平方録

ジジイの弊害

退職した会社の後輩から「組合執行部に4年間いましたが、そろそろ交代させてもらいます」というメールが届き、ならば慰労会をと、同時期に執行部入りした4人に声をかけ、ささやかな宴会を開いた。

この会社の労働組合は異常で、15年近くも2人の同じ人物が執行委員長と書記長をたらいまわしにして、専従気取りで好き勝手にふるまっていたのである。
中でも深刻だったのは、ろくな大義もないのにストを繰り返し、選挙の開票作業に合わせてストを打ったり、夏の高校野球の開会式にぶつけてきたり、とにかくやりたい放題だったのである。
それまでの歴史の中で、経営側はどんな弱みを握られていたのかと訝るほどに、労働側の権利を言われるままに拡大して与えてしまっていたので、会社としてはろくな対抗手段を持たず、いいなり状態だったのである。
ストを止める手立てがないものだから、会社は本来管理職ではありえない副部長という職制まで管理職に含めると宣言して、ストの場合の対策要員に充てるくらいだったのだ。

そうした状態の中で、この会社に移ることになり、あろうことか労働組合を担当させられることになったのが、事の始まりである。
執行部との初めての顔合わせの時、「スト権を前面に押し出されては業務に著しい支障が出ることは組合も理解しているところだろう。いつまで続けるつもりか。交渉相手が変わるのだから、時代の流れと言うこともある。スト権を放棄しろとは言わないが、話し合い中心の路線に転換して見ないか。誠意を持って対応するぞ、約束する」と申し入れたところ、数日経って提案を受け入れる旨の回答があった。

1年目は話し合い路線を定着させるべく、安全運転をしたおかげで組合も大人しかった。しかし、こちらだって組合の言いなりになるはずがない。徐々に権利の整理と制限を加える方向に持って行きかけたが、うまくいかなかった。
そこで一計を案じたのが、あの2人組がのさばっている以上、話の進展は望むべくもない。無投票が続いてきた選挙で2人を落選させるべく、対抗馬をぶつけて一気に体制の転覆を図ろうとしたのである。

話の順番があべこべになったが、対抗馬をぶつける前に、無関心極まりなかった社員の何人かから組合をどう見ているのか聞いてみると、やたらにストを打つ路線に辟易していて、2人に対しても組合の傘に隠れて自分たちの身の安全を図っている奴ら、などとシビアな見方をしていることが分かったのである。
無関心を装ってはみても、内心で心配していたのだ。きっかけがなかっただけの話である。
それなら話は早い。これぞと見込んだ4人に執行部改革を伝え、立候補を促したところ、会社がその気なら手伝う、と言ってくれたのである。
こちらの狙いは委員長と書記長に対抗馬をぶつけ、堂々と正面突破を図ろうとしたのだが、手違いはあるもので、2人組は組合に残ってしまった。

厄介なことになったものだと思っていたら、案ずるより産むが易しで、送り込んだ4人は、その後したたかさを発揮し、主導権を徐々に奪って行く。2年目にして2人の影響力を完全にそぐことに成功するのである。
無血クーデターに成功、とも言える快挙なのだ。大した4人である。
会社にとっては、眼の上のタンコブとも呼ぶべき積年の弊害・懸案の解決がなったわけで、この4人の功績は極めて大きいのである。「四天王」とも呼んでいいだろう。
新しいメンバーの手助けをするため、まだ1人が執行部に残るが、御苦労さん会の開催となったわけである。

4時間半、良く喰い、かつ飲んだ。
昔話をするようになるのはジジイの弊害のひとつだろうが、良い思い出と言うのもあるのである。




宴の最終盤。11時の閉店直前にようやくお開きにした。
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