盧在鳳(ノ・ジェボン)元首相インタビュー
先日、本紙には「4・15選挙(韓国総選挙)不正疑惑を解明すべきだ」とする全面広告が載り、盧在鳳(ノ・ジェボン)元首相(84)の名前が筆頭にあった。これほど敏感で不確実な事案について、元首相が公に立場を表明することは容易ではない。
「得票率統計や投票箱、事前投票用紙などで指摘されたさまざまな問題点を弟子の教授らと何度も話し合った。民主主義制度で選挙よりも重要なものはないのに、文在寅(ムン・ジェイン)政権はそうした国民的疑惑を積極的に解明しようとしない」
-一方の主張や陰謀論に影響されたのではないか。仮に票を再チェックし、当初の開票結果と同じ結果が出たらどうするのか。
「もし自分が間違っていたならば、公開謝罪を行い、非難も受ける。しかし、投票結果には一点の疑惑もあってはならない。今回の総選挙では選挙無効訴訟だけで130件余りが起こされた。3カ月以上すぎたが、大法院から全く反応がないと聞いた。選挙無効訴訟は6カ月以内に完了することになっているが、再開票が行われるかどうかさえ不透明になった」
■コロナ対策の政治的利用
-80代半ばの元首相の身分であれば、こんな広告に名を連ねず、世の中と距離を置こうとは思わなかったのか。
「今は体制の危機だ。現政権では通念によって起きてはならないことが毎日起きている。首相を歴任したからといって、安易に暮らす状況ではない」
盧在鳳元首相は盧泰愚(ノ・テウ)政権で大統領秘書室長、首相を務め、指折りの国際政治学者として知られた。ソウル大教授として20年余り在職し、現在も国際政治分野で外国の専門雑誌を欠かすことなく読んでいるという。
-過去7年間、毎週木曜日に弟子の教授らと勉強会を開いていると聞いたが。
「時局の状況を理論的に規定しようとしている。我々がどこにいて、どこに向かおうとしているのかを考える人々がいなければならないだろう。2年前に出版した『韓国自由民主主義とその敵たち』という本もこの会合から生まれたものだ」
-文在寅大統領の任期が3年半過ぎたにもかかわらず、分裂と混乱は変わっていないようだ。周囲の人々に会うと、「この政権では一日たりとも心が落ち着かない」という言葉を聞く。勿論政権支持勢力はそんな観点には全く同意しないだろうが。
「分裂と混乱を引き起こしているのが文在寅政権の政治技術だ。これは敵を設定したり、つくり出したりして、憎悪と復讐(ふくしゅう)心を誘発する。現在行われている光化門集会に対する攻撃もそうした脈絡で理解できる」
-8月15日の光化門集会には雨の中でも5万人以上が集まった。現政権に怒った国民が大半は自発的に集まった。しかし、文大統領は光化門集会の翌日、「国家防疫システムに対する明らかな挑戦であり、容赦できない」と述べた。
「国民の生命が懸かっているコロナ対策は重要な事案だ。しかし、大統領ならば光化門にそれほど多くの人が押し寄せたことについても回答すべきだ。それを軽視し、『国家防疫に挑戦した』というように決め付けるべき事案ではなかった」
-事実関係を追及すると、文大統領が発言した時点での首都圏のコロナ拡大は光化門集会とはほぼ無関係だ。それでも特定の教会のせいにし、サラン第一教会やチョン・グァンフン牧師ばかりを集中攻撃している。
「チョン・グァンフン牧師に個人的に会ったことはないが、現政権に最も激しく対抗してきた彼をはじめとする一部教会勢力をこの機会に抑え込もうとしているように見えた。現政権はさらに大きな悪材料を利用し、自分たちの実情や無能、不正を覆い隠そうとしてきた。いずれにせよ、チョン牧師がそうした攻撃の口実を与えたことが事実だ」
-現政権はそれに先立ち、教会などの小規模の集会禁止を解除し、外食・公演・旅行などのクーポンを発行した。17日は臨時休日とされた。国民にコロナ対策解除のメッセージを既に与えていた。実際に釜山市の海雲台には40万人が押し寄せた。そんな政権が光復節集会の直前にコロナの拡大懸念を掲げたところで説得力がなかった。むしろ政権批判集会を遮断しようとする術策と受け止められたが。
「一部から現政権がコロナ対策を政治的に利用しているという言葉が聞かれる。文在寅政権で重要視すべきなのは『体制』の問題だ。歴代政権ではあらゆる権力行為が自由民主主義体制を前提としてなされた。しかし、現在は体制転覆的状況が進んでいる。私はその出発点が朴槿恵(パク・クンヘ)弾劾だったとみている」
■法の支配
-朴槿恵弾劾は閉鎖的な国政運営スタイル、すなわち「国政介入」で触発されたものだが。
「それは朴槿恵弾劾というよりも、『体制弾劾』の性格でとらえるべきだ。ろうそく集会を使って体制を覆す弾劾を進めたのだ。当時の国会での弾劾訴追案や憲法裁判所の弾劾決定文を見ると、ほとんど法律文書ではなかった。後日法学部の教授らと会った席では「ソウル大法学部では学生に法哲学も教えないのか」と責められた。合法性には『法の統治』と『法による統治』がある」
-同じことではないのか。いわゆる「法治主義」とは。
「前者は立憲主義だ。憲法に基づき権力行使の恣意(しい)的な乱用を防ぐものだ。しかし、後者の『法による統治』はある状況で多数党がつくった法律で恣意的な権力行使を可能にするものだ」
-民主主義制度は多数党による支配を正当化していないか。
「多数の支持を得て、ヒトラーやスターリンなど独裁者も恣意的な法律をつくった。最近の韓国の多数党がつくった高位公職者犯罪捜査処(高捜処)法がそういうケースだ。しかし、高捜処法は憲法的な根拠がない。『法の支配』ではないという意味だ。不動産規制と税金問題も多数党が法律を改正して推進できる。しかし、租税法定主義と私有財産保護という憲法精神を傷つけるものだ」
-そうした点を指摘すると、保守の既得権だと決め付けられる。過去には知識人と専門家が政権を批判すれば、聞くふりぐらいはした。しかし、現政権では数千人を超える教授で構成する『社会正義のための全国教授会』がある懸案について集団声明を発表しても、『保守系教授のお決まりの意見』と扱われてしまう。
「過去には自由民主主義という前提で保守と進歩が分かれた。現政権ではこれまで合意されたそういう前提が崩れた。今の韓国社会は『保守対進歩』ではなく、『自由民主主義対全体主義』の対立構図と見るべきだ。文在寅政権は自由民主主義体制を変えようとしている。彼は自分を『大韓民国大統領』とは考えていないようだ。だから自分も彼を大統領だとは思っていないが」
-選挙で当選した大統領に言い過ぎではないか。
「そうかもしれないが、大統領という人物が自ら大韓民国の存在を認めないのにどうするのか」
-どういう根拠でそう思うのか。
「これまでの発言を総合すると、文大統領は大韓民国を真の主権国家とは見ていない。解放からこれまでの歳月をまだ成し遂げられていない民族国家建設の闘争過程と考えているのだ。彼が平壌訪問で『南側の大統領』と語ったのもそういう脈絡だった」
-学生運動出身の李仁栄(イ・インヨン)統一部長官が『国父は李承晩(イ・スンマン)ではなく、金九(キム・グ)でなければ』と発言したのもその延長線上だが。
「彼らは解放空間(1945-48年)に共産化されるところだった南韓で自由大韓民国を建てた李承晩を分断の元凶のように見ている。そこには『李承晩は米国帝国主義の走狗で、民族分断をもたらしたのであり、大韓民国は米国の植民地だ』という認識が根底にある。それは北朝鮮の政権が宣伝してきたことだ」
-大学時代に流行した「北朝鮮政権の正当性」「新植民地」「買弁資本(外国資本に依存する地場資本)」といった時代遅れの用語が現政権で復活しそうだ。
「彼らは大韓民国を否定しても経済的に発展した事実は仕方なく認める。しかし、それが買弁資本があったから発展したという但し書きを付ける。飯も食えない国で外資を誘致することは並大抵の努力ではない。誰が物乞いにカネを貸すのか。外資を導入できなければ大変なことになるのに、それを買弁資本と非難する。社会運動出身の政治家によるそうした主張がまだ通用する。現政権は妨害者である米国を追い出し、南北が統一されなければと…」
-現在の大韓民国は臨時国家にすぎず、統一されてこそ「完全な建国」だというが。
「文大統領は民族が分断された状況で米国に対抗し独立運動を行っている南側のリーダーを自負している。事実『一民族一国家』という世界史の観点ではとても例外的な事例だ。同じ民族でも同じ国にならなければならないわけではない。同じ宗族的範疇に属する英国と米国は我々の基準では必ず統一されなければならないことになる」
-進歩に分類される崔章集(チェ・ジャンジプ)高麗大名誉教授もそうした論議を展開したことがある。「反統一勢力」として批判を受けかねないが。
「大韓民国は個人の自由と権利に基づく自由民主体制であり、北朝鮮は『全ては一つのため、一つは全てのため』という全体主義体制だ。その中で住民には異なるアイデンティティーが形成されてきた。自由民主主義体制で統一努力を行うのとは別に、そうした現実に目を閉じ、感傷的民族概念でアプローチすべきことではない」
■体制を覆す
-現政権では我々がこれまで正しいと考えてきた価値や道徳観、常識が全て崩れた。与党政治家の中にはこれまでそんなではなかったのに、突然何かに感染したかのようにおかしくなった人物が増えた。
「今までの自由民主主義体制の基準から見れば、現政権はとんでもないことをしている。メディアはそういう物差しで批判してきた。しかし、現政権に通用しただろうか。もしそう信じているならばそれは大きな錯覚だ」
-批判の物差しが間違っていたというのか。
「現政権は別の目的を持っているとみている。例えば、メディアは不動産政策の失敗を批判するが、現政権にとってはそれが失敗するほど成功なのだ。政府の支援に依存する国民の数が増えることが体制を転覆するという目標に一致するからだ。過去には北朝鮮でそうした工作をひそかに展開していたが、現在は韓国が自ら体制を変えようとしている」
チェ・ボシク上級記者