芽を出した苗に本葉が2つ3つ出てきた頃が移し替えの目安である。芽が出た時に開く子葉は人間でいえば乳歯みたいなもので、株を大きく育て、花を咲かせるには、この本葉が欠かせない。乳幼児から脱してこれから少年少女期に入っていく。
ポットに入れる土は小粒の赤玉土7、腐葉土3くらいの割合で混ぜて作る。
ピートバンには苗がびっしり生えているから、絡み合った根を切ってしまわないように、慎重にほぐしていく。ここ数年、スイスのアーミーナイフを使ってピートバンをほじくり、自然に根がほどけるようにして作業を進めている。
脳の開頭手術を受けて命拾いしたことがあるが、おそらく脳外科医の仕事も絡み合った毛細血管を傷つけないように手術を進めてゆくはずである。
根気のいる作業といってよい。
「元気に育てよ」と声をかけつつ、黙々と下を向いて作業する。
こういう作業は案外楽しい。というか、草花を育てる数多の作業の中で、咲いた花を見るより、むしろ期待が膨らむ分、楽しみが深い。
ここで登場するのが音楽である。
なぜかモーツァルトである。
モーツァルトを聴きながら作業する。
例年、CDが聞ける携帯式のラジオ兼プレーヤーをコードを引きずりながらベランダに持ち出してかけていたが、今年はBOSEのワイヤレススピーカーを使った。
これはパソコンに取り込んだ音楽をワイヤレスで聞けるすぐれものである。
大きさも横20cm足らず、高さ5、6cmとずいぶん小さい。手のひらに乗ってしまう。
こんなちっぽけなもの、と考えるのは浅はかで、なまじのオーディオスピーカーより音質が良い。
今年6月に仕事を辞めたら、娘2人にプレゼントされた。
最後の日、遅くなって帰宅したら届いていた。
「私たちを何不自由なく育ててくれてありがとう」というメッセージが添えられてあった。
泣けますなぁ。思いがけない出来事でしたな。
以来、ベランダで本を読むときなどにも持ち出して使っている。まだ機会はないが、どこか、野外に持ち出しても使える。
なぜモーツァルトか。
酒蔵で仕込みの時にモーツァルトを聴かせましたとか、寝かせている味噌にモーツァルトを聴かせているとか……
概してモーツァルトは心休まる温かくて軽やかな旋律の曲が多い。
酒やみそ同様、それ以上に植物は呼吸しているから音楽があればあったで、よく反応するのかもしれない。そう信じている。
午前9時半に作業を始め、30分の昼食休憩をはさんで午後6時まで。駄目にした苗は2、3本。素晴らしい歩留まり。トレー8ケースに191もの苗が移植できた。
今年は秋の訪れが早かったから生育は順調で、この調子だと11月下旬か12月上旬には花が咲きだしそうである。
わが家で必要な数は40株程度。残りは嫁入りさせる。喜んでもらえるのだ。
ところで、作業中に聞きなれない「カチカチ」とか「カツカツ」という規則正しい小さな音が聞こえてきた。
はて? と思っていたら、1、2mしか離れていないカツラの木の枝の茂みの中に橙色の小鳥がチラッと見えた。
ジョウビタキ。
オスはお腹から尻にかけてきれいな橙色で背中や羽根は黒。黒の中に左右一か所づつ白い斑点がある。おしゃれな鳥である。
渡り鳥で、秋から冬を日本で過ごして北へ帰っていく。今年もまたやってきたのだ。
ジョウビタキが音の主と分かって、木をつつく音かと思ったら、鳴き声だった。
そういえば、ジョウビタキの存在は知っていたが、鳴き声を聞くのは初めてである。
家にいる時間が長いと、今まで気がつかなかった事に、改めて気づかされることが度々である。
ピートバンで成長した苗をポットに移し替えていく
苗が小さいのでポットの底から水を吸い上げさせる。こうして土にたっぷり水を含ませるのがコツである
ベランダに設置した台に並べた苗。1ケースに24個の苗
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