一番おいしい食べ方はすりおろしたショウガを乗せて日本酒をちびちびやるに限る。
酒を飲むには早すぎるので、昼食で温かいそばの上に乗せてワラビそばにした。
腰があってしゃきしゃきしている。歯ごたえが良く野趣に富んでいる。
贅沢な昼食になった。
8、9年前を思い出す。
東京勤務の時、知り合った友人が酒の席で自分で採ったワラビの美味しさを自慢げに語った。聞いているほうはふんふんと言っているだけで実感はない。
「百万遍聞くより喰わせろ! 」と言ったら、2、3ヶ月後に「これだよ」と言って持ってきた。さっそく赤坂の割烹の座敷で出してもらい、食したのが始まりである。
なるほど、自慢するだけあって茎は緑が鮮やかでぴんと張っている。横浜や東京で出てくるのは、くたっとしてヨレヨレだが、まったく別物であった。以来、友人が送ってくれるもの以外口にしない。
これが贅沢なのは、友人が山に分け入って採ってきて、奥さんが手間をかけてあく抜きをしてくれるお手製であること。
ワラビと言えば5月頃か、と思うが今でも採れるのだという。珍しく感じるのは、暑い上にワラビがほかの草々に埋もれてしまって見つけにくいから、だれも山に分け入って採ろうとしないことが理由だという。
そんな悪条件の中を採取してきてくれたわけである。しかも友人の暮らす山形市から7、80キロ離れた最上町まで出かけたという。奥の細道で鳴子温泉から出羽の国へ出ようとして道なき道に難儀し、悪天候にも祟られ、馬と一つ屋根の下に暮らす農家に3日も足止めを喰らった芭蕉が「蚤虱馬の尿(ばり)する枕もと」と詠み、文字通り鉈で木や草をなぎ倒さなければ通れないような山刀伐峠(なたぎりとうげ)を越え、ほうほうの体て到着したのが今の最上町である。
俳句ファンにとって芭蕉は神様。その神様が歩いた(であろう)山野辺で採れたワラビである。贅沢の二乗三乗なワラビなのである。
緑も鮮やかなワラビが届いた
暑いそばの上に乗せるのは少しもったいないが贅沢そのもの
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