思いつきで書いた物語と実話のMIX

フィクションとノンフィクション。目線を変えると景色も変わる

言葉にできない2-4

2019-08-31 16:31:00 | 日記

僕には幼い頃からの幼馴染がいた


高校は別々になったけど保育園からずっと一緒だった


陽平は高校になってからもちょくちょくうちに遊びにきて


悪さするときもいつも一緒だった



日曜日陽平は彼女が出来たとうちに連れてきた


「はじめまして

と、挨拶すると


陽平の彼女は


「やっぱり覚えてないんだと


ふてくされた顔をした


彼女は百合


僕が2年生の時に転校したクラスメイトだった


転向した先は駅2つくらい離れた学校で


中学の修学旅行で陽平と出会い


連絡を取り合ううちにそういう関係になっていったそうだ


仲睦まじい2人はとてもお似合いで


そのまま結婚してもおかしくないくらいに関係が完成しきってた



陽平がトイレだと離れても思い出話で間はもたせられた





それからしばらくして陽平は僕に泣きながら電話してきた


彼女は生理不順で病院に行くと


大きな大学病院で検査を受けた


そこで告げられたのは「卵巣腫瘍」の疑いだった


陽性なら部分摘出で済むけど


悪性だった場合


卵巣、子宮の全てを摘出しなければならない状況下だった


検査の結果は悪性で


そのまま手術を行い


お腹の中を全て摘出したそうだ


半年近くの入院生活を余儀なくされ


抗がん剤治療とホルモン剤の処方


彼女は17で子供を作る機能を失ってしまった


手術の日も百合の親族と一緒に立ち会い


涙を浮かべながら


「陽平…ごめんね。悪性だったみたい。

と、告げられ


耐えきれなくなって病院から僕に電話をしてきたんだ




「俺は百合に何もしてあげられない。
「俺は…俺は…

と、嘆く陽平に僕は


「ツライのは百合の方だろ。お前はしっかり笑って大丈夫だって答えてやればいいんだよ。


「結婚する気持ちがなくなったのか?


「そんなわけないだろ!


「じゃあ、百合のそばで少しでも明るくいられるようにしてやれよ


「…。





「そうだな。悪い。百合のとこ行ってくるわ。


そういうと陽平は百合の病室に向かったんだろう




その晩のこと


僕の電話が鳴った


公衆電話からだった





病院の電話からかけてきたのは百合だった



「陽平から聞いた?


「うん。百合、大丈夫か?


「うん。まだ抗がん剤の副作用はないし。感染症の疑いもないし、食欲もあるし。


「そっか。




「ケイスケ…



「ん?



「こんな時にこんなこと言うのおかしいと思われるかもしれないけど、こんな時だからどうしても言っておきたかったことがあるんだ



「なに?何でも言ってみてよ



「…。ケイスケ…。あのね…



「私…ずっとケイスケのことが好きだった。



「え?



「突然ごめんね…。でもね…ううん。


「私…ケイスケのこと、今でも好きなの。



「…。



「私、陽平のこと騙してるつもりはないの。でもね、私やっぱりケイスケに会ってからずっと思ってた気持ちが蘇ってきて。



「私。ケイスケのことが好き。




「でもね、陽平と別れるから付き合って欲しいとかそういうんじゃないの。



「一度だけ。一度だけ2人きりで会ってくれない?



「…うん。まあ。



百合は思い悩んでるんだと思った





僕は陽平にも内緒で面会時間の過ぎた病院に向かい、1人部屋の百合の部屋に入った。



「ありがとう。来てくれて。



「おお。ポカリと百合の好きな雑誌買ってきといたぞ



「ありがとう。



僕は窓の方を向きながら、百合に背を向け


「大変だったけど、命に別状があるわけじゃなかったから、まだ良かったな


「陽平もこれからもお前のこと大切にする…。



百合は僕を後ろから抱きしめ、背中に顔を埋めた



「ケイスケ。好きよ。…大好き。



彼女は泣きながら僕を振り向かせ、すがりついて泣いた。


僕は百合を抱きしめることも出来なかった



陽平のことが頭をよぎる




「抗がん剤治療が始まると髪が抜けるらしいの。


「だから私髪切らないといけなくて。



彼女は真っ直ぐに伸びた綺麗な髪がトレードマークだった


なんのためらいもなく病魔は彼女の髪を奪うんだ


誰が悪いわけでもなく


誰に当たるわけでもなく



彼女は翌日髪を切った。


グレーのニット帽を被り


青白くなっていく彼女を僕は陽平と2人で励ました


陽平は彼女とお揃いなんだと髪を丸め


少しでも百合の気持ちが不安定にならないように努力していた


抗がん剤の治療の副作用はひどくなり


激しい嗚咽感に襲われる彼女に


陽平は見ていられなくなったんだろう


また自分は何も出来ないと嘆き


僕は夜通し陽平を元気付けた





百合が入院してから半年が経ち


経過観察で一時退院することになった



抗がん剤の治療を終え、百合の髪はショートカットぐらいまで伸びた


ホルモン剤の処方は精神安定の為、しばらくは飲み続けるけど



抗がん剤治療は1ヶ月、3ヶ月、半年…と


だんだん不要になるほどに彼女は回復を見せた






百合の退院の日


陽平は彼女の前にスーツで現れた



「百合。


「陽平。どしたのその格好?



「百合。俺と結婚してください。



「…。



百合の家族も驚きを隠せなかったが、百合の父親は


「ありがとう。高校卒業して、社会人になって、一人前になったら、百合のこと迎えに来てやってくれないか?


と、涙を流して頭を深々と下げた



「はい。必ず。


陽平は一切の迷いも見せず答えた



百合も泣きながら


「陽平。ありがとう。ありがとう。


と涙した。





それからしばらくして僕に1通のメールが届いた。



陽平からだった。



「今から会える?




「いいよ。じゃ、うちで。


「オッケー








でもいくら待っても陽平は来なかった












中学の時の担任から電話がなった



「清水くんが亡くなった。



「は?何言ってんの?




「近くのローソンのT字路で轢き逃げにあったそうだ…。今夜通夜をするそうだから。参列してくれるか。




陽平のうちに向かうと通夜の準備がされ


涙を浮かべた陽平のお母さんからこう伝えられた






陽平はうちに向かう途中のT字路で道路の横断中に携帯をかまって前方不注意の車に轢かれ意識不明になったそうだ



手術中、何度も何度も意識を取り戻したが、出血がひどくとても手の施しようがないほど無残に体が引きずられたようだ





参列者の中には百合もいて



百合は僕を見つけて声を出して涙を流した



「陽平がずっと手に持ってたって…。






それは小さな箱で



中には指輪が入っていた





「陽平バイトしまくって婚約指輪買ってくれてたの。




陽平の母から聞かされたそうだ



陽平は指輪を買うためにバイトを始め




さっき僕に会いに来ようとしたのは


その報告の為だった



彼は僕や彼女の反応が楽しみで


ポケットの中の指輪の箱を握りしめて


道路を横断したそうだ



警察の現場検証と


轢き逃げ犯の自白


一連の背景が見えた





百合は



「ケイスケ。私…私…



「何も言うな。




彼女は僕にすがりつき泣いた


僕も彼女を抱きしめながら泣いた




空には陽平の顔が浮かんで


耳には陽平の声がいつまでも繰り返された

















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