日々の便り

男女を問わず中高年者で、暇つぶしに、居住地の四季の移り変わりや、趣味等を語りあえたら・・と。

河のほとりで (16)

2024年11月13日 06時40分30秒 | Weblog

 江梨子から、二人姉妹の長女として家を継ぐ宿命に置かれた苦悩を聞かされ、思わぬ難問を打ち明けられた奈津子は
 「そうなの~、資産家の子として経済的に恵まれていると客観的には羨ましく思えたが、世の中金銭だけでは解決出来ないこともあるのねェ~。貴女の悩みはよく判ったヮ」
と、彼女の立場に同情したあと、如何にも奈津子らしく、瞬時に彼女の遭遇している現実の苦悩を察して
 「貴女には、いま時間が最も大切ョ」。”時が解決する”と言う諺があるが、いまは精一杯、青春を楽しむことョ」
と励ましたが、江梨子は少し正直に話して迷惑をかけてしまったかと思いながらも、この際、先行きのことも話して今迄通り友達関係を続けたい思いから、家庭の事情について更に詳しく話しを続けた。 

 母親や友子は「妊娠したら、さっさと会社を退職して帰って来なさい。それが上京する際の約束で二人を会社に入れたのだし。その様になった場合い自分達が、どんな面倒でもみてあげるから・・」
と母親に口五月蝿く言われた話をしたあと、更に続けて、今度は自信に満ちた声で
 「わたしは、仮にョ、何らかの機会に妊娠しても、田舎には絶対に帰らないヮ!
 だって、わたし一人で帰れば、まるで未婚の母みたいじゃない
 それに、遠く離れた彼との別居生活なんて、わたしの精神生活は勿論のこと、胎教にも良くないでしょう」
と、自分の考えをはっきりと話し、小島君が仕事と生活に自信を持つまで、例え母親に多少抵抗しても今の会社で頑張ると、堅い決意を話して二人に理解を求めた。

 奈津子は、江梨子の話を聞いていて自分の立場と織り交ぜて
 「そうだヮ 江梨ちゃんの言う通り、幾ら家庭の事情があるにせよ、少しでも自分の理想を貫くことが、これからの時代には、女性として幸せに生きる一番大切なことだとおもうゎ」
と彼女の意見に賛成し
 「生きるとゆうことは、難しいことだわねェ~」
とテーブルの上を箸で軽く叩きながら深い溜め息をついた。 
 黙って聞いていた理恵子には、なんだか遠い世界の話としか思えなかった。

 江梨子の、表面にわ現さないまでも胸に秘めた苦悩を聞き終えて、話しは自然に理恵子のところに回って来た。 
 理恵子は、それまで奈津子の現実的な生き方や、江梨子の厳しい生活環境に置かれても、自分の生活に目的意識を持って日々努力している話を聞いて、自分が上京以来一番全ての面で遅れていることを胸が痛むほど思い知らされ、自身が情けないと思つた。

 そんな思いに耽っていたところに、奈津子が理恵子の心を見透かした様に
 「理恵ちゃん、貴女は織田君に逢っているの?」  「二人の関係は高校卒業以来順調に進んでいるの?」
と、半ば不安感を漂わせた表情で聞いたので、彼女は俯き加減にテーブルの上で両手の指を絡ませながら、特に話をして聞かせることもないので、一寸、思案の末思い当たるままに、か細い声で
  「貴女達もお判りの通り、彼は母親が一人で営むお店の事情から、なるべく生活費位は自分がアルバイトで稼ぎ出さなければと、土・日曜日は専攻する学科に関係する建築の現場にアルバイトに出ており、まだ、一度も逢っていないゎ」
  「それは、たまに彼の方から携帯にメールをくれるが、私の方からは、お仕事が忙しいそうなのに迷惑になってもと思い遠慮しているので、正直、彼の詳しい生活模様は判らないわ」
と、力無く答えると、奈津子が
 「こんなことを言っては貴女に失礼ですけれども、貴女の生い立ちは複雑で気の毒ですけれども、現在の御両親は思いやりがあり、とくに、お母様は近郷でも大変に美しく優しい人と評判で、そのうえ高い教養もあり、それに若いわたしらが言うのも、大変おこがましいことですが、偶然とは言へ永い歳月を辛抱強く耐えて山上先生との恋を実らせた意志の強い看護師さんであり、貴女も可愛がられており本当に幸せ者よ」
  「織田君も、貴女の御両親に大切にされていて、貴女達の交際を暖かく見守っていてくださるし、織田君と少しでも逢える様にと、わざわざ東京の美容学院に入学させてくれたんでしょう。感謝しなくては・・」
と、自分が話すことを代弁するかの様に話し出し、更に、理恵子がもどかしく思えたのか強い口調で

  「だいたい、貴女は一人っ子で生活環境から性格的に内弁慶なのよ。  一度もデートしてないなんて、何のために上京したのよッ!
 理恵ちゃん!アノネェ~、彼のあの野球で鍛えた立派な筋肉質の青年を、ほかの女性が憧れて狙っているかも知れないなんてことを一度でも考えたことあるの?。
 東京には、その様な女性が沢山おり、貴女、心配にならないの?。 
 貴女、余りにも甘チャンで純情すぎるのョ。
 彼も、何かの弾みで魔がさして少しでもその様な女性に一度でも手を触れたら、心ならずも理性を失い、あの体格から発露する性欲を制御することができず、そのうち彼女の方も離れがたくなってしまい、結果、貴女達のこれまで育んできた愛も全てが終わりになってしまうのよ。
 貴女が不幸にして失恋しても、わたし達はじめ誰もが助けられないわ。貴女失恋の苦しさに耐えられる?
 脅しでいっているんでないゎ。
 お母様の教えかも知れないが、彼を本当に好きなら勇気を出して彼に全てを捧げるべきよ。こわいことなんてないわ。
 女性は、何時かは越えなければならないことなのよ。綺麗ごとだけでは彼を繋ぎとめられないと思うわ。
 わたし、大学でその様な現実を見てきているだけに、貴女のこと本当に心配になるヮ。
 何故、もっと大人の女性らしく、現実の社会における男女の微妙な問題に目をむけないの。
 貴女ときたら、私、ジレッタク なるくらいだゎ。」

と、奈津子は眉間に皺を寄せて半ば本気で怒り気味に理恵子に対し忠告すると、理恵子は尊敬して慕っている彼女の厳しい話だけに少なからず心が揺らいだが、その実本能的に織田君にかぎって「まさかぁ~」と小さく呟いたら、傍らで黙って聞いていた江梨子も追い討ちをかける様に
 「理恵ちゃん、奈津ちゃんの言うことはほんとうだヮ。
 先程も話したとおり、わたしも、出張先で宴会のあと宿泊するときなど、怖い目に何度もあっているが、世の中には女性を単なる性的欲求のはけ口と思い、また、それに騙される振りをして生活をしている女の人達もおり、全く油断も隙きもナラナイヮ」
と、なんとか理恵子に自分が体験した男女間の現実の機微を判らせようと経験談を真剣に聞かせていた。

 理恵子は、二人の話を聞いていて、理屈では理解できるが、実際に積極的に行動できない自分が情けなくなり、二人の話から不安感も心をよぎり涙をこぼしてしまった。
  
  

コメント
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