こんにちは、やや半次郎です。
早速、やや半次郎の世界をお楽しみ下さい。
………………
『遠い夏の記憶』
季節は今、冬の真っ只中である。
夏だった時から90°違った格好だ。
いや180°だったっけ?
何で季節を角度で表現するのか分からないが、何となくこういった表現をするとそれらしく聞こえるから良く遣う。
しかし180°と言うのは言い過ぎのように思えるが、正確に測定するノギスもないので分からない。
角度を測定するのはノギスで良かったよなぁ、確か。
伊藤左千夫の代表作だものね…。『ノギスの墓』と言ってねぇ。
アハハ、アハハ~。(笑)
自分の間違いを笑って誤魔化すのも巧くなった男、37歳。
ただ、この長くて寒い季節を考えると、笑ってばかりもいられない。
そんなことを考えながら、私は西へ向かった。
夕方だから西だと分かったのだ。
何故、町には地図のように方角が書かれていないのか分からない。
それだけが不満だ。
地図と違うのは、やっぱり許せない。即刻、地図に合わせて北に矢印を書くべきだ。
電話が鳴った。
いや、俺ん家の電話ではない。隣の家の電話だ。
そこに居ることは分かっている。早く出ろ。俺が出るのは不自然だろ?
当たり前だが、もうすっかり夏の虫の鳴き声も聞こえて来ない。
ヤツらは冬の間は、幼虫のまま長いこと温かい地中に居るのだ。
確か図鑑にそう書いてあったはずだ。
でもあんまり図鑑ばかり読んでいると熱が出るんだぜ。
…図鑑即熱(頭寒足熱)と言ってね。
アハハ、アハハ~。(笑)
夏が過ぎると夏の記憶は薄れて行く。
ところが、薄れて行くと無性に恋しくなるものなのだ。
その辺りの感情は、頭髪に対するものと同じようだ。
夏の出来事で一番覚えているのは夏休みがあったということだけだ。
夏休みは大好きだった。
40日もあるとワクワクしてあれもやろう、これもやろうと気持ちばかりが膨らんだものだ。
ところが、20日も過ぎるともう半分しかないと思うようになるから不思議だ。
一升瓶の中のお酒と同じで、『もう半分しかない』と感じるか『まだ半分もある』と感じるかの違いだ。
でも誰だって好きな物ならば前者だし、嫌いな物なら後者だろう。
いや、止そう、何を考えても過ぎ去った夏が「こんちは~」と言って戻ってくることはない。
そんなことがあるのなら、もうとっくに夏が戻って来ている筈だ。
あぁ、また考えてしまった。
この間の夏から27年が経っている。
冬になって27年だ。
俺が小学校の四年生、そう年齢で言えば丁度10歳までは確かに夏だった。
ところが今は冬。
俺の住むこの星は、太陽の周りを365日掛けて公転している。
太陽系の地球と言う星と全く同じだ。
因みに、俺たちは地球が大好きだ。
出来ることなら移り住みたいと思っている。
地球の文化も学び、とてもたくさん影響を受けている。
夏休みが40日だったり、地球の作家の本を読んだり…。
我々の姿だって地球上の人間の姿に似ている。
そんな地球と似ている星だが、一つだけ違っていることがある。
それは…、俺たちの太陽は50年輝き続けると、ピタッと輝きを止め、熱も光もない暗黒の世界が訪れるんだ。
それがまた50年続くんだ。
つまり、少なくとも、あと23年は冬が続くと言う訳だ。
だからあまり夏の記憶は無いのだ。
しかも冬はずっと夜な訳だし…。
尤も、もう慣れたけどね。
ただ無性に、他の星が羨ましくなることがある。
特に、全く同じ公転周期を持つ地球と言う星が…。
…いいなぁ、地球。
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