宇宙空間から見た地球を指して語ったとされる「地球は青かった」は、暗い宇宙空間にぽっかり浮かんだ青い球体を強く印象付けるに十分な表現で、その簡潔さも手伝って、中学生になったばかりのボクの記憶のヒダに深く刻まれたのだった。
あれから55年。平方録筆者にして初老の域に足を踏み入れているボクは散歩中に「地球は丸かった」という分かり切った公理を再確認することになる。
妙な飛躍に思えるかもしれないが、実際、地球は丸ぁるいじゃんということを実感した時に、ガガーリン少佐の言葉も反射的に浮かんだのである。
こういうことなのだ。
良く晴れあがった上に、冷たい風も吹いていなかったので、2時間くらい歩いてくるかと家を出たのは午前10時過ぎのことである。
鎌倉山の眺望の良いところに差し掛かると、相模湾の奥に黒々と横たわる伊豆大島が目に入った。
この光景は日常のもので珍しくもないのだが、島のすぐ右手に小さなおむすびと、それよりもっと小さいおむすびが目に入ったのである。
ん? という思いで目を凝らしてみたが、まぎれもなく島影である。
これまで幾度となく大島の島影は見てきたが、それ以外の島影に気づいたことは記憶にない。
家に戻って地図帳を確かめて、それが伊豆七島の一つで大島のすぐ南に位置している利島であることが分かった。
ネットで調べると利島の形はきれいな三角形をしたおむすび型である。ピラミッド型といってもよい。
空気中の塵やほこりが少なかったと見えて、視界がクリアだったのである。
大島と利島の間に見えていた、もっと小さなおむずびについては、何が見えていたのか不明である。大島の一部なのか、それとも別の島影なのか…
‟新たな発見”を「へぇ~」と感心しつつ、山を下って真下の七里ヶ浜の波打ち際に座って改めて島影を確認しようとしたら、また「へぇ~」「ほぉ~」という感想が沸き起こったのである。
比較的くっきりと、しかも大きく見えていた三角のおむすびは、極ちっちゃなおむすびに縮んでしまっていて、水平線の上にチョッピリ頭を出しているだけである。
それよりも小さく見えていたおむずびの方は影も形もない。
はて?…
利島の姿を現認した鎌倉山の標高はおそらく40メートルくらいだろうと思う。
かたや波打ち際は当然ながら海抜ゼロメートル。
この40メートルの標高差が島影を隠してしまったのであろう。
地図で見る七里ヶ浜から利島まではおおよそ88キロである。
何のことはない。地球は丸ぁるいのである。だから高いところに上ればそれだけ遠くまで届く視界も、波打ち際に降りてくれば水平線の彼方の上空を通り越してしまうのである。
普段は波打ち際や海抜6、7メートルしかない国道134号からしか見ていないので、なかなか島影に気づかないで過ごしてきたのだ。
頭で理解していることと、それを体感、実感することとの間には、それなりのインパクトがあるのである。
その昔、小学生時代に千葉県銚子の太平洋に突き出たところに立っている犬吠埼灯台に遠足で行った時、「地球が丸く見えます」という看板を見た担任の先生が「ちょっと高いところに上ったくらいで丸く見えるほど地球はちっぽけな星ではない」と憤慨していたのを覚えている。
件の看板は「左右に延びる水平線の端がカーブして見える」ということを言わんがための表現なのだが、確かに先生の言うように、自分が立っている場所から地球の湾曲が分かってしまうのは、どう考えてみたって興ざめである。
ま、島影ひとつで様々なことに思いが至るものである。かくして「へぇ~」「ほぅ~」のタネは尽きないのである。
鎌倉山から見えた伊豆七島の利島。ピラミッドのようなきれいな三角形をしている。大島との間にもう一つ小さな三角形が見えるがこれは島かどうか不明
上の写真の遠景
七里ヶ浜の波打ち際に座って眺めた利島は、極ちっぽけな三角形に縮んでしまった
こちらは波打ち際からの遠景だが、目を凝らさないとちっちゃな三角形は見過ごしてしまうだろう
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