思いつきで書いた物語と実話のMIX

フィクションとノンフィクション。目線を変えると景色も変わる

言葉にできない4-1

2019-09-15 02:00:00 | 日記

梅雨入りする前の雨上がりの日に僕は産まれた


当然見えてなかったけど、こんな感じだろうと話してみることにする



僕が目を開けた時には病院の保育器の中にいて


キャップをかぶり、マスクをつけた大人たちが僕を見ていた


その笑顔の中の目を潤わせていた人が僕のお母さんだったんだろう


お風呂の入れ方


オムツの替え方


看護師さんの見様見真似で僕の世話をしてくれていた


遅めの時間になると慌てて駆け込む男の人がいつも居た


その人が僕のお父さんだったんだろう


喋ることも


動くことすら出来ない僕は


お母さんとお父さんが居ないと生きていけないほど弱く頼りない存在だったはずだ


親としての自覚もまだ芽生えてなかったのかもしれない


母としての覚悟も


父としての責任も


まだ芽生えてなかったのかもしれない




それでも



僕が目を開けるといつもそこに居て


僕が手のひらを開いたり閉じたりするだけで


2人は並んで嬉しそうに


見つめ合って


抱き合って


そして2人で僕の両手に人差し指を片方ずつ握らせてくれていた


お腹が空いても


何処がが痛くて寝返りがうてなくても


泣くことしか出来ない僕を


母はいつも抱き抱え


僕が気持ちよくてウトウト寝てしまうまでずっと


抱き抱えてくれたままだった


早くお母さんにありがとうって言いたい


早くお父さんとキャッチボールとかしてみたい


そんな風に思った矢先


母は突然と姿を消した


しばらくすると父は泣きながら僕を抱え


僕をきつく抱きしめた



そして明くる日の朝から父も僕の前には現れなくなった



僕はまだ伝えないことも伝えられないままで


僕はまだ遊んでもらったこともないままで




名前もまだつけてもらってなかったのに








物心がついた時には僕にはもう別の名前があった





きっと両親がつけたいと考えていた名前とはほど遠く


思い入れも


思い出も


願いも


何も込められてない名前なんだと思った



今の僕の親は施設の園長先生だ





お母さん…



お母さんにとって僕はどんな存在だった?


生まれてくるの…楽しみだった?


つわり…ひどかった?


たくさんお腹蹴った?



お父さん…


僕が男だって分かった時はどんな気持ちだった?


女の子が欲しかった?


大人になって一緒にお酒を飲むこと…夢見てくれた?



お母さん…




お父さん…



どうして僕を1人にしたの?



会いたいよ…



会ってちゃんとお礼が言いたい



会ってちゃんと抱きしめてよ…



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