「つらい時こそ伸びる時」。中学生の時、吹奏楽部の顧問の先生が教えてくれた「名言」です。50代くらいの男の先生でした。
吹奏楽部は、イメージ的に緩いふうに思われがちですが、汗の量は運動部なみです。限界まで息を吐き続けて、少し吸って、また、吐いてと繰り返す訓練がありました。ほかにも腕立て伏せ、腹筋、ブリッジ……。結構、つらいです。
そんな時に先生の名言を思い出すと、つらさを忘れましたし、練習でつらいと思うこともなくなりました。
私の担当はサックス。確かに、地道に練習を続けると、速く指を動かせるようになるし、だんだん音程も安定し、着実に上達しました。みんなで目標をもって、何かをつくり上げるのは楽しいです。大会に出場できた時、曲が完成した時は、吹奏楽部でよかった、とうれしくなります。
先生は私たちの前に教えていた学校の吹奏楽部を全国大会に出場させた実績がありました。私たちの学校でも、「全国大会を目指そう」と言ってくださいました。私たちの目標も「全国大会出場」に。全国大会に進むには、練習量が必要ですが、私たちの学校は部活で練習時間を延ばすことには消極的でした。「全国大会に出場したい」という私たちの本気が、なかなか学校に伝わらず、悔しい思いをしました。
だけど、先生はほかの先生たちとぶつかりながら、「練習時間を延ばして欲しい」と説得してくださいました。ほかにも他校との交流をもたせてくれたり、練習のためのホールを確保してくれたり、楽器の相談に乗ってくれたり……。先生は、熱さの塊のような人でした。ただ熱いだけではなくて、「生徒のために」という気持ちが伝わってきました。
先生が教えてくれた名言がもうひとつ。「百回唱えろ」。100回唱えたら、自分がその言葉の通りに動く、という意味です。練習場所に入る前に「私はできる」と唱え、大会の前にはみんなで「私たちはできる」と唱えました。
全国大会出場を目標に、親も楽器の持ち運びを手伝ってくれました。子どもががんばると、親もがんばります。先生と親と私たち、みんなが本気でした。
その結果、全国大会は無理でしたが、東海大会には出場できました。強豪校が多く、なかなか上には進めない吹奏楽の世界。限られた環境で、みんなで力を合わせ、大きな大会に出場できたことは、今も誇りに思っています。
その大会が終わった時、うれしくて泣いているみんなの姿を、先生は穏やかな笑顔で見てくれていました。
その後、私はアイドルを目指しました。アイドルはグラビア、歌、ダンス、演技と何でもやれるし、ファンの一番近くにいられる。テレビで見ていてもかわいい。そんな存在になりたいと思ったからです。吹奏楽部を引退した中3の秋にSKE48のオーディションに合格しました。
SKE48の活動も、みんなで一つのものに向かって、いろいろなものと戦い、何ごとにも熱いところは、私がいた吹奏楽部と共通していると感じています。
SKE48のメンバーは、ひとりひとり夢は違いますが、ひとりひとりが熱い。その姿を見ていると、私もがんろう、という気持ちになります。先日、メンバーの加藤智子さんが雑誌「FLASH」の「ミスFLASH」に選ばれたとき、みんなが大喜び。ひとりにいいことがあった時に、みんなで喜べることはステキです。
SKE48に合格した時、「もうサックスは吹けなくなるのかもしれない」と悩んで、先生に相談しました。その時、先生は「あきらめなくていいんだよ。アイドルの世界でも吹くチャンスはあるよ」と言ってくださいました。
今、私はテレビ番組やコンサートで、サックスを披露する機会が増えています。あのときの先生の言葉がなかったら、特技のサックスを今ほどアピールしていなかったような気がします。先生のおかげで、あきらめずにすみました。
SKE48の2年間で成長した点は、自分のことだけではなく、人の役に立ちたいと思えるようになったこと。たとえば、誰かが泣いているときは、近くにいてあげたいし、リーダーのためには、何かしてあげたい、と思っています。
誰かの役に立つために、ひとりで行動するように心がけています。というのは、一人でいると、人から話しかけられやすく、何かしてあげることもできるからです。
それに気がついたのは、私が落ち込んでいたときに、メンバーの梅本まどかさんが「私はいつも一人だから、いつでも頼ってきていいよ。待ってるから」と言ってくださったことがきっかけです。確かに、一人でいると話しかけやすいと思いました。そのために、意識的にひとりで行動しています。
中学生の頃の夢はサックスプレーヤーや介護福祉士でした。サックスは人に感動を与えることができるし、介護福祉士は高齢者の方の役に立つことができます。SKE48の活動ではファンの方を笑顔にしたい。だから、ライブや握手会で笑顔を見ると、SKE48に入ってよかった、と思います。将来、結婚したら家族のために、一生懸命になると思います。これからの人生、誰かのためにがんばっていきたいです。
■番記者から
取材前のイメージは心優しい素直な女の子。取材後はそこへしっかり者が加わった。
SKE48に合格したのは2年半前。合格後は厳しいレッスンが待ち構えている。へこたれそうになるメンバーも少なくないが、それほど苦にならなかったという。吹奏楽部で鍛えた経験がいきた。
研究生の頃、握手会での対応が注目を浴びる。少しでも長くファンの手を握ることで、相手を楽しませようとしていた。古畑奈和の存在は早くからファンの間に浸透した。
昨年12月のAKB48グループのドラフト会議では、大泣きしている姿が目に入った。指名されない志願者のことを思い、「みんな指名して上げましょう」とメンバーたちに訴えていたようだ。
メンバー思いでもある。本文のとおり、誰かのために役立ちたいと、いつも心に抱いている。後輩たちが声をかけやすいように振る舞い、責任の重いリーダーを支えるために、自分の役割を見つけたいという。
企業組織に例えれば、理想的な中堅社員。将来のリーダー候補としても期待できそうだ。
色々な分野に挑戦できると選んだアイドルの道だが、今は女優に関心がある。子どもの頃から音楽が好きで、「ミュージカル映画に出演したい」という。観客に生きる楽しさを伝えるような女優に育って欲しい、と思う。
さて、お知らせですが、「AKB的人生論」の欄は、毎月最終金曜日が、「乃木坂46 日々是勉強」になります。初回は乃木坂46とAKB48チームB兼任の生駒里奈さんです。
先の組閣祭りで、グループ内外の兼任が活発になりましたが、番記者も「兼任」になります。「AKB的人生論」も引き続き、よろしくお願い申し上げます。