平方録

地方卸売市場の憂鬱

われわれが生活していくうえで欠かせない生鮮食料品を含めた様々な食品、あるいは日用雑貨の類を集める卸売市場というものが各地にある。

これらは勝手に作っていいという訳ではなく卸売市場法という法律に基づいて許認可を受けて初めて設置されるものである。
同法3章によって国が認可するのが移転問題で騒がしい築地などの中央卸売市場、これに対して同法第4章によって都道府県知事が許可するものが地方卸売市場である。
隣町に比較的規模の大きい地方卸売市場があって2012年に民営化されて以来、個人客にも一部門戸を開くようになったらしく、毎週土曜日には朝市が開かれて野菜などが安いのだという。

どんなところかと、隣町に暮らす娘と孫息子と一緒に出掛けてみたんである。
結論から言うと午前10時半過ぎに行ったのが悪いのか、朝市はどこ? と首をかしげるくらいに閑古鳥が鳴いていて、卸売商が構えている店のいくつかはシャッターが閉まったままである。
朝市の目玉は湘南野菜だと言うが、そんなものは菜っ葉の切れ端どころか、どこにも何も見かけなかったのはどういう訳だろう。
開催時間は午前8時から午後1時までという割には惨憺たるありさまで、これじゃあシャッター通りで、ポスターが泣くぜというものである。

それでも開いている店は街中ではなかなか見かけないような個性的なところが多く、品ぞろえも珍しかったので案外楽しめたし、マグロの脳天は売り切れていたが、頬肉の燻製とか、サバを焼いてほぐしたものいぶしたものはご飯に振りかけたりするとおいしいらしく、場内のラーメン屋の定食になっているなどと教えられ、試しに買ってみた。
確かに頬肉の燻製はなるほどと頷くほどにおいしく、とてもマグロの食感とも思えぬ。酒のつまみにも塩梅が良かった。
ボクはそもそもマグロが好みではないこともあって、大枚をはたいてトロだ大トロだ騒ぐ連中の気が知れず、そんなものより旬で脂が乗りドッサリ獲れて値段の下がった魚の方がよっぽどおいしいですぜ、と心底思う人間なのである。

駄菓子の類をを並べた店もあって、ここは子供でなくとも楽しい店だが、箱ごととか、パックごとしか売ってくれないので、同じ商品を大量に抱えることになる。
間もなく姫と妹君が遊びにやってくるので、妻はトランプやドンジャラの景品用に電車のケースに入ったチョコレートが詰まった箱を買っていた。
ただいま〝電車命〟の孫息子用にもうってつけなのだ。

卸売市場を肩代わりするような身近な存在として大型スーパーが流通の世界に君臨してきたが、今この大型スーパーも曲がり角のようである。
そうした中で地方卸売市場のような存在は今後どのような位置づけになっていくのだろうか。
多くの品物を集めて消費者に届けるという流通過程での役割は必要だと思うのだが、新しい波にも洗われることだろう。
暮らしに直結しているだけに、興味のあるところだ。

市場での楽しみと言えば食堂である。
ここにもいくつかの食堂があったが、ボクたちはすし屋に入って昼飯を食うことにしたのだ。
ボクはさっさと寿司ネタを豪快にちりばめた「豪海丼」に決めたが、妻と娘は食いしん坊に加えて欲張りだから、目移りするらしくあれやこれやとなかなか決まらない。
結局豪華さにおいて勝る豪海丼で右へ倣えしたのだが、考えてみれば妻の誕生日なのだから、この選択でよかったのだ。
本当はすし屋を丸ごと借り切るくらいでも良かったのだが、そんなに食べられないのだから、しかも昼飯だからこの程度でよいのである。

ボクは妻の誕生日を寿ぎ、祝杯を挙げるべく冷酒を注文したら冷酒の銘柄も「豪快」だった。
「豪海」に「豪快」という妙な二重奏になってしまったが、冷酒の方もおいしく、もう1本欲しかったが昼間なのでやめておいた。
帰りの運転を妻に委ねたのも、運動神経やら注意力やらの維持を思う故の配慮である。な〜んちゃって…



市場の中は閑古鳥が…


昔懐かしい駄菓子とおもちゃの宝箱






場内のすし屋の「豪海丼」
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