日々の便り

男女を問わず中高年者で、暇つぶしに、居住地の四季の移り変わりや、趣味等を語りあえたら・・と。

河のほとりで (23)

2024年12月13日 09時07分51秒 | Weblog

 理恵子は、帰宅後シャワーを浴びたあと浴衣を着て居間に入ると、病院から帰宅していた小母の孝子と珠子や大助が、彼女を待ちかねていたかの様に、大助がアイスコーヒーを飲みながらニコヤカナ笑顔で「ドライブは楽しかった?。何処まで行ったの」と聞いたので
 「二子多摩川よ。都会に住んでいることを忘れさせてくれるほど景色の眺めがよく周辺も静かで、川の流れもゆったりとしていて、川原の芝生も柔らかく、大ちゃんのお陰で、とっても素晴い一日を過ごさせていただき、言葉で表現できないほど、気分が晴々としたドライブだったヮ」
 「こんなに楽しい日が過ごせるなら、今まで思い悩んでいたことが、何んだったのかと不思議なくらいだヮ」
と、半ば興奮気味に話すと、孝子小母さんが
  
 「わたしも、遠い昔、看護師になるなめ、これからどうなるのかと不安な気持ちで、わたしより先に上京し看護学校を卒業して自活していた、あなたの母親の節子さんを頼って上京し看護学校に入学したころ、休みの日には、誘い合わせては二人で、よく上野毛公園やその付近で散策しながら、節子さんと生活や仕事のこと等色々相談したもんだゎ」 
 「その頃の多摩川は水も澄んでいて緋鯉が泳いでいるのが見えるくらい綺麗で、それに付近が今ほど開発されていなかったこともあり、今よりずう~と静かで川向かいの川崎には稲田も広がり、田舎風のおもむきがあり郷愁を誘われたゎ」 
 「そうネ、大助流に表現すれば、武蔵野の面影を残していたヮ」
  「この子達の前で言うのも可笑しいが、婚約したときも、あの付近を二人で散策して歩いたが、理恵ちゃんが、同じところをドライブするなんて不思議な縁だわネ」
と、壁に掲げらている亡き主人の写真をチラット見て、遠い昔を懐かしそうに想いだしながら話してくれた。

 大助が「ワァ~ 母さん、素敵!」と手を叩くと、例によって片目をパチパチさせながら
  「珠子姉ちゃん、早く恋人を見つけて母さんや理恵姉ちゃんの様に、僕の手本になる様なデートをしろよ」
  「なるべくなら、僕に小遣いを沢山くれる人を選んでナッ!」 
  「僕の一生を左右することなんだから、頼むぜ」 
と言って両手を合わせニヤット笑ったあと、新聞か週刊誌の読み過ぎか、調子に乗って口を滑らして
  「けれど、赤ちゃんを産んだあと、離婚してこの家に戻って来ることだけは御免だぜ」 
  「僕は、姉ちゃんも判るとおり、おそらく大人になっても人並みの生活能力を身につける自信がないので・・」
と、真面目くさって話したところ、すかさず珠子から
  「生意気言うな、この ニキビボーイ が。 だから、そうならない様に勉強するのよ」
と怒られて拳骨をくらい、大助が
  「イヤ~ッ また、城家の惨酷物語だッ!」 「これでは、恋人も怖くて逃げ出してしまうわ」 「脳挫傷になったみたいだ」
と大袈裟に言って両手で頭を抱えたが、孝子も呆れて険しい顔をして
  「大助、例え冗談でも、そんなことを言うものではないよ」
と注意していた。
 それでも城家の夕食は和やかな雰囲気に包まれ、理恵子も昼間の感激もあり心が安らいだ。

 理恵子は、夕食後、自室に戻ると椅子にもたれて遠くの夕焼け空を見ながら、織田君と話したことを思い出していたが、嬉しさを抑えきれず、奈津子さんに携帯で今日の出来事を話したら、奈津子は
  「そ~ぉ、良かったわネ」 「やっぱり、故郷を遠く離れていれば、あなたも少しは積極的にならなければ、心が通わなくなるものョ」  
  「きっと、織田君も嬉しかったのではないかしら」 「部屋の鍵を渡してくれるなんて普通ではないことョ」
  「わたし、本で読んだことがあるが、理恵ちゃんみたいな細身の女性は、男性にとって抱き心地が良いらしいってゆうわ。フフッ」 
  「織田君も、わたしの兄と同じように、体格が良く押しつぶされない様にネ・・フフッ」 「その点、なんだか羨ましいヮ」
と、いかにも彼女らしく笑いながらもユーモアを交えて自己の体験と感想を卒直に言ぅので、理恵子は
  「アラ~ッ 奈津ちゃん、想像逞しくおしゃるのネ」 「あなたには、いつもやり込められ、わたし降参だヮ」
  「彼も、あなたのお兄さんの様に、上京後は口髭を生やし、川で身体を拭いているときにチラッと覗き見したら、胸や足が毛深く、それに陽に焼けていて頑丈そうで、一瞬ドキッとするくらい怖く感じたヮ」 
  「最も、高校時代から腕や足が毛深い方だったけれども・・」
と、奈津子に釣られて、少しHな話かなと、ためらいつつも返事をすると、彼女は冷静な声で
  「果たしてこの先、どの様な物語になるのか判らないが、幾ら恋人とはいえ、男性の部屋を訪れるとゆうことは、あなた達にとって記念すべき日になることは、多分確かだと思うヮ。 どの様なことがあっても、彼に素直に従い二人で幸せになることョ」
と、現実的に起こりうるかも知れないことを何時もの様に諭す様に答えていた。  
 理恵子にしてみれば、すでに何度も考えて、若し織田君の激しい求めに応じて彼を受け入れる様なことがあっても、その心の準備は出来ており、バックの中の鍵をいじりながら興奮した気持ちでお喋りをした。
 江梨子にも電話をと思ったが、奈津子の話が強烈であったので、いずれ話をしようと考えて止めておいた。

 その夜、ベットに入ろうとしていたら、小母の孝子がノックして部屋に入って来て、普段見られない冷たさのあるベテラン看護師の表情をして畳みに座ると、静かな口調で
  「さきほどのお話の続きだけど、あなたも承知していることと思いますが、以前から、あなたの母親の節子さんから、これだけはどうしても、あなたに厳しく教えておいて欲しいと頼まれ、わたしも責任を持って教えておきます。と、お返事をしていたことですけれど・・」 
 「勿論、娘の珠子にも、早い機会に同じ様に教えてありますが・・」
と言って、小さい不透明で蜜封した封筒を渡され、更に続けて
  「わたし病院で用意しておいたものですけど、女性は生理的に難しいこともあるので、必要が生じたら、使ってくださいネ」
  「今度からは、自分で薬局に行き、準備しなさいョ」 「離れた薬局で購入すれば、恥ずかしいこともないので・・」
  「女性にとっては、生理的にどうしても必要なことであり、勿論、積極的に勧める訳ではないので誤解しないでね」
と、極めて事務的に話したあと、何時もの和やかな表情で「織田君の気持ちを確かめられて、良かったわネ」と言い残して部屋を出て行った。 
 それは、看護師が患者を諭す様に、冷たい様な話しかたの中にも暖かい気遣いが感じられ、同時に、先々の生活に心配りしてくれている節子母さんの優しい思いやりが嬉しかった。



  

コメント
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