一歩先の経済展望

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自動車輸出の不振は不吉な前兆、自民党総裁候補に足りない危機感と具体策

2024-09-18 13:56:22 | 経済

 18日に公表された8月貿易統計の結果を見ると、輸出の主力である自動車の不振が目立っている。かつて自動車とともに輸出の花形だった電気機器の国際競争力が低下し、日本の稼ぐ力の源泉ともいうべき自動車輸出の足元における不振は、新たな成長産業を見出せない日本経済にとって「不吉な影」とも言える。

 論戦が活発化している自民党総裁選では経済成長もテーマになっているが、このままでは主力打者が不在になりかねないという危機感が見えない。日本経済はどこで稼ぐのか、新たな成長の芽をどこに見出すのかという議論がなければ、総裁選後にお決まりの経済対策を打ち出し、補正予算で公共投資を増やしても潜在成長率の底上げにつながらないという「空騒ぎ」を繰り返すことになると指摘したい。

 

 <円安でも貿易赤字体質>

 8月の貿易統計によると、輸出は前年同月比5.6%増の8兆4419億円。半導体等製造装置や半導体等電子部品、科学光学機器などの伸びが目立った。輸入は前年同月比2.3%増の9兆1372億円となり、貿易収支は6953億円の赤字になった。市場が予想していた1兆3000億円台の赤字幅を下回ったものの、8月のドル/円が150.89円と前年より6.1%の円安だったにもかかわらず、輸出数量が同2.7%減と7カ月連続で減少。貿易赤字体質から脱却できる兆しが見えないことは7月と同じだった。

 

 <目立つ自動車輸出の減少幅、対中減少にみえるEⅤ苦戦のインパクト>

 それよりも深刻なのは、日本経済にとって最大の稼ぎ頭である自動車の輸出不振が顕著になったことだ。輸出額は前年同月比9.9%減、輸出数量は同11.8%減だった。

 中でも対米国、欧州連合(EU)、中国の落ち込みが目立った。輸出金額は対米が同14.2%減、対EUが同22.6%減、対中が同30.9%減と軒並み縮小。さらに輸出数量は、対米が同22.5%減、対EUが同31.2%減、対中が同29.4%減と落ち込みが目立った。

 8月は日本に台風が接近、上陸した影響で自動車工場の操業停止日数が大幅に増えたことが影響したが、問題はそれだけにとどまらない。ついに自動車産業にも国際競争力の低下の兆しが出始めている可能性が一部の専門家の間でささやかれ出している。

 例えば、中国では政府からの販売補助金が電気自動車(EⅤ)に偏重して給付されていることもあり、EⅤで出遅れている日本勢の販売が劣勢となっているようだ。中国では、資産デフレの兆候が一段と顕著になっているため、消費者は自動車などの耐久消費財の購入を控えており、補助金支給の有無が販売の優劣に直結している。

 9月以降、自動車輸出に回復の動きが見えないようなら、日本経済を怪しい黒雲が包み込むリスクも上昇しかねない。

 

 <23年度の電気機器、ネットで5644億円の輸入超過>

 筆者が輸出動向に懸念を抱くのは、日本が「貿易大国」と言われた1980年代から90年代にかけて自動車とともに日本の輸出の両輪と言われていた電気機器の凋落が甚だしいからだ。

 2023年度の貿易統計によると、電気機器の輸出総額は17兆0736億円なのに対し、輸入総額は17兆6380億円と差し引きで5644億円の輸入超過に転落している。

 このまま自動車の輸出不振が継続するようなら、輸出で稼ぎ出す「主力打者」が不在となり、貿易赤字の構造が定着するだけでなく、円安の地合いが長期化してさらに貿易収支を悪化させるサイクルに突入しかねない状況にあると筆者は懸念している。

 

 <貿易赤字定着なら、120円割れの円高に高いハードル>

 足元でいったん161円台まで進行した円安は輸入物価の上昇を起点にした食料品などの値上げを招き、消費者からの評判が悪くなっている。こうした状況下で与党政治家の中にも「行き過ぎた円安は物価上昇を招いて不適切」との声が上がりだした。

 だが、貿易収支の構造が赤字定着に傾くなら、日米の金融政策のベクトルが逆方向になっても、かつてのようなドル/円の100円割れの可能性は限りなくゼロに接近し、120円割れも簡単には実現しなくっているのが現状ではないか。

 

 <どこで稼ぐのか、見えない自民党総裁候補の具体策>

 ここで現在進行中の自民党総裁選での論戦を見ていると、経済成長の重要性を強調する候補者が多いものの、具体的にどのような手法で成長率をアップさせるのか全く具体先が見えてきていないのが実情だ。

 貿易統計の視点から見ても、国内の製造拠点の海外流出で円安のメリットはほとんど生かされておらず、最後の頼みの綱の自動車の先行きにも大きな懸念が生じていることは、これまで指摘してきたところだ。

 この厳しい現状をどのように打破していくのか。掛け声だけでは、これまで繰り返されてきた公共事業の積み増しを中心にした経済対策の実施で当座の成長率は支えられるものの、潜在成長率は上がらずに国の債務だけが累増していくということになりかねない。

 日本経済のどこを強化して、どの分野で具体的に稼ぎ出すことを構想しているのか。27日の投開票日までに一人でも現実的なプランを提示するなら、まず、マーケットが真っ先に反応するだろう。

 だが、残念ながら今のところはその兆しすら見えていない。


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