ガラスペンを買った。
それも衝動買い。
横浜に行って中華街でご飯を食べた後、隣の元町商店街をウインドーショッピングしていて、伊東屋が店を構えているのに気付いて入ったのだ。
銀座の店と同様に細長くヒョロヒョロしたビルで、店内のレイアウトや雰囲気は銀座にそっくり。
聞けば去年9月にオープンしたんだそうだ。
ビルは通りを見渡せる構造になっていて、珍しいのでボクは通りを眺めていたのだ。振り返ると妻がショーケースに入ったガラスペンをじぃ~っと見つめている。
書道をやっているので、毛筆以外にもペンは必需品である。
「試しに買ってみたら? 」と勧めた。
じぃ~っと見つめている妻を見ていてボクに一つの〝魂胆〟が浮かんだのだ。
妻に買わせてボクも使ってみたい…
ボクたちの背中を押したのはベテラン男性店員の振舞と丁寧な説明だった。
おそらく再雇用か何かで、長く銀座の店に勤めていて定年を迎えたが元町の店がオープンするって言うので、助っ人を兼ねて店に出ているような感じだった。
とにかく知識は豊富。物腰はスマートで、言葉遣いは軟らかい。
人の話を聞きながらタイミングよく客をほめるのだが、その言葉も態度も控えめで、何より自然な感じに好感が持てた。
実際、試しに手に取って書いてみろと店員が勧める。
最初は妻が、続いてボクも握ってみた。
ガラスペン自体の重さは軽からず重たからず。書き味というのも案外スラスラ、サラサラって感じなのだ。
正直ボクはヘェ~! と思ったものだ。
案外いいじゃん。
妻だって同じ感想を持ったようなのだ。
それでも決断を渋るので「ボクもたまには使わせてもらうから」と言って、ようやくウンと言わせたのだった。
それにしても文房具屋さんというのはオトコにとっては宝島探検隊のような気分にさせてくれる魅力的な場所である。
ボクは銀座に行って時間さえあればじっくり見て回るのが好きだった。
コンパスひとつとっても、すっごく精巧で精密に出来ているものもあるし、今回のガラスペンのように江戸切子のような工芸的な魅力に富んだものだって目にすることができる。
外国のもの、アイディアを凝らしたもの、デザインの妙が伝わってくる品々…
おもちゃ売り場を卒業したオトナが、子どもの頃の心を取り戻す場所のひとつが文房具店という訳なのだ。
ふむ、わざわざ銀座まで出かけなくても、とりあえずここに来ればそんな気持ちが満たされそうだな。
愛媛に引っ越して新しい学校に通い始めた姫はすぐに友達が出来て、元気に登校しているらしい。
もうしばらくたったら、ガラスペンを使って姫に手紙を書こうと思っている ♪
ガラスペンとインク
光の加減で様々に変化するのだ
このペン先からどんな文章が紡ぎ出されて行くのだろう
選んだインクは濃い緑の「松露」、薄い青の「露草」、そして濃いブドウ色の「山葡萄」