異文化交流クイズ。ジャポニズム特集第10回は「英米の『絵画主義写真』への日本美術の影響を定着させることに貢献した美術評論家サダキチ・ハートマン。彼の父親は何処の国籍の持ち主だったでしようか?」という問題でした。
サダキチの父親の名前は『カール・ヘルマン・オスカー・ハルトマン(1840-1929)』ということで、今回の正解は・・・『ドイツ人』でした。
長崎で生まれ、ドイツのハンブルグで育ったサダキチ・ハルトマン(ハートマン)は、アメリカでの写真評論や美術評論も有名ですが、戯曲作家に俳優と、かなりマルチな活動をされていた人物だそうです。今日の日本ではほとんど知られていない人物ですが。
さて、これにて10週にわたったジャポニスム特集は終了ということで最後の総括の記述を。
まずジャポニスムが驚くほど素早く拡がった背景として、ルネッサンス期に誕生した近代西欧的な物の見方・考え方が、19世紀も半ばになってようやく脱構築しようと云う動きがあったことが挙げられます。
その際に利用されたのが、非西欧的な物の見方・考え方であり、ジャポニスムはその一角を占めたわけです。
この動きは「視覚芸術」においてより顕著であり「印象派絵画」という非常に分かりやすい実例があったため、芸術運動として表面上は映るわけですが、その実態としては、もっと日常生活に密着し、かつ生活の在り方・考え方にまで影響を及ぼすものであったわけです。
以下の評論は、日本美術と写実主義を代表するクールベに関する文章ですが、よく読むと日本美術の影響が、単純に絵画に留まらないことを示唆しています。
『日本美術の発見は同時にクールベの写実主義の平凡で生気のない側面を暴露した。決して空虚な物語という暗礁に乗り上げることのないこの才気あふれた国民は、絵画において、現実の断片の散文的な複写を拒否していた。
彼らのおかげで物質の重みから開放されたヨーロッパ絵画は、敏感で繊細になった。彼らは我々に、絶妙な省略の術や簡漸なデッサンの手法、線の特別な動きによる遠景描写の秘密、タッチの素早さ、モチーフを完成せず部分によって全体を喚起して見る人を驚かせ引き込む才能といったものを教えてくれた。彼らは芸術家たちに肉付けをデッサンし表現するための新しい方法を示唆した。必ずしも物の全体を表現せずとも、その物の印象を与える方法………。
彼らは我々に本質的なものにとどめられた簡潔な素描に対する嗜好を与え、単純な輪郭線に尽きることのない豊かさを発見させてくれた。さらに鳥瞰的な眺望に加えて、密集した集まりやグループや群衆を遠景に追いやって前景におかれた細部がそれを活気づけるという傾向(この配置はそう思えるほど有り得ないものではなく、写真によって確認されてさえいる)もまた、日本人に由来するのである。
日本の影響は、彩色においても構図やデッサンにおけるのと同じようにはっきりと現れる。職人たちを描いているクールベの絵はポローニャ派の法則である褐色の横溢と赤色の影が戸外の主題には向いていないことを証明していた。近代的な主題にはどんな油の痕跡もない新しいパレットが必要であった。ところで日本からやってきた作品は褐色が画家を作るのではないことを良い時期に示してくれた。それらはこれまで捉えられていなかった無限に変容する移ろいやすい光の現象を新しい見方で提示していた。それらの明るいハーモニーの甘美さは、研究され写し取られずにはいなかった。
これらすべての領域において、日本美術はヨーロッパ美術に真の革命を引き起こしている。』
少々ベタ褒め過ぎの感がないではありませんが、浮世絵に代表される日本の絵画が、絵の対象のみならず、絵を描く前提としての物の考え方にまで影響を及ぼしていることが読み取れます。もっとも更に穿って読んでみると、これって、殆どそのまんま「現在の漫画」の技法にも通じるんですよね。
「漫画こそ浮世絵の系譜を継ぐものなのかもしれない」と考えると、現在ヨーロッパでも漫画が親しく読まれることになったのは感慨深いことかと。
ただ最後にこれだけは確認ですが、かくして日本美術を取り込んだ西洋絵画ですが、浮世絵の技法に学びつつも、単純な模倣で終わるのではなく、それを更に新たな芸術に高め昇華していきます。それだからこそ後世に残る、後世の我々が見ても感動できる絵画が完成が出来上がったわけです(ちなみにこの動きをまさに体現しているのが、ゴッホですね)。果たして日本の漫画は、新しい芸術を生み出す母体たりえるのでしょうか?
以上、ジャポニスム特集でした。次回から新シリーズが開幕します。
サダキチの父親の名前は『カール・ヘルマン・オスカー・ハルトマン(1840-1929)』ということで、今回の正解は・・・『ドイツ人』でした。
長崎で生まれ、ドイツのハンブルグで育ったサダキチ・ハルトマン(ハートマン)は、アメリカでの写真評論や美術評論も有名ですが、戯曲作家に俳優と、かなりマルチな活動をされていた人物だそうです。今日の日本ではほとんど知られていない人物ですが。
さて、これにて10週にわたったジャポニスム特集は終了ということで最後の総括の記述を。
まずジャポニスムが驚くほど素早く拡がった背景として、ルネッサンス期に誕生した近代西欧的な物の見方・考え方が、19世紀も半ばになってようやく脱構築しようと云う動きがあったことが挙げられます。
その際に利用されたのが、非西欧的な物の見方・考え方であり、ジャポニスムはその一角を占めたわけです。
この動きは「視覚芸術」においてより顕著であり「印象派絵画」という非常に分かりやすい実例があったため、芸術運動として表面上は映るわけですが、その実態としては、もっと日常生活に密着し、かつ生活の在り方・考え方にまで影響を及ぼすものであったわけです。
以下の評論は、日本美術と写実主義を代表するクールベに関する文章ですが、よく読むと日本美術の影響が、単純に絵画に留まらないことを示唆しています。
『日本美術の発見は同時にクールベの写実主義の平凡で生気のない側面を暴露した。決して空虚な物語という暗礁に乗り上げることのないこの才気あふれた国民は、絵画において、現実の断片の散文的な複写を拒否していた。
彼らのおかげで物質の重みから開放されたヨーロッパ絵画は、敏感で繊細になった。彼らは我々に、絶妙な省略の術や簡漸なデッサンの手法、線の特別な動きによる遠景描写の秘密、タッチの素早さ、モチーフを完成せず部分によって全体を喚起して見る人を驚かせ引き込む才能といったものを教えてくれた。彼らは芸術家たちに肉付けをデッサンし表現するための新しい方法を示唆した。必ずしも物の全体を表現せずとも、その物の印象を与える方法………。
彼らは我々に本質的なものにとどめられた簡潔な素描に対する嗜好を与え、単純な輪郭線に尽きることのない豊かさを発見させてくれた。さらに鳥瞰的な眺望に加えて、密集した集まりやグループや群衆を遠景に追いやって前景におかれた細部がそれを活気づけるという傾向(この配置はそう思えるほど有り得ないものではなく、写真によって確認されてさえいる)もまた、日本人に由来するのである。
日本の影響は、彩色においても構図やデッサンにおけるのと同じようにはっきりと現れる。職人たちを描いているクールベの絵はポローニャ派の法則である褐色の横溢と赤色の影が戸外の主題には向いていないことを証明していた。近代的な主題にはどんな油の痕跡もない新しいパレットが必要であった。ところで日本からやってきた作品は褐色が画家を作るのではないことを良い時期に示してくれた。それらはこれまで捉えられていなかった無限に変容する移ろいやすい光の現象を新しい見方で提示していた。それらの明るいハーモニーの甘美さは、研究され写し取られずにはいなかった。
これらすべての領域において、日本美術はヨーロッパ美術に真の革命を引き起こしている。』
少々ベタ褒め過ぎの感がないではありませんが、浮世絵に代表される日本の絵画が、絵の対象のみならず、絵を描く前提としての物の考え方にまで影響を及ぼしていることが読み取れます。もっとも更に穿って読んでみると、これって、殆どそのまんま「現在の漫画」の技法にも通じるんですよね。
「漫画こそ浮世絵の系譜を継ぐものなのかもしれない」と考えると、現在ヨーロッパでも漫画が親しく読まれることになったのは感慨深いことかと。
ただ最後にこれだけは確認ですが、かくして日本美術を取り込んだ西洋絵画ですが、浮世絵の技法に学びつつも、単純な模倣で終わるのではなく、それを更に新たな芸術に高め昇華していきます。それだからこそ後世に残る、後世の我々が見ても感動できる絵画が完成が出来上がったわけです(ちなみにこの動きをまさに体現しているのが、ゴッホですね)。果たして日本の漫画は、新しい芸術を生み出す母体たりえるのでしょうか?
以上、ジャポニスム特集でした。次回から新シリーズが開幕します。