一歩先の経済展望

国内と世界の経済動向の一歩先を展望します

足元の円安と植田総裁発言、日銀利上げ前倒しの可能性も 物価上振れ継続なら

2025-02-12 13:22:16 | 経済

 12日の東京市場で、ドル/円が153円後半とドル高・円安が進行した。同じ日に日銀の植田和男総裁は衆院財務金融委で食料品の値上がりが一時的ではなく、期待物価上昇率に影響を与える可能性にも言及した。筆者は、円安が進行するなら日銀の次の利上げが市場予想よりも大幅に前倒しされる可能性があると指摘したい。

 

 <パウエル発言と米長期金利上昇>

 12日のドル/円は、複数の要因が絡み合って前営業日と比べて1円50銭近くドル高・円安が進んだ。1つは、米長期金利の上昇だ。パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長は11日の米上院銀行委で、利下げを急ぐ必要はないとの見解を表明。11日の取引で10年米国債利回り(長期金利)は4.2ベーシスポイント(bp)上昇の4.537%まで上昇し、市場はドル高・円安で反応した。

 また、トランプ米大統領が10日に鉄鋼とアルミニウム製品に25%の関税をかけると公表した際、半導体や医薬品に加え、自動車にも追加関税を行う検討をすると言及し「関税の実施はドル高」という市場心理を刺激。ドル/円が一段とドル高・円安方向にシフトする「燃料」を提供したかたちになった。

 

 <自動車への関税賦課に言及したトランプ大統領>

 トランプ大統領による自動車を対象にした関税賦課の可能性への言及は、円安が進行したにもかかわらず、日経平均株価の上値を抑えることになった。輸送用機器の株価指数は一時、前営業日比で1%を超す下落となり、市場の警戒感がようやく高まってきたと言っていいだろう。

 当欄で何回も指摘しているが、2024年の対米輸出のうち、自動車だけで6兆0261億円と全体の28.3%を占め、8兆6416億円にのぼる対米貿易黒字の中核を示している。

 これとは別に日系自動車メーカーのメキシコ工場から約77万台の自動車を輸出しており、トランプ政権からみると「迂回輸出」と映っている可能性がある。

 東京市場の多くの関係者は、先の日米首脳会談が「成功した」とみて、自動車への関税賦課や円高誘導への日米協調の可能性が低下した、とみていたようだ。

 だが、トランプ政権は1回の首脳会談だけで日本に全ての「免罪符」を渡すほど甘くないだろう。実際、第1次トランプ政権と安倍晋三政権が2019年10月に合意した日米物品貿易協定(TAG)は、トランプ大統領の新たな関税政策の連発の中で、事実上、反故(ほご)にされた感がある。

 

 <ドル高・円安が加速なら、日本の食料品値上げに影響>

 上記で言及したように、トランプ2.0における関税実施は、まだ「序の口」で4月1日までに米政府の関係機関がトランプ大統領に報告する内容を待って、いわゆる「一律関税」の対象品目が決まってくる。

 米国以外の国にとって厳しが増すほど、外為市場では「ドル高」材料と捉えられ、ドル/円ではドル高・円安が進行するだろう。

 そうなると、輸入品への依存度が高い日本の食料品価格は、一段と値上がりの勢いを強くする。帝国データバンクによると、今年2月に値上げ予定の食料品は1656品目に上り、2025年に値上げが予定される食料品は早ければ4月にも1万品目を超えるという。

 

 <食料品値上げに言及した植田総裁>

 ここで注目されるのは、12日の植田日銀総裁の発言だ。植田総裁は衆院財務金融委で、食料品など購入頻度の高い品目が値上がりすることで、消費者物価指数(CPI)の総合指数が前年比で2%を超えている点に言及。「国民生活に強いマイナスの影響を及ぼしていることは深く認識している」と述べた。

 その上で食料品の値上がりが一時的ではない可能性について触れて「人々のマインドや期待物価上昇率などに影響を与えるリスクはゼロではない。そうした観点も取り入れて適切に政策運営していく」と指摘した。

 筆者は、食料品価格などの上昇によって物価上昇率の高まりが継続しそうだと日銀が判断した場合、これまで重視してきたサービス価格の上昇が比較的ゆっくりであっても、消費者の期待物価上昇率の押し上げに影響し、全般的なインフレ心理を強めるなら、利上げの本格的な検討の時期を早めるのではないか、と予想する。

 

 <新NISAや対米投資の増加、実需は円売り増大の気配>

 今のところ、市場は次の利上げの時期の大幅な前倒しには無警戒で、12日の市場では4月30日ー5月1日の利上げ織り込みが10日の26%から24%に小幅低下した。

 だが、このままFRBの利下げ中断が続き、トランプ大統領の関税政策が相次いで実施されるなら、ドル/円は足元の153円台からさらに円安が進む方向にシフトするだろう。

 新NISA(少額投資非課税制度)による米株投資の増加や、米国での日本企業による直接投資の高まりなどを勘案すれば、ドル/円の需要はドル買い・円売りに傾く。

 円安がさらに進むということになれば、円安による食料品価格の上昇を背景にしたCPI上昇率の高まりへと波及し、この先の一段の物価上振れ懸念の増大へとつながるリスクが高まる。

 日銀がこのようの判断するなら、次の利上げは市場織り込みの高い7月からかなり前倒しされる可能性が高まるだろう。

 

 今後のFRBの利下げペースやトランプ関税の動向、新NISAによるドル買い需要、日本企業の対米直接投資のニュースなどドル買い需要が強まるニュースは、日銀の利上げ判断に大きな影響を与えると予想する。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 米の鉄鋼関税や財務相間の為... | トップ | 強い米CPIと円安、輸入物... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

経済」カテゴリの最新記事