筑波山：日本百名山達成（前編）

「百の頂に百の喜びあり」


深田久弥氏　『日本百名山』
山登りを始めてから、一体何度この名前に出会っただろう。名著と呼ばれるこの本は、いつしか山ヤの間で目標に昇華し、老若男女その選ばれし百名山を登ることが山ヤにとっての一つの大きな目標となっていた。日本の山を登るのなら、意識せずとも意識させられる山、それが百名山。そんな一大ブームともいえる山登りのスタイルに関しては、賛否両論あるが、難易度もバリエーションも豊かな100座の山々、そして登るために全国を駆け抜けるという行動力からして、その偉業達成を素直に感心しないものはいないだろう。

そんな偉業にあと一つと迫っている女性がいた。
大人気山登りブログ『やまやのはなみち』のまゆ太さんだ。99座を終えて、あと一つを残すのみとなった気持ちがどんなものかは分からない。ただ、本人に聞いたところでは、「百名山を達成するぞ！」といった気負い全くないらしい。

『まゆ太さんらしい』

この報告の随所に登場するこの言葉。今回この記事を書きながら、一体何度そう思っただろうか。





まゆ太さんの最後に残した100座目は、百名山でもっとも低い山となる筑波山(877m)であった。埼玉から出掛けても1時間30分程度で登り始められる山。しかも、百名山で一番低く、さらに、ロープウェイを利用すると10分以内で山頂に着けるという、一番楽に登れる百名山である。そんな予備知識が無くとも、

「何故、筑波山？」

と、普通聞きたくなる。
思い出に残りそうなピークへ行くとか、なかなか行く機会が無くどうしても残ってしまったとか、今まで頑張ってきた100座目ラストを飾る山という意識があるので、どうしても何か理由があるのでは、と勘ぐってしまう。
本人に聞いてみても「いや、何となく」という答えが返ってくる。本人にとって何かしら意味付けがあったとしても、まゆ太さんの言葉からは、特に気負いも感じられない。強いてあげればということで聞いた　「￥さんがすでに登っていた山だったから」という微笑ましい答えが、恐らく一番の理由なのだろう。まゆ太さんらしい。



そんなまゆ太さんの百名山達成の瞬間に、ご一緒させて頂けることになった。
普段は休日の暇さ加減を嘆いているが、一生に一度あるかないかの機会に、暇で良かったと心から思う。そうと決まれば、早速参加者でお祝いの準備といきたいところだが、いかんせんどうしてよいやら分からない。というより、誰が来るのかも分からない。いつもなら、TiCAさんという素晴らしいプロデューサーがいるので、安心してADとして働けるのだが、今回は残念ながら参加が難しいとのこと。他の名プロデューサーは、と考えてみると・・・まゆ太さんとなるが、今回は主役。この時ほど、お二人のありがたみがよく分かった瞬間はなかった。結局、個人／連名それぞれ思い思いに準備することになり、いよいよ当日を迎えたのであった。

当日。
まゆ太さんの達成を願ってか、雨になるのを無理やり土俵際で押さえ込んでくれているような、そんな不思議な予報となったつくば地方。出発時点では、まだ夜明け前なので分からないが、出来ればスカッと晴れてもらいたい。
最初に、￥さん＆まゆ太さん、Lisaさん、かいねこさんが合流。こんな大舞台であるから、まゆ太さんは、もっと気合い乗りが凄いのかと思いきや、いつもと変わらぬ自然体な様子は、ある意味凄い。途中の乗換えでゆっきーさん、つくばエキスプレスでheppocoさん＆隊長さん＆たけさん、つくば駅にてエリックハイデンさんに合流して、今回の百名山ツアーは、合計９名となるようだ。とはいえ、まゆ太さんの記念山行、しかも筑波山ともなれば、一声かけただけで、山頂が溢れてしまう程になることは、想像に難くない。本人は気付いていないかもしれないが、それだけまゆ太さんファンは多いのである。しかし、そんな状況を知ってか知らずか、こじんまりとやりたいということで、参加出来ない方々も多くいたが、この人数となったそうである。

つくば駅からはバスにて移動。
筑波山は、人気があるとは聞いていたが、早朝からなかなかの人出である。しかし、我々のようなザック（しかも、やけにデカイ）を担いでいる人など少数派となるのが、ちょっと面白い。筑波山神社にて下車すると、前を遠足なのか蟻のような列をなして団体が歩いていく。やはりとても人気のようだ。

今回のメンバーで、筑波山を歩いたのは、地元のエリックハイデンさんと百名山達成者の￥さんと初デートは筑波山と言ってはばからないかいねこさん。これだけの歴戦の山ヤを集めても３名しかいないというのは、百名山なのに面白い山である。
経験者ということで、奇しくも先頭となったのはかいねこさん。しかし、スタートして五分もかからずに道を間違えるあたり、違う意味で期待を裏切らない。かなり恥ずかしそうに、スゴスゴと後ろに下がってしまった。いや、もしかすると、ただ狛犬を撮影したかっただけかもしれないが・・・。



筑波山神社にて、今回の成功を願い参拝。
恐らく数名は、せっせと縁結びの願い事をしていたに違いない。
このままズルズルと登山開始をしてしまうかと思えたが、初対面な組み合わせも多いということで、何故か円陣を組んで自己紹介をすることとなった。エリックハイデンさん以外はほとんど会っているかと思われたが、たけさんとheppocoさん達が初めてというのは、かなり意外であった。


初めてだからって、なめんなよ


ロープウェイを横目に見つつ、いよいよ登山開始。
約2キロの行程、日帰りザックともなれば、全員にとって楽々・・・かと思っていたが、意外にそうでもなかった。そう、思った以上に暑かったのである。そろそろ寒くなってくる季節、しかも『筑波』と聞くと勝手に寒いと思っていたのだが、それが裏目に出る結果に。早速、かいねこさんが汗をちらし始め、heppocoさんがいぢめ始めていた。



それでも、このメンバーが揃えば、話題が尽きないこともあり、終始賑やかな一団であった。登ってみれば短いながらも、想像よりは長い登りに、暑さが追い討ちをかけてきたりもしたが、ようやく御幸ヶ原(鞍部)に到着となった。



一同が驚くのも無理はない。
山を登りきった先にあったのは、登山口以上に賑やかな光景であった。売店や食事処が並び、展望台、自販機まである。しかも歩いているのは普段着の観光客となると、何だかこちらが場違いな気になってくる。

天気が心配なことと、山頂はあくまで女体山ということもあり、男体山を省略するという話もあったが、殆どが初回登山ということだったので、記念に行くこととなった。ちょっとした岩場を抜けるとテラスが見えてきて神社に到着。そう、ここが山頂。



先程の喧騒から比べると、かなり静かな場所である。展望は、残念ながらガスに隠れて女体山すらも見えないのが、折角のハレの日に甚だ残念ではあるが、雨が降らなかっただけでも有難い。ここの標識前にて全員で記念撮影。

続いては、いよいよ筑波山山頂。百名山達成の瞬間が近付いてくる。


女体山は、男体山とは反対の双耳峰となるため、再び喧騒の御幸ヶ原に戻ってくる。
ここに来ると、先程のいよいよという気持ちが、何となく削がれる気がしてしまう。メンバーもそんな気持ちになるのかとおもいきや、たけさん、ゆっきーさんの目下の興味は、ビールをいつ飲むかに絞られているようだ。暑さと登りで水分を欲する身体になっているこの状態に潤いを与えるのは、まさに今！　この時！！　と山頂そっちのけの主張が潔い。
そんな急進派に対して、やはり山頂に行くまでは、お預けにしようという理性派と、それなら山頂にビールを持って行けばいいという合理派に分かれ、飲ん兵衛達のビールに対する熱き心を垣間見た気がする。いや、ちょっとみんなおかしい。

結局、当たり前ながら理性派が勝利をおさめ、急進派のたけさんは過激派に昇格し、見つからないように缶ビールを飲んでしまったようだ。他の面々は和平条約を締結し、達成時にシャンパンで乾杯した後に、再びこの地・御幸ヶ原で思う存分楽しもうぞ！と誓いあっていた。『花より団子』ならぬ『山よりビール』とは、面白い人達である。

＜つづく＞