分ほどである。
あえて最寄り駅以外で電車を降り、横浜の街をぶらぶら散歩しながら市庁舎へ向かうのもいい。鉄道マニアなら桜木町駅に降り立つしかないだろう。もちろん市庁舎の目の前に停まる路線バスも多くある。
新しい市庁舎は地下2階、地上32階建ての一見なんてことはない、最近ありがちなデザインのビルディングである。まぁ、あくまでも市庁舎なのだから、外観デザインに凝りすぎたり、金をかけすぎたりすれば批判も巻き起こるだろう。とはいえ人工建造物を囲む植栽もキチンと手入れがなされており、調和がとれた空間を演出している。
出入口は1階にいくつもあるが、「横浜市役所」「横浜市会議事堂」などといった厳(いか)めしい表示があったり警備員が立っていたりするので、やや戸惑うかもしれない。
しかし、地下駐車場から地上3階までは、誰でも(横浜市民でなくとも)出入りできる。入口での荷物検査などはないが、手指の消毒設備が設置してある。
楽しめる市役所
新しくなった横浜市役所の建物は、地下に駐車場があり、地上3階までが自由に出入りできるフロアとなっている。最も目を引くのは1階から3階の天井まで吹き抜けとなっている大きな空間「アトリウム」で、様々なイベントが行えるようになっている。上部に照明バトンや吊り物バトンがあるステージも作られ、ピアノが置かれている。
この空間では週末は無料のコンサートや市民団体などが主催するさまざまなイベントが予定されている。個人的には弦楽などの生楽器は聴きやすいが、PA(ピーエー:音響設備のこと。SR=Sound Reinforcementとも)が入ると、どうしても中低域がボワンボワンしてしまうと感じる。
先述したように、市役所に用事がなくとも楽しめるフロアは1階から3階だが、3階は基本的に市役所のオフィスフロアに向かうエレベータ・ホールとなっており、ほかには小さな展示スペースを配した横浜市会議事堂への入口と、外を眺められる「市民ラウンジ」、オープンタイプの喫茶軽食コーナーとなっている。
ちなみに横浜市では「市議会」とは呼ばず、明治以来の「市会」という呼び方をしている。名古屋、京都、大阪、神戸も同じようだ。
市役所に用事がある人はこの3階にある「市役所受付」で行き先を告げ、入館証を受け取ってフラッパーゲート(自動改札)を通過し、高層階や中層階へ向かうエレベータに進むという設計になっている。
さて、筆者がご紹介したいのはもちろん店舗が並ぶ1~2階(一部3階)である。
そもそも、市役所の建物内に本格的な商業施設が入っているという形式は、おそらく全国でも例がないだろう。もちろん土日祝日も営業する。
コンビニエンスストアの「セブンイレブン」やドラッグストアの「マツモトキヨシ」、郵便局などはたいしてめずらしくはないが、リーズナブルな理髪店、横浜のお土産品などを売る店、そして酒も提供する飲食店・レストランが何軒も並んでいるというのはめずらしい。
筆者イチオシは1階「かねせい」
まずは1階。
南側通路には、セブンイレブン、マツモトキヨシ、格安理髪店チェーンのQBハウスなどが並ぶ。ちいさな展示スペースもあり、知的好奇心をそそられる。
そして北西側にある、大岡川の水辺に面した一画に飲食店などが並んでいる。フロアの中央からこの一角に進んでいくと、まず目に入るのはベーカリーとハンバーガーショップだ。FRESHNESS BURGERは筆者の好きなハンバーガーチェーンだが、その看板はトレードマークの緑色ではなく、ここだけは「横浜ブルー」にしているのだそうだ。少し奥に進むとドイツ料理とビールが楽しめる店、横浜ラーメンの店、ミニスーパーがある。
そしていよいよ筆者イチオシの「かねせい」である。ここが「市役所なのに刺身で一杯やれる店」である。横浜中央卸売市場から仕入れた魚を使っており、海鮮丼、昼の定食、そばなどを楽しめる。
厳密には隣に並ぶ洋食店「グリル・エトナ」とともに、地産地消をテーマとした「横浜市場食堂」という括(くく)りである。
セルフサービス方式なので、メニューを決めたらレジで先払いし、出来上がり時に呼び出される番号付きのバイブレーターを持って好きな席に座る。つまりショッピングモールや高速道路のサービスエリアによくあるパターンである。
酒は日本酒、ビール、ハイボール、チューハイ、焼酎などひと通りそろっている。日本酒の一升瓶(一部)は、厨房ではなく客席に置かれた冷蔵庫で冷やされているので好感が持てる。基本の酒は高清水(冷・燗)だが、神奈川の酒や、その時々のスペシャルも用意されている。取材時は「会津中将」と「まんさくの花」であった。
なお、ハイボールはデュワーズを使用しているようなので、好みがある方は注意されたい(筆者は角派)。
本格的?に楽しむなら、ちょっとお高い刺身の盛り合わせがおすすめだが、これをひとりで楽しんでいると注目の的となるかもしれない。ちなみに15時からは500円の「ちょいのみセット」が楽しめる。各種のつまみから一品を選び、ビールまたはハイボール(デュワーズだ)を選ぶ。もちろんお昼の定食もあり、A定食、B定食、日替わり定食が楽しめる。
じつは昼の定食は16時までオーダーすることが出来る。ちょい飲みセットは15時からスタートだ。つまり15時から16時の1時間だけは、この両方を組み合わせて楽しむことができる特別な時間帯なのである。
それから15時以降は、酒肴となる「一品もの」がオーダーできるようになる。その日の仕入れに合わせてホワイトボードに書かれているが、個人的には「おまかせ刺盛3品」680円あたりがおすすめだ。
なおテーブル席は、それぞれの店の専用エリアとなっている。水辺側に並んだカウンター席なら、別の店のものを食べていてもOKだが、椅子が高くコロナ対策用のアクリル板も設置されている。天気がよければ「水辺デッキ」の席に食事を持ち出して風にあたりながら楽しむこともできる。
営業時間は現在、平日8:30~21:00 (L.O.20:00)、土日祝は11:00~21:00 (L.O.20:00)だが、コロナ等の理由で変動する可能性はある。
やや高級感が漂う2階、気楽な3階オープンカフェ
さて、2階に上がってみよう。
1階の飲食店と比べると、やや高級感が増してくる。1階はどちらかといえば同一空間に店舗が並んでいるようなイメージだったが、2階は店ごとに独立空間となっているような配置である。眺めの良い場所の店ほど、おしゃれ度と平均価格が高くなっている感じもする。
この2階にも屋外のデッキがありテーブルが置かれているので、1階同様楽しむことが出来る。寿司、和食、イタリアン、フレンチなど、ちょっと張り込んで楽しみたい方は2階がいいかもしれない。
特に夕暮れころからイタリアンやフレンチの店の窓際に座ることが出来れば、横浜の夜景を見ながら食事を楽しむこともできる。夜は酒も含めて一人5,000円程度以上の予算で臨めば安心だ。
3階に上がると、広い空間に点々と椅子やテーブルが並ぶ「市民ラウンジ」と呼ばれるエリアがある。ここは基本的にはひと休みしたり、景色を眺めたりするような空間だ。そしてここから少し離れたフロアの片隅にオープンカフェがある。400円の各種ホットドッグをはじめスイーツなどが揃っており、ややハワイを意識しているかのような雰囲気だ。気軽に喫茶・軽食を楽しむことが出来る。
なお、エレベータで3階に降りると、3階床下に設備されているハイブリッド免振構造(免振+制振)の一端が発見できる(注:2021年8月に確認したところ覆工板のようなフタが被されており床下を見ることは不可能だった)。
弁当持ち込みOK?
飲食店も多く入っている横浜市役所の新庁舎。ここには平日のランチタイムともなると、市役所周辺の給与所得者たちも陸続(りくぞく)とやってくる。中にある飲食店を利用するだけではなく、自分で作ってきた弁当や、ここの飲食店がテイクアウトで売っているランチボックスを持って、自由に食事している。
1階から3階のイスやテーブルは平日、こうしてランチを楽しむ人も多い。きれいで静かなフロア内や水辺のデッキで弁当を広げても、「大人の状況判断、振る舞い」が出来れば警備員もウルサイことは言わない。
(注:2021年8月に確認したところ、飲食店舗を除いてビル内飲食は遠慮するよう館内放送が流されている)
ちょっと残念に感じたのは、庁舎ビルディングの高層階に、誰もが自由に利用できる展望フロアがないことである。東京都庁や文京区役所では最上階付近は展望フロアとなっている。しかしそのために専用エレベータを設けるとなると大掛かりな話になるし、防災の点からすれば高層階の展望フロアというのはリスクとなりえるかもしれない。
正面玄関となる北側の車寄せは何の変哲もないアッサリとした設計だ。じつはこういったところは下手に凝ってしまうとロクなことはないのだ。何もない空間は、非常時などに臨機応変にアレンジできる可能性を持っている。
敷地内全域にわたって当然バリアフリー設計であり、随所にイスが配され、トイレや授乳室なども充実している。トイレは1か所に大きなものがあるのではなく、小規模なものがあちこちにあるという設計だ。フロア内には補助犬用のトイレまである(利用時申し出制、ペット不可)。
西側を流れる大岡川を望む屋外デッキは「水辺デッキ」と名付けられ、よく手入れされた花が咲いている。北西角には女性の撮影にも使えそうな小さなガーデンがある。また敷地内各所に、横浜の歴史を物語るさまざまな遺構が(ひそかに)配され、説明板も設けられている。
さまざまな人々が自然と集まってくる場所、空間とはいかなるものであるかということを考えさせられる。
秋の彼岸も終わり暗くなるのが早くなってきた今、夕暮れから夜景に変わりゆく「ハマ」の街並みを眺めるのもいいかもしれない。
あ、そうそう、どうしても飲み足りないという方は、酩酊して警備員に連れていかれる前に、野毛(のげ)の飲み屋街や伊勢佐木町あたりに展開して、ジュビドゥヴァ〜な夜を楽しまれたい。
参考リンク
【注】施設点検のため商業施設も含めて全館休業する場合もある。
(公式)誰もが安心・快適に市庁舎をご利用いただけるための取組み
(公式)市役所の賑わいスポットをご紹介!