半次郎の“だんごんがん”

要するに、居酒屋での会話ですね。
ただし、半次郎風のフレーバーがかかっています。
≪安心ブログ≫

『選球眼』

2012年07月13日 12時38分16秒 | ★ やや半次郎の世界 ★

こんにちは、やや半次郎です。

早速、やや半次郎の世界をお楽しみ下さい。

………………

『選球眼』

今でこそ、細々と事務員をやっている私だが、その昔は、甲子園を目指した高校球児だった。

あっ、紹介もそこそこに昔のことを語りはじめて申し訳ありません。つい、昔のことになると、舌が滑らかになって…。

私は、この小さな村で観光協会の事務員をやっている、こういうものです。
…『段畑』と書いて“ダンバタ”と読みます。
その昔、そんな名前のダンスミュージックが流行りましたが、あの時はよくからかわれました。
『お前のテーマソングが掛かったぞぉ』なんて言われて…。

あっ、またやってしまいました。そんな話は、どうでもいいですよね。
その高校球児だった頃の私は、選球眼だけは誰にも負けなかった。
実際、私はバットを一度も振ることなく、四回の打席全てをフォアボールで出塁したことがあるんです。

私の選球眼の良さは遥か遠く、隣の村まで届いていたんです。
だから、相手の投手が私を意識して、勝手に自滅するんです。

あの頃が懐かしいなぁ。
もうかれこれ、50年以上も前の話だ。

………

えっ、年齢はいくつかって? 若く見えるって?
そんなことはなかろうて?
こんなジイ様を掴まえて…。

ワシはのぅ、今年でもう70歳になる。あんた方より、二回りは上じゃろうて。
えっ、さっきまでそんな口調じゃなかったってか?
いやいや、せっかく訪ねて下さったお客様には、丁寧に話さねばならんからのぅ。普段は、こんな口調なんじゃよ。

ホントに70歳かってか?
そりゃあ、あんまりだべさ、お客様。わしゃ、若く見えるけんども、年齢を誤魔化すなんてことは神に誓ってしておらんのじゃ。
しかし、運転免許も持っておらんから、それを証明できるものは何もないけんど…。

えっ、どうも口調がワザとらしいってか?

ワシはのぅ、普段、独りじゃで、あんまり人様と話をする機会がないからじゃろう。

えっ、髪の毛も黒くフサフサしているし、顔にシワがないってか?

これは有り難いこって…。(汗)
ワシはなぁ、この歳になっても20代の頃とそれ程変わっておらんのじゃ。
不思議じゃろ?

………

「段畑さん、お茶が入ったわよ。先に休憩して頂戴。」
「忝ない。」

えっ、段畑さんは70歳かって?
そんな訳ないじゃん、見れば分かるでしょ。まだ23歳よ。この間、大学を出て就職して来たばかりだもの。
あなた達、騙されてるのよぉ。何でも、段畑くんは演劇部だったらしいから、また新しい役かなんかを試してるんじゃないの。
もう直ぐ、休憩が終わるから、それまで待ってると、面白いものが見れるかもよ。

………

「休憩が終わったから、交代するでのぅ。」
「あっそう、段畑さん、じゃぁお願いね。ぷ~ッ。(笑)」

最近、トンと目が悪くなってのぉ。お客さん方はどこへ行きなさる?

えっ、髪の毛が白くなって、しかも薄くなってるってか?
いやいや、そんなに直ぐに変わらんじゃろ。

えっ、それに顔にも皺が出来たってか?
そんな無茶な。

シワを書いて、カツラを被ったんじゃないかってか?

そんな訳なかろうて。(汗)

それじゃあ、子どもの時分に流行った歌を歌えってか?
あんまりよう知らんが、こんな歌があったな…。
♪目を閉じて何もみえずぅ、悲しくて目を開ければぁ…。
♪すらばぁ~ッ、さばるぅよ~!

えっ、そんな歌は当時なかっただろうって?

ドキッ。(汗)
サビの歌詞を変えたのに…。

えっ、ワシの本当の年齢は23歳じゃないかってか?
お、恐ろしい。ど、どうしてそれを…。

どうやら見破られてしまったようですね。
何を隠そう、私段畑は23歳独身、経験あり子どもなしの男です。

今まで私のこの演劇部仕込みの変装を見破った者はいません。

いやはや、あなた方の“選球眼”も、大したものです。

From 半次郎



最新の画像もっと見る

post a comment