米大統領選に向けたハリス米副大統領とトランプ前大統領による10日のテレビ討論会は、ハリス氏優勢の見方が形成されつつある。11日の東京市場ではドル安・円高の反応につながり、結果的に日経平均株価の大幅続落を招いた。暗号資産(仮想通貨)業界を支持するトランプ大統領の浮沈との関連で行方が注目されていたビットコインは前日比2%を超えて下落。ドル高・株高・エネルギー関連の価格上昇を誘発した「トランプトレード」の逆回転が短期的に活発化する可能性がある。
<CNNの緊急調査、63%対37%でハリス氏優勢>
米CNNが討論会の終了直後に実施した緊急調査によると、ハリス氏勝利との判定が63%、トランプ氏勝利との判断は37%だった。
バイデン大統領の選挙戦撤退表明前の局面で、トランプ氏優勢と判断したマーケットは、トランプ氏の減税実施や大幅関税引き上げなどを前提に米長期金利上昇/ドル高/米株高/エネルギー関連商品の上昇/暗号資産の上昇─というトランプトレードを仕掛ける動きが目立っていた。
ところが、この日の討論会におけるハリス氏優勢が伝わると、ドル安・円高から日経平均株価の大幅下落へとつながった。一部では11日午前に行われた日銀の中川順子審議委員の講演で追加利上げに前向きな姿勢を示され、円高の材料にされたとの声もあったが、植田和男総裁や高田創審議委員らが述べてきた内容と変わりなく、筆者は円高方向の取引の「後付け的理由」にされたと考える。
<10日NYから円高の足音、中国低迷ー原油下落が材料に>
ドル/円は、10日NY市場での取引からドル安・円高の圧力がかかり始めていた。大きな材料として意識されていたのは原油価格の下落だ。中国経済をはじめとした世界的な景気減速に伴う需要鈍化への懸念が高まり、米国産標準油種WTIの中心限月10月物の清算値は、前日比2.96ドル(4.31%)安の1バレル=65.75ドルと約2年9カ月ぶりの安値を記録。これが米金利低下ードル安への流れを形成した。
特に円は、原油下落で日本の貿易赤字が縮小するとの思惑も生み、対ドルでの上昇率が他の主要通貨に比べて大きくなっていた。
<ビットコインも下落、中国経済の懸念は日本株にも波及>
そこにハリス氏優勢の情報が加わり、ドル/円は一時、140円後半までドル安・円高が進行。日経平均株価は7日続落の3万5619円77銭(前日比539円39銭安・1.49%下落)で取引を終えた。
トランプ氏の劣勢は、11日午前(東京市時間)からビットコインの下落が目立ち始めたことでも示されていた。前日比2%を超えて下落し、5万6200ドル台で取引される場面もあった。
トランプトレードの巻き戻しがどこまで継続するのか、11日のNY市場市場での取引を見ないとはっきりしないが、日本株にとっては「痛手」になる可能性がある。というのもドル高の転換は円高に直結し、輸出関連の製造業のウエートが高い日経平均株価を直撃するからだ。
さらに原油安の元凶として意識されつつある中国経済の資産デフレを起点にした経済低迷は、中国経済への依存が相対的に高い日本経済にとってもマイナス面が大きいという構造問題にもつながる。9日の当欄で指摘したように、一部の海外勢は中国株と日本株を同時に売っているという。
<日本企業と個人の心理に影響するのか、円高の行方に注視必要>
ハリス氏の優勢が今後、はっきりするようならトランプトレードの巻き戻しだけでなく、増税路線のハリス氏の政策を米市場関係者が嫌い、米株安/米長期金利低下/ドル安─という流れが明確になる可能性もある。そのケースでは、ドル安・円高の圧力が今まで以上にかかりやすくなるという市場心理の変化を伴うことになるのではないか。
ハリス氏とトランプ氏の討論会後、にわかに鮮明になってきた円高と日本株安という流れがしばらく継続するようなら、日本の企業と個人のセンチメント変化を通じて日本経済に大きな影響を及ぼすという可能性にも目を向ける必要が出てくるかもしれない。
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