平方録

ラーメン1杯2100円ナリ

友達付き合い、近所づきあい、3つか4つの稽古事。これらに加えて老人ホームにいる母親の慰問やらなにやらで、毎日せわしなく動き回っている妻と一緒に過ごすのは朝と晩ご飯の時くらいで、なかなか一緒に行動するということがない。

これは喜ぶべきことなのか、それとも悲しむべきことなのか。ボク自身は別に不都合があるわけでもないし、寂しい思いをしているわけでもないから、差し当たって不満はないし、喜びもしなければ悲しんでもいない。
友人の中には常に一緒に行動し、どこに行くにも一緒というカイロウドウケツそのもののような夫婦もいないではないが、それもうっとおしいような気がするのだ。
そういう見方からすれば、わが夫婦の現状は適度な距離感を保っているということだろうか。

第一、朝いったん家を出れば日付が変わらなければ戻らないという現役生活を続けてきたのである。
そんな日々を過ごしてきた身が、急に一緒にいろと言われても戸惑うだけだろう。
そもそも夫婦について考察してみたり、論じてみるつもりでこういう書き出しになったのではない。
日曜日の夜に「お習字のけいこもかなりはかどったから時間ができたわ。寒いけどちょっと歩かない?」と誘われたのである。
で、江の島まで6キロ弱だが、真っ青な冬晴れのもと、空気は冷え切っていたがブラブラ歩いてきた。

途中無言の行だったわけでもないが、特段、何を話したか記憶に残っていないから、ごく日常的な取り留めもない世間話をしていたのだと思う。
10代の終わりの出会った頃のように、互いの感性を確かめ合うように夢中になって会話を続けたり、あるいは気を引いてもらえるように背伸びをして、小難しいことを口にしたりするようなこともない。
ちょっと気取って言えば、小津安二郎監督の撮る映画に出てくるような夫婦を演じているようなものかもしれない。
一緒になってもう44年にもなるのである。

全く無目的だったかというと、そうでもない。江の島に渡る弁天橋脇にある魚料理の店に誘われたのである。
気にはなっていたが入ったことが一度もないのを知っていて、1度行ったことのある妻に「行ってみようよ」と誘われたのである。
妻はブリとムツのナメロウが乗った「まかない丼」。ボクが「魚骨系鯛汁ラーメン」。
ナメロウというのは、そもそも九十九里の漁師が船上で獲ったばかりの魚をさばいて身を包丁で細かくたたき、そこに味噌とネギなどの薬味を加えたものをご飯に乗せてかっ込んだのがルーツだろうと思う。
これがおいしいので各地に広まったか、もともと漁師にとっては当たり前の食べ方だったのかもしれない。いずれにしても代表的な漁師料理と言える。
これはまずかろうはずがない。

ラーメンの方は「魚骨系」を標榜してあるだけあって、確かに骨やアラが溶けているような味わいの一品だった。
味噌が加えらえているのだと思うが、濁っていて濃厚な味わいである。
個人的な好みで言えば、豚の骨系(トンコツともいうらしいが)よりは好きである。
でも味噌を加えないと多分臭みが気になるのだと思う。塩分を控えなければならない身には、ちょっとためらいがあるのだが、なかなかいい味だったので、たまのことだと言い聞かせ、スープは残さず飲んでしまった。
鯛のあぶった切り身が二切れ、煮卵が乗って2100円もした。もう2度と口にすることもないであろう。そういう意味では一期一会の味ともいえようか。

というわけで、妻にひかれて江の島詣の一景でした。



魚骨系鯛汁ラーメン


ナメロウが乗ったまかない丼


頭隠して何とやら…


蒙古帝国が降伏を勧告するために送って寄越した5人の使者を鎌倉幕府は躊躇なく処刑したが、5人を葬ったと伝えられる墓が残る片瀬の常立寺のしだれ梅


同じ常立寺境内の紅梅が空の青さに映えていた
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