こんにちは、やや半次郎です。
台風が消滅しホッとしている方も多いと思います。
その勢いで、やや半次郎がお届けする可笑しな世界をお楽しみ下さい。
………………
『遠い記憶《後編》』
ビールの次は日本酒にしよう。
僕は日本酒を冷やで注文した。
銘柄は特に指定しなかった。
このボードが勝手に判断して出してくれるのだ。
つまりお勧めだ。
おっ、出て来たぞ。
今日のお勧めは何かな?
おぉッ!
こ、これは、“黒松能鷹”じゃないか!
僕が贔屓にしてる酒だ。
こりゃあ、いい。
コップでいいよ、お猪口はすぐに注がなきゃならなくなるから忙しいや。
コップに注いで…と。
ゴク、ゴク、キュ~ッと、あぁ、美味い。
平目、平目、酒。
鰹、酒、中トロ…。
思えば、この時代が一番良かったな~。
やっぱり、この時代の料理はシンプルながら最高に美味い。
まだ汚染もされていなかったしな。
この星がかつてヒトと呼ばれる生き物に占領されていた時代の食の遺産だ。
だが、奴らは自分たちがこの星の支配者だと勝手に思い込み、傍若無人な振る舞いを続けて…結局、自滅してしまった。
支配者になるための選挙も何もやっていないのだから、恐れ入るよ全く。
今からじゃ考えられない愚行だ。
だって今なら、全生物の過半数の賛成がないと支配者になれないんだ。
木々や草花だって意思を持っている。
鳥や獣、魚だって、みんな自分の意見を持っているんだ。
その証拠に、彼らは決して、汚れた場所には近寄らないじゃないか。
…今ではもう、これだけの食材はどんなにお金を払っても手に入らない。
こうして機械で分子構造を再現して、本物だと思い込むだけだ。
平目、鰹、酒。
中トロ、酒…。
少し酔っ払ってきたかな。
何だかありったけのことを、残らず全部喋りたくなってきた。
僕らはこの星が誕生した時からここに居る。
ざっと46億年前だ。
僕はまだその時には生きていなかったから、その当時のことは見ていないが、父や祖父がよく話しをしてくれたから、知識としてはインプットされている。
祖父は星の歴史に詳しく、過去の文献を幾つも読んでいて、この星のことをよく知っていたんだ。
だから僕も、この星のことを、祖父からいろいろと教わった。
祖父は、この星が気に入ったらしく、任務が終わっても、ずっと居続けた。
祖父が生きていた頃は、まだ人間なんて居なかった頃だ。
祖父が退任してから、祖父の任務を父が受け継ぎ、父がこの星の監督に就任した。
監督というのは、この星の生物が我々の意図通りに進化の道を辿っているか、違反や他の星からの妨害がないかをチェックする仕事だ。
祖父や父の時代は、まだ植物だけだったり、動物が出現するようになっても、下等な動物だけだったから問題ないが、僕が父の後を継ぐようになって、かなり忙しくなった。
それと言うのも、父の時代に出現したヒトと言う生物が、僕の代になってかなり危険な知識や技術を手に入れるようになったのだ。
悪しき進化が始まったのだ。
僕は、日増しに忙しくなっていった。
そんなある年の夏、人類に悲惨な事件が起こったのだ。
彼らが核を使って戦争をしてしまったのだ。
人類は核を兵器にするところまで落ちてしまっていたのだ。
僕が毎日チェックしていたにもかかわらず、全く食い止めることが出来なかった。
被害は相当なものだった。
人類はほとんど壊滅状態だった。
でも、この星は何とか再生することが出来るレベルだったのだ。
だからこの星を再生させる為に、僕は僕の管理している全てのエネルギーを調達した。
僕はまだ若かったけれど、腹を括ったんだ。
この星の為に、生命を賭しても良い…と。
そして再生装置のボタンを押したのだ。
再生の瞬間は、相当なエネルギーが放出される。
そのエネルギーが、この星の生き物全てに向かって降り注いだ時、どうやら僕は気絶してしまったらしい。
相当強いエネルギーだった。
そのエネルギーは、この星の全ての生物を消し去ったのだ。
そしてこの星は、生まれた時と同じ状態にリセットされた。
思い出した。
僕が泣いていたのは、人類の最後が余りにも呆気なかったからだ。
けっして短くない年月を掛けて育んで来た人類が…。
この星を再生し、同じような生物を…、いやもっと優秀な生物を生み育てるまで、また46億年待たなければならないと言うことだ。
あっそうだ、この星より先に、この系の恒星や他の惑星が死んでしまうと後々マズいことになるから、全てを46億年分だけ若返らせておく必要がある。
早速、取り掛かるとしよう。
こちらはダメージがある訳ではないから、それ程エネルギーを要さない。
それにしても、この星がこんな運命を辿るなんて、誰にも想像出来なかった。
どこで間違ってしまったのだろう?
生まれ変わった今度こそは、成功させたいものだ。
もう失敗は許されない。
46億年か…。
正直、気が遠くなる。
僕らの人生は、個人差があるが、たかだか僅か2億年だ。
この星が生きて来た時間に比べて、遥かに短い。
…限りある人生。
どうなるものでもない。
このまま堅苦しい任務を抱えたまま、短い一生を終えるか、それとも…。
この任務を放り出し、自由気ままに残りの人生を、やりたいようにやって過ごすか…。
個人差があることだが、僕に残された時間はあと五千万年程だろう。
身体が動く内に、残りの人生を楽しんでおくとしよう。
Goodbye an earth!
By やや半次郎
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