8月米雇用統計後の日経平均株価は、米景気後退への懸念に加えて円高進行も加わって下げ幅は一時、1100円を超えた。円高に弱い日本株の脆弱さが露呈したが、海外勢の一部では自民党総裁選への失望感が早くも浮上しているという。それは「成長戦略の不在」だ。成長性のない日本経済や日本株は、グローバルな株式市場の下落局面で売られやすい株として意識されているという。
また、足元における中国経済の不振が中国株式市場からの資金流出を招いているが、複数の市場筋によると、「空売り」の規制などが強化された中国株式の下落リスクをヘッジする目的で、中国市場への依存度が高い日本株を売る動きも出ているという。円高、見えない成長戦略、中国経済不振の余波という3つの要素が、日本株を圧迫する要因として意識されようとしている。
<米雇用統計後、9月の50bp米利下げの思惑後退>
注目されていた8月米雇用統計は、非農業部門雇用者数が前月比14万2000人増と予想を下回ったものの、失業率は4.2%と前月の4.3%から小幅低下した。9月の米連邦公開市場委員会(FOМC)での50ベーシスポイント(bp)の利下げ織り込みは、発表前の43%から31%に低下した。
しかし、米株式市場では米景気後退への懸念が浮上し、ダウは410.34ドル(1.01%)下落。ナスダックは2.55%、S&P総合は1.73%下げた。
9日の日経平均株価は一時、前週末比1100円を超える大幅下落となった。米株を押し下げた米景気後退の懸念に加え、ドル安・円高の進行が日経平均の下げを増幅させた。9日午前にドル/円は142円前半までドル安・円高が一時進行した。
<成長戦略不在の自民党総裁選、一部の海外勢に失望感>
日本株に対する海外勢のイメージは足元で悪化している可能性がある。一部の海外勢は自民党総裁選(12日告示・27日投開票)に立候補表明もしくは表明予定の候補者から、目ぼしい「成長戦略」が全く打ち出されていないことに失望感を抱いているという。一部の候補者が表明しているライドシェアの完全解禁や解雇規制の緩和は、政策対応のパーツとしては評価できるものの、潜在成長率が1%に達しない日本経済を再浮上させるパワーに欠けるとみられているという。
<中国で深まるデフレ懸念、中国株下落が日本株に波及も>
さらに隣国・中国の経済的停滞の影響を日本経済が受けるのではないか、との見方も急速に台頭しているという。今年前半は中国株売り・日本株買いの動きが目立った局面もあったが、足元では中国株と日本株を共に売り出す海外勢の動きも散見されるという。
9日発表の8月の中国消費者物価指数(CPI)は前年比プラス0.6%と半年ぶりに高い上昇率になったものの、食品と燃料の価格を除いたコアインフレ率は同プラス0.3%と、7月の同0.4%から低下。8月の生産者物価指数(PPI)は前年比マイナス1.8%と前月の同マイナス0.8%から下落幅が拡大した。
デフレ懸念の広がりで中国の30年物国債利回りは9日午前の取引で2.30%を割り込んで過去最低を記録。9日の市場で中国株は7カ月ぶりの安値水準まで下落した。
一部の海外勢は、中国株式市場における取引規制で売りたいときに機動的に売れない状況をにらみ、代わって中国経済への依存度が高い日本株を売ることで、リスクを軽減する動きを見せ始めているという。
このように日本株には、米景気後退のリスクに加え、1)円高進行、2)成長戦略の不在、3)中国経済の停滞懸念──という3つのリスクを抱え、上値が重くなってきているという。
<日本株は切り返せるのか>
9日午後の日経平均株価は、切り返しの動きが見られたものの、結局、終値は前週末比175円72銭安(0.48%下落)の3万6215円75銭と5日続落となった。
日本株に固有の3つの下落リスクを乗り越えて、回復が可能なのかどうか。チャート的にも微妙な状況になりつつある今週の日経平均株価は、自民党総裁選の告示をこなしつつ正念場を迎えそうだ。