歴史にも類(るい)をみないあの激しい戦いは、我が弟スグルの勝利で幕を閉じ、そして、超人の世に平和と安寧がもたらされた。
“だから、今度はその力で、自分の国を平和にしたいんだーー”
あれは、その戦いから間もない夕暮れだった。
少し照れ臭そうに、しかし、はっきりと。
血盟軍の存続とそれへの同行を促した私に向かって、Jr.は辞退の返事と共に、そんな目標を語っていた。
Jr.の真っ直ぐな視線の先に描く未来。それが余りに純粋で美しかったが故に、私は己の脳裏によぎる不安がとても汚らわしく、何だか自分自身まで醜く歪んだ存在に思えた。
ーー超人の世と人間のそれは違う。どちらも強い者が優位である事においては同じかもしれないが、人間の世界は何をもって”強い”とするのか。その定義が余りに多い・・・。
ーーそして平和の・・・人の幸福の定義についても、同じ事が言える。結局、我々とは違うんだ・・・。
家を飛び出し、様々な土地を渡り歩きながらそれなりの年を重ねた自分だからこそ。またその道程で、ある程度人間というものを知る機会があったからこそ。
Jr.の目標は、余りに困難ーーというか、不可能に思えた。
しかし一方で、彼自身が人間でもある事。それが私を混乱させた。
ーーJr.は正義超人だからという理由だけで、この目標を掲げたのではないのではないか。
ーーあの国に生まれたひとりの人間としても、それを追求しようとしているのではないか。
そんな考えが浮かんだ瞬間、私は黙って奴の背を見送る以外の選択肢を失ってしまった。
それでなくとも、一度己が決めた事は何としてもやり遂げようとするのがJr.だ。
自分の迷いを含んだ言葉程度で、奴の決意を思い直させられるはずもなかった。
ーーだからせめて、ずっと私は待っていると・・・お前を想っていると・・・。
ーー側にいるのだと、そう願ってあのバンダナを渡したのだが・・・・・・。
そして結局、Jr.に待っていたのは困難などという一言では片付けられない、余りに想像を超えた残酷な現実だった。
あの戦いの後、私を含め、弟は死んだ者全てに新たな命を与えた。
正にそれは、王の慈悲。
しかし残念ながら、現状Jr.に限っては、余計なお世話だったのかもしれない。