梅雨入りする前の雨上がりの日に僕は産まれた
当然見えてなかったけど、こんな感じだろうと話してみることにする
僕が目を開けた時には病院の保育器の中にいて
キャップをかぶり、マスクをつけた大人たちが僕を見ていた
その笑顔の中の目を潤わせていた人が僕のお母さんだったんだろう
お風呂の入れ方
オムツの替え方
看護師さんの見様見真似で僕の世話をしてくれていた
遅めの時間になると慌てて駆け込む男の人がいつも居た
その人が僕のお父さんだったんだろう
喋ることも
動くことすら出来ない僕は
お母さんとお父さんが居ないと生きていけないほど弱く頼りない存在だったはずだ
親としての自覚もまだ芽生えてなかったのかもしれない
母としての覚悟も
父としての責任も
まだ芽生えてなかったのかもしれない
それでも
僕が目を開けるといつもそこに居て
僕が手のひらを開いたり閉じたりするだけで
2人は並んで嬉しそうに
見つめ合って
抱き合って
そして2人で僕の両手に人差し指を片方ずつ握らせてくれていた
お腹が空いても
何処がが痛くて寝返りがうてなくても
泣くことしか出来ない僕を
母はいつも抱き抱え
僕が気持ちよくてウトウト寝てしまうまでずっと
抱き抱えてくれたままだった
早くお母さんにありがとうって言いたい
早くお父さんとキャッチボールとかしてみたい
そんな風に思った矢先
母は突然と姿を消した
しばらくすると父は泣きながら僕を抱え
僕をきつく抱きしめた
そして明くる日の朝から父も僕の前には現れなくなった
僕はまだ伝えないことも伝えられないままで
僕はまだ遊んでもらったこともないままで
名前もまだつけてもらってなかったのに
物心がついた時には僕にはもう別の名前があった
きっと両親がつけたいと考えていた名前とはほど遠く
思い入れも
思い出も
願いも
何も込められてない名前なんだと思った
今の僕の親は施設の園長先生だ
お母さん…
お母さんにとって僕はどんな存在だった?
生まれてくるの…楽しみだった?
つわり…ひどかった?
たくさんお腹蹴った?
お父さん…
僕が男だって分かった時はどんな気持ちだった?
女の子が欲しかった?
大人になって一緒にお酒を飲むこと…夢見てくれた?
お母さん…
お父さん…
どうして僕を1人にしたの?
会いたいよ…
会ってちゃんとお礼が言いたい
会ってちゃんと抱きしめてよ…
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