日々の便り

男女を問わず中高年者で、暇つぶしに、居住地の四季の移り変わりや、趣味等を語りあえたら・・と。

河のほとりで (24)

2022年11月30日 05時40分31秒 | Weblog

 梅雨明けの夏の陽光が容赦なく照りつける土曜日の昼下がり。
 理恵子は、織田君の家に明日伺えるとゆう嬉しさから心が弾み、久し振りに時々通う近くのテニスクラブに出掛け様としたところ、珠子も「わたしも一緒に連れて行って」と言われ、二人でラケットを持って出かけた。
 珠子は、常に運動をしている上に、運動神経も優れており、二人で渡り合ったが、彼女は長いことしていても息が上がらなかったが、理恵子は運動不足のせいか先にくたびれてしまい、2時間ほどして帰宅した。  
 
 汗を流したあとは気分も爽快で、廊下の椅子に腰掛けて雑談を交わしていたところに、大助が野球の練習から疲れた素振りで帰ってきて、二人の傍に腰掛けて黙って二人の話を聞いていたが、理恵子が
 「列車の混雑しない10日ころ、田舎に帰る予定にしているんだけど」
と言い出したら、大助は途端に元気を取り戻した様に
  「理恵姉ちゃん、ほんとぅ~。こんな暑い日は、あの田舎の大きな川にザブンと飛び込みたいなぁ~」
  「織田のお兄さんも帰るんだろ~」「サワガニの唐揚げはうっまいからなぁ」
と言って嬉しそうに笑うと、珠子も
  「わたしも、とっても楽しみにしているヮ」 「兎に角、あの盆踊りは郷愁があって、やっぱり都会では味会えない独特の雰囲気があるわネ」
と、待ち兼ねている様に喜んだ。

 夕食後、大助が母親の孝子に対し、城家の毎年恒例になっている、理恵子の田舎に遊びに行く予定を話すと、孝子は理恵子に
  「わたしは、今年は病院の都合で行けないヮ」「二人を宜しくお願い致しますネ」
と残念そうに言うので、理恵子は
  「仕事を持つとゆうことは、大変なことなのネ」
と同情したあと
  「わたしや両親が、お世話するので安心してください」
と慰めた。 孝子は大助に対し
  「お姉ちゃんは心配ないけれども、あんたは、お調子者で親として少し心配だが、お姉ちゃんの言うことをちゃんと聞くのょ。それが条件だわ」
と注意したら、 珠子は母親に同調して強い口調で
  「そう~ョ、判ったわネ」
と念を押すと、大助は
  「大丈夫、ダイジョウブ ゴシンパイムヨウ!」
と言って、孝子や珠子の忠告など何処吹く風とばかりに笑っていた。

 理恵子は、この前の夜の話もあり、遠慮気味に小母の孝子に対し
  「アノ~ォ、明日の日曜日に、織田君の家に行こうと思うんですが・・」
  「わたし、彼の家に行く道順が良く判らないので、珠子さんに案内していただこうと思うんですけど。宜しいかしら」
と話すと、孝子は
  「この前、等々力とか言ってましたね」
と言って、更に
  「あの辺は自分も最近行ってないが、おそらく最近は開発されていて地図だけでは不安でしょうネ」 
  「珠子も、夏休みで家にいるので、結講ですよ」
と気持ちよく返事をしてくれたが、すかさず、大助が例によって目をパチパチさせて
  「最近、ニュースでは時々女の人が刃物で襲われると報道されているが、若い女の二人が家を探すためにキョロキョロしていると不審がられて、物騒だよ」
 「僕が、一緒について行ってあげるよ」 「この暑さでは、皆、脳が可笑しくなっているからなぁ~」
と、最もらしく言うので、母親の孝子も大助の言うことも一理あると思い
  「そうだはネ」「どうせ大助も家で碌に宿題もせずゴロゴロしているんだから、一緒に行ってあげなさい」
  「あなた達は、織田さんの所は初めてなので、家にはお邪魔しないことョ」 
  「帰りには付近の上野毛公園を散歩してきなさい」「木々がこんもりと繁茂していて、涼しいかもョ」
と話すと、大助は
  「ウエ~ お姉ちゃんとか。何か美味しいものを奢ってくれよ」「それと帰りの散歩中に、やたら僕を怒らないでくれよ」
  「背が高くイケメンの僕が、年上のオンナノコとデートしていると、行き交う人に見られる僕の辛さを考えてくれよ」
等と言うと、珠子も負けずに
  「なに言っているの。本当はタマコちゃんと、デートしたいのでしょう」
と笑って答えると、大助は
  「いやぁ~ご免 ゴメンだ、小遣いもないし・・」
と手を顔の前で振って笑っていた。

 理恵子は、少し不安に思っていたことを、孝子が先取りするかの様に話をしてくれたので内心ホットして、珠子を自分の部屋に誘い、明日の朝、お弁当に海苔巻きをつくることや、途中で織田君の下着と洗剤や消臭剤それに花瓶とお花等を買って行くことを話した。
 
 珠子が、部屋を出ると早速、織田君に電話して
  「明日は、必ずお邪魔しますからネ」 「休日だし、お家にいるでしょうネ」 「もう、準備はしてしまったヮ」
と告げると、彼は相変わらず少し太い声で
 「いや~ぁ、申し訳ないが、午前中だけ会社に行かせてくれ」 「休日でも、急ぐ仕事があるので」
 「暑いところ大変だが、途中気をつけて、先に家に入っていてくれ」 「午後1時頃には、必ず帰るから・・」
と、返事をしていたが、声色から察して彼の返事は間違いないと納得して
 「いいゎ。暑いのに大変なのネ」 「勝手にお邪魔して、お掃除をさせていただくヮ」 「なんだか、今夜は良い夢を見られそうだヮ」
と、嬉しさがこみ上げてきて、明るく弾んだ声で答えた。

  

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

十五夜の名月に思いをよせて

2022年11月27日 04時20分52秒 | 青い山脈

 戦後、焼野原で小学校を終えて以後、食糧難・就職難・肺結核・など過酷な試練をなんとか潜り抜け、晩年に至や大腸癌に遭遇し医師に余命3ケ月と宣告されたが奇跡的にアノマリーで生き延びてきて、幸か不幸か判然としないまま86歳を迎えた。 
中秋の先日の宵、越後平野は珍しく晴れて、神々しい名月を”これが人生最後の十五夜か”と思いつつ手をあわせた。 名月を拝してこんなに神妙な気持ちになったのも生まれて以来初めてだ。 壮年時代アポロのニュウスを見て感動したが、その時は科学的な感動だけで、今回のように純粋に宗教的な感動に揺さぶられたのは、正に老いてゆく者の自然な宿命のなせる業と思った。
 「歴史は巡る」と言われるが、最近の時局ニュウスを新聞・TVで視聴するに
 ① アメリカの保護主義優先 ②韓国の孤立的な民族主義 ③東欧の極右主義の台頭 ④中東の宗教的対立 ⑤英離脱問題 等
なかでも、米中の貿易関税問題→通信覇権問題→中国の構造問題と発展する政治的対立は、根本的には国家体制のイデオロギーに由来し、結局は世界経済を不確実性と追いやり、やがては1930年初頭の大不況の再来へと勝手に危惧してやまない。
 人類の積み重ねてきた”知恵”を忘れ、戦争の愚かさを知らず机上の空論に踊らされいる”知識”のみの世代が悲しい。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

河のほとりで (23)

2022年11月27日 04時17分54秒 | Weblog

 理恵子は、帰宅後シャワーを浴びたあと浴衣を着て居間に入ると、病院から帰宅していた小母の孝子と珠子や大助が、彼女を待ちかねていたかの様に、大助がアイスコーヒーを飲みながらニコヤカナ笑顔で「ドライブは楽しかった?。何処まで行ったの」と聞いたので
 「二子多摩川よ。都会に住んでいることを忘れさせてくれるほど景色の眺めがよく周辺も静かで、川の流れもゆったりとしていて、川原の芝生も柔らかく、大ちゃんのお陰で、とっても素晴い一日を過ごさせていただき、言葉で表現できないほど、気分が晴々としたドライブだったヮ」
 「こんなに楽しい日が過ごせるなら、今まで思い悩んでいたことが、何んだったのかと不思議なくらいだヮ」
と、半ば興奮気味に話すと、孝子小母さんが
  
 「わたしも、遠い昔、看護師になるなめ、これからどうなるのかと不安な気持ちで、わたしより先に上京し看護学校を卒業して自活していた、あなたの母親の節子さんを頼って上京し看護学校に入学したころ、休みの日には、誘い合わせては二人で、よく上野毛公園やその付近で散策しながら、節子さんと生活や仕事のこと等色々相談したもんだゎ」 
 「その頃の多摩川は水も澄んでいて緋鯉が泳いでいるのが見えるくらい綺麗で、それに付近が今ほど開発されていなかったこともあり、今よりずう~と静かで川向かいの川崎には稲田も広がり、田舎風のおもむきがあり郷愁を誘われたゎ」 
 「そうネ、大助流に表現すれば、武蔵野の面影を残していたヮ」
  「この子達の前で言うのも可笑しいが、婚約したときも、あの付近を二人で散策して歩いたが、理恵ちゃんが、同じところをドライブするなんて不思議な縁だわネ」
と、壁に掲げらている亡き主人の写真をチラット見て、遠い昔を懐かしそうに想いだしながら話してくれた。

 大助が「ワァ~ 母さん、素敵!」と手を叩くと、例によって片目をパチパチさせながら
  「珠子姉ちゃん、早く恋人を見つけて母さんや理恵姉ちゃんの様に、僕の手本になる様なデートをしろよ」
  「なるべくなら、僕に小遣いを沢山くれる人を選んでナッ!」 
  「僕の一生を左右することなんだから、頼むぜ」 
と言って両手を合わせニヤット笑ったあと、新聞か週刊誌の読み過ぎか、調子に乗って口を滑らして
  「けれど、赤ちゃんを産んだあと、離婚してこの家に戻って来ることだけは御免だぜ」 
  「僕は、姉ちゃんも判るとおり、おそらく大人になっても人並みの生活能力を身につける自信がないので・・」
と、真面目くさって話したところ、すかさず珠子から
  「生意気言うな、この ニキビボーイ が。 だから、そうならない様に勉強するのよ」
と怒られて拳骨をくらい、大助が
  「イヤ~ッ また、城家の惨酷物語だッ!」 「これでは、恋人も怖くて逃げ出してしまうわ」 「脳挫傷になったみたいだ」
と大袈裟に言って両手で頭を抱えたが、孝子も呆れて険しい顔をして
  「大助、例え冗談でも、そんなことを言うものではないよ」
と注意していた。
 それでも城家の夕食は和やかな雰囲気に包まれ、理恵子も昼間の感激もあり心が安らいだ。

 理恵子は、夕食後、自室に戻ると椅子にもたれて遠くの夕焼け空を見ながら、織田君と話したことを思い出していたが、嬉しさを抑えきれず、奈津子さんに携帯で今日の出来事を話したら、奈津子は
  「そ~ぉ、良かったわネ」 「やっぱり、故郷を遠く離れていれば、あなたも少しは積極的にならなければ、心が通わなくなるものョ」  
  「きっと、織田君も嬉しかったのではないかしら」 「部屋の鍵を渡してくれるなんて普通ではないことョ」
  「わたし、本で読んだことがあるが、理恵ちゃんみたいな細身の女性は、男性にとって抱き心地が良いらしいってゆうわ。フフッ」 
  「織田君も、わたしの兄と同じように、体格が良く押しつぶされない様にネ・・フフッ」 「その点、なんだか羨ましいヮ」
と、いかにも彼女らしく笑いながらもユーモアを交えて自己の体験と感想を卒直に言ぅので、理恵子は
  「アラ~ッ 奈津ちゃん、想像逞しくおしゃるのネ」 「あなたには、いつもやり込められ、わたし降参だヮ」
  「彼も、あなたのお兄さんの様に、上京後は口髭を生やし、川で身体を拭いているときにチラッと覗き見したら、胸や足が毛深く、それに陽に焼けていて頑丈そうで、一瞬ドキッとするくらい怖く感じたヮ」 
  「最も、高校時代から腕や足が毛深い方だったけれども・・」
と、奈津子に釣られて、少しHな話かなと、ためらいつつも返事をすると、彼女は冷静な声で
  「果たしてこの先、どの様な物語になるのか判らないが、幾ら恋人とはいえ、男性の部屋を訪れるとゆうことは、あなた達にとって記念すべき日になることは、多分確かだと思うヮ。 どの様なことがあっても、彼に素直に従い二人で幸せになることョ」
と、現実的に起こりうるかも知れないことを何時もの様に諭す様に答えていた。  
 理恵子にしてみれば、すでに何度も考えて、若し織田君の激しい求めに応じて彼を受け入れる様なことがあっても、その心の準備は出来ており、バックの中の鍵をいじりながら興奮した気持ちでお喋りをした。
 江梨子にも電話をと思ったが、奈津子の話が強烈であったので、いずれ話をしようと考えて止めておいた。

 その夜、ベットに入ろうとしていたら、小母の孝子がノックして部屋に入って来て、普段見られない冷たさのあるベテラン看護師の表情をして畳みに座ると、静かな口調で
  「さきほどのお話の続きだけど、あなたも承知していることと思いますが、以前から、あなたの母親の節子さんから、これだけはどうしても、あなたに厳しく教えておいて欲しいと頼まれ、わたしも責任を持って教えておきます。と、お返事をしていたことですけれど・・」 
 「勿論、娘の珠子にも、早い機会に同じ様に教えてありますが・・」
と言って、小さい不透明で蜜封した封筒を渡され、更に続けて
  「わたし病院で用意しておいたものですけど、女性は生理的に難しいこともあるので、必要が生じたら、使ってくださいネ」
  「今度からは、自分で薬局に行き、準備しなさいョ」 「離れた薬局で購入すれば、恥ずかしいこともないので・・」
  「女性にとっては、生理的にどうしても必要なことであり、勿論、積極的に勧める訳ではないので誤解しないでね」
と、極めて事務的に話したあと、何時もの和やかな表情で「織田君の気持ちを確かめられて、良かったわネ」と言い残して部屋を出て行った。 
 それは、看護師が患者を諭す様に、冷たい様な話しかたの中にも暖かい気遣いが感じられ、同時に、先々の生活に心配りしてくれている節子母さんの優しい思いやりが嬉しかった。



  

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

河のほとりで (22)

2022年11月23日 03時52分30秒 | Weblog

 理恵子は、普段は胸に留めていた織田君に対する不満や愚痴を言ったあと、これだけは聞いてはいけないと常に考えていたことも、織田君に話をしているうちに、寂寞感と現在と将来に対する不安感がない交ぜになって、どうしても聞いておきたい一念にかられ、心の中ではその様なことが無いことを祈りつつも、彼の顔を見ずに震えるように小声で、思いきって
  「あなた、女の人の肌に触れたことがあるの?」 「若し、あったとしても、この体格ですもの、私、あなたを攻めないヮ」
と、彼の腕に両手でしがみつく様にして身を寄せて聞いてしまった。 

 
 織田君は、黙って時折遠くを見ながら聞いていたが、彼女の話が終わったころを見計らって、黒く輝いた瞳で彼女の顔を見つめ、今まで見たこともない厳しい顔をして、ゆっくりと諭す様に
  「リーも、僕の現在の境遇を知っているだろう」 「それなのに、どうしてその様なことを聞くんだい?」
  「僕達は、そんなに安ぽい恋愛だったのか。と、僕の方が驚いているくらいだよ」 
  「奈津ちゃんや江梨子ちゃんは、皆、それぞれの道を、自分達の目標に向かい歩んでいるので素晴らしいことだが、僕達には僕達の歩む道があるんだよ」 
  「何も、彼女達と同じようにと焦って考えることはナンセンスだなぁ」
と言った後、続けて
  「僕達位の年齢になれば、それはSEXも、二人の愛を確かめるために必要な手段かも知れないが、それだけが人生の目的ではなく、僕達の間では、自然にその機会が訪れるものだと思っているよ」 
  「確かに、若くて容姿の綺麗な女性に遭遇したとき、理性が迷いそうになることもあったが、お前の気持ちを思うと例え遊びであっても許されないことだと思い、それらしき誘いがあっても思い留まって、指一本触れずに過ごしたことも何度かあったよ」 
  「同僚には、お前は固すぎる。古い生き方だと冗談に言われ、からかわれもしたし・・」 
  「だけど、若くて健康的な男性なら、その様なことは誰しも経験していると思うよ」 
  「中には実際に行きずりの一夜の恋として、行動に出た者もいるし・・」 「然し、行動に出ることはともかく、そんなことを考えることは罪でもなく、成熟した生物である男性の自然なことだと思うがな」  
  「リーは僕の考えをどう思う」 「考えることも嫌らしいことかい?」
と、彼らしく自立した生活を優先する従来からと変わらない彼の考えを、胸に刻み込む様に一言も漏らすまいと聞いていて、彼にも悩みがあるんだなぁと思い、自分達のために自然な欲求を殺してまで生きる彼に一層慕情がこみ上げてきた。 
 彼は、理恵子が「わかったヮ」と小声で返事をして頷くと、彼は普段の顔に戻り、更に続けて
  「お盆に帰る前には、社長の好意で多少ボーナスも出るし経済的に余裕が出来るので、箱根にでも遊びに行くかぁ~」
と、少し笑顔を交えて彼女を慰めるかの様に言うので、理恵子は
  「わたし、少しは貯金があるので、早く行きたいヮ」 「何処でもよいので、あなたの選んだところで、思いきり遊んでみたいヮ」
と言うと、彼は苦笑して
  「まだ、生活力もない、リーのお金で遊んでは、男がすたるよ」
と言って笑い相手にされなかった。

 理恵子は、彼の生活に少しでも役に立ってあげたいとゆう思いと、彼に「次に逢えるのは何時?」と聞きずらいので、思いきって
  「ネェ~ 今度、織田君の宿に行ってもいい?。邪魔にならない様にするから」 「いいでしょう、地図を描いてョ」
とメモ紙とペンを出して話すと、彼は
  「ウ~ン それはまずいなぁ」 「それに、独身専用のワンルーム・マンションで狭く、似たような家並みが並んでいて探すのに大変だよ」
と渋い顔をしたが、今度は彼女も本来の明るい声で、彼の脇腹をくすぐる様にして、なんとか納得させようと、いたずらっぽく皮肉を込めて
  「アラッ 見られて悪いとゆうことは、怪しいことでもあるの?」 「もう、わたし、少し位のことでは驚かないヮ」
と、いたずらっぽく笑って催促し、今度は彼の頬を人指し指で突っいて、返事をするまで止めないので、彼も返事に窮して
  「凄く汚れているよ。なにしろ、掃除なんか、たまったにしか、していないから・・」 
  「それに、洗濯物も大分溜まっていて部屋の中が息が止まるくらい臭いよ」
と、なんとか断ろうとしたが、彼女は奈津子にもっと積極的に行動しなさいと忠告されたことを思い出し
  「あなたが留守でも、お邪魔してお掃除や洗濯をしてあげたいの」 「ネェ~ たまには、わたしにも、我侭させてよ」
  「わたし、珠子さんや大助君に家を探す道案内をして貰うヮ」 「何時がいいの?」 「わたし、もう決めてしまったんだから」
と、飽くまでも諦めないので、彼も観念したのか
  「しょうがないなぁ~」 「今度の日曜日にするか」 
  「ただ、珠子さん達を家に入れないでくれよ。見せられたもんじゃないワ」
と渋々ながら返事してやっと承知したが、彼女が念を押す様に、彼の小指に自分の小指を絡ませながら
  「当日、急用が出来たと言って、断らないでよ」 「お昼のお弁当は、わたしが用意して行きますから」
と、さっさと決めてしまったので、彼は約束は守るとゆう意思表示のつもりで、キーホルダーからマンションの予備の合い鍵をはずして渡したら、彼女はやっと安心して「無理を言って、御免なさいネ」と嬉しそうに鍵を額の前で恭しくかざしたあと大事そうにバックに仕舞いこみ微笑んだ。
 
 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

河のほとりで (21)

2022年11月19日 03時24分42秒 | Weblog

 織田君は、玄関先で珠子さんが用意した冷えた緑茶を美味しそうに口に含むと、一息おいて近況を簡単に話したあと、ころあいをみて「ヨシッ 行くか」と言って立ち上がり、玄関前で黒塗りの大型オートバイにまたがると、理恵子がリュックを背負い出てきて、大助から足の乗せ場や掴まるところを教えられて後部に乗車したが、彼が理恵子の服装等を見て、いかにもドライブに似合う姿なのを意外に思い
 「ヘルメットやJパン姿が案外似合うなぁ~」 「何時、準備したんだ」
と感心した様に言うので、彼女は
 「これ全部、大助君に準備して貰ったのョ」
と答えると、彼は大助にお礼を言って、珠子達に見送られて爆音を残して出発した。

 街中を走行中は、スピードも上げずに慣れた運転で家並みを過ぎて行き、彼女も初めて乗る割りに怖いとも思わなかったが、程なくして多摩堤通りに出ると、交通量も少ないためか、彼はスピードを上げて走りだしたので、彼女は彼の幅広い背中が風よけになり、心地良い涼風が顔を撫でる様で気持ちが良かったが、スピードが早すぎるのが気になり  
 「ネェ~、もうちょっとゆっくり走ってョゥ~」
と声をかけても、彼は聞こえないのか知らん顔をしてそのまま多摩川の上流に向かって運転を続けたが、彼女が背中に顔を寄せて
  「ネェ~ 聞こえているの」  「あまり早過ぎると、わたし 怖いヮ」
と叫ぶと、聞えたらしく少しスピードを落としたので、彼女は運転中の彼に話し掛けるのは迷惑かなと思いつつも、胸に溜まっているモヤモヤをどうしても吐き出したくなって、我慢しきれずに
  「ネェ~ あなた、今までに、こんな風にしてオンナノコを乗せて、遊びに行ったことがあるの?」 「教えてエ~」
と聞いても、彼は返事をしないので、少し声を大きくして同じことを聞いても答えないので
  「聞えているの~」 「一緒に行っていても、わたし、構わないけどサァ~」 「正直に、教えてョ~」
と肩を二、三度強くつっいて尋ねても答えないので諦めてしまい、そのまま走行して多摩川園の前に来ると入園口付近で一担車を止めて、何事も無かったような顔つきで「ここが、多摩川園だよ」と遊園地内の施設等を簡単に説明して、再び、綺麗に舗装された道を尚も上流に向かって走り出し、二子玉川の橋を越え暫くして河川敷にある整備された野球場めがけて降りて行き 「ここで、少し休んでゆこう」と言って車から降りた。

 芝生に腰をおろすと、彼は振り向きもせずに
 「川で身体を拭いてくるよ。一緒に来ないか。川に足を入れただけでも、気分爽快になるよ」
と誘ったので、彼女は言われるままに彼の後について行くと、彼はシャツを脱ぎズボンを捲し上げて川に膝辺りまで入り、タオルで身体を拭き始めた。  
 理恵子も、彼の真似をしてJパンを膝下まで巻くし上げて、恐る恐る川に足を踏み入れると、川の底は玉砂利で流れも緩く水も澄んでいて、ヒンヤリとして体全体が冷えてゆくようだった。
 彼は、一通り体を拭き終えると、彼女の近くに寄って来て 
 「リー(彼女の愛称)、相変わらず足の色が白いなぁ~」 「たまには運動をしているのか」
と脛に手を触れながら呟くので、彼女は無意識に彼の手をよける様に足を少し引いて
 「ウ~ン たまには珠子さんや近くの学校友達とテニスをしているヮ」
と答えた。
 彼に手を引かれ川から上がり、芝生を素足で踏みしめて歩くと柔らかいその感触が、故郷の公園を彼と歩いた当時を想い出させ懐かしかった。

 オートバイを駐車したところに戻ると、彼は両足を前に投げ出す様にして腰をおろしたが、彼女は彼に寄り添う様にして横崩しにして座り、リュックサックからジュース缶を取り出して彼に黙って渡してあげた。 
 彼は大分喉が渇いているとみえ「いやぁ~ これは美味しい。アッ 田舎の近くにあるリンゴ園のジュースだな」と珍しそうに言いつつ飲んで、途中で「リー 僕の飲みかけでもいいか」と差し出したので、彼女は
  「もう一本あるけど、全部飲みきれないので、あなた、帰るとき持って行きなさい」 「わたし、それを戴くヮ」
と返事をして受け取り二口飲んで彼に返した。
 この様にして、二人で一缶のジュースをなんのわだかまりもなく飲みあうのは、高校時代以来で懐かしい想い出が次々と故郷の情景と重ねあわせて甦ってきた。
 彼は、故郷の大川を思い出しているのか、静かにゆったりと流れる川面を見ながら、多摩川も以前は生活用水で汚染されていたが、最近は浄化されて鯉は勿論鮎まで昇ってくるようになったんだ。と、故郷の川と比較しながら話し続け、そのあと対岸を見つめて、この少し先にある白く霞んで見える建物が自分の通う学校で、宿は学校に近い等々力町だよ。と、指で方角をさしながら説明していた。
 理恵子は話を聞きながら、彼は普段どの様にして過ごしているんだろうかと聞きたい思いにかられた。
 彼は彼女の心を見透かすように、更に話を続け、このオートバイはアルバイト先の建築会社のもで、社長が通学やアルバイトの現場に行くときに使いなさいと言って貸してくれたものだが、社長は親切な人で、僕と同じ大学の先輩で勉強も教えてくれ、おおいに助かっているよ。とも話をしていた。

 理恵子は、その都度「そうなの、いいわネ」と返事をしていたが、どうしても聞いておきたいとの思いから、彼の腕に手を絡ませたり、周りの草をむしりながら、時々、彼の横顔をチラッと覗き込んだりしつつ
  「織田君 さっきも聞いたけれど、聞えない振りをして返事をして貰えなかったので、しつこい様で悪いけど、あなた、学校か職場に好きなオンアノコでもいるの?」
  「去年のお盆以来、全然、顔を合わせてくれないので、メールで聞く訳にもいかず、いま、直接、あなたの口から聞きたいの」 
  「ネェ~ 正直に教えてョ」 「もしもョ、仮にいると聞いても、わたし、この場では涙を流すことがあるかも知れないが、声を出して喚く様なことはしませんから」
  「それは、家に帰ったあとは、大泣きするかもしれないけど・・」 
  「両親や他の人には絶対に話はしませんので・・」
と、勇気を出して尋ねると、彼は渋い顔をして
  「どうして、そんなくだらぬことを聞くんだい」 「それは、学校や職場で日常的な話をするくらいの女の人は何人かはいるサァ~」
  「そんなこと、この広い世間では当たり前のことだよ」 「リーだって、普段、話をする男の友達がいるだろぅ」
と答えたので、彼女は
  「奈津子なんて、もう彼氏と新婚夫婦みたいに生活しているワ」 
  「江梨子も、気持ちはすっかり婚約している見たいに堂々と落ち着いて過ごしているヮ」  
  「わたしだけ、一人ぼっちで寂しくなって不安に駆られることがあるヮ」 
  「この間なんて、二人にこもごもと、もっと積極的に行動しなければ駄目ョとか。なんのために、わざわざ東京に出て来のサ。と散々言われちゃって答えに困ったゎ」
と、彼の切角の休日に愚痴を零すことは悪いと承知しながらも、胸にたまっている思いの全てを愚痴って話た。
 織田君は理恵子の話しに興味をしめさず、子供ぽいことをきくなよ。と、言わんばかりに面白くないような顔をしていたが、彼女も理屈は判っているが日々の心の中にたまっている寂しさを抑えきれず、つい口走った自分が情けなくなってしまった。
  
 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする