わたなべ りやうじらう のメイル・マガジン
頂門の一針 6509号
頂門の一針 6509号
即時廃止でなく不使用が目的
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高橋洋一
【日本の解き方】広島G7サミットと「核問題」保有国の責任を世界に問う絶好のチャンス 即時廃止でなく不使用が目的 威嚇するロシアへ回答に
19日に広島で先進7カ国(G7)首脳会議(サミット)が開幕する。その注目点はどこになるだろうか。
まず広島でなければできないことは、各国首脳による原爆資料館の訪問・視察だ。1955年の開館以来、今年3月31日までの総入館者数は7589万4579人にのぼる。多くの日本人は、修学旅行などで訪れているはずで、筆者も修学旅行をはじめ広島に来た際にはしばしば訪問している。ただし外国人は多くない。せっかく各国首脳が広島に来るのだから、見ないのはもったいない。
もっとも、ハードルは高かった。そもそも原爆を投下したのは米国だ。米国には、「原爆投下は日本との戦争を早く終わらせるために必要だった」と正当化する意見が多い。被害の現実を見たら米国の核保有に不利との指摘もあるが、使われたら悲惨になるだけという実例は日本にしかない。
2016年の伊勢志摩サミットの後で、オバマ大統領は原爆資料館を訪問した。これが米大統領による最初の訪問となった。しかし、その実情はあまり知られていない。その時、オバマ氏は東館に短時間滞在したのみで、本館には入らなかったといわれている。滞在中のオバマ氏の発言も一切外に出ていない。
米国側の言い分は、オバマ氏は休憩も兼ねて原爆資料館(東館)に立ち寄っただけで、原爆資料館(本館)を訪れていないという立場だ。これは米国内向けの政治メッセージでもある。実際に訪れたことがある人ならわかるが、原爆資料館で悲惨な展示があるのは本館だ。
そこで、今回のG7サミットでは、各国首脳を本館に連れて行くのが最大の見せ場だ。その目的は、核兵器の即時廃止ではなく、核兵器を使用しないこと、威嚇に用いないことだ。
これは、G7サミットで最大のテーマともいえるウクライナ問題への答えにもなる。ロシアによるウクライナ侵攻が長期化する中、ロシアは核兵器使用の威嚇を行ってきたし、現実に核兵器が使われる恐れがある。そうした脅威に対して、G7各国もロシアの行為を非難していた。
一方で、ウクライナが核兵器を保有していたら、ロシアに侵攻されなかっただろうことも留意しておきたい。日本の周辺には、核兵器を保有する非民主主義国家が3つもある。いつ何時日本がウクライナの立場になるかもしれないし、台湾も同じだ。
広島で核兵器による被害の実相を核兵器保有国に見てもらうのは、何よりの平和メッセージになるし、核兵器保有国の責任を世界に問うには絶好のチャンスだといえる。
最終的には核廃絶というのがゴールだが、当面は核抑止しかない。G7には核保有国が3つもある一方で、被爆国の日本も含まれるのだから、核問題を話し合ういい場だ。 (元内閣参事官・嘉悦大教授 高橋洋一)
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高橋洋一
【日本の解き方】広島G7サミットと「核問題」保有国の責任を世界に問う絶好のチャンス 即時廃止でなく不使用が目的 威嚇するロシアへ回答に
19日に広島で先進7カ国(G7)首脳会議(サミット)が開幕する。その注目点はどこになるだろうか。
まず広島でなければできないことは、各国首脳による原爆資料館の訪問・視察だ。1955年の開館以来、今年3月31日までの総入館者数は7589万4579人にのぼる。多くの日本人は、修学旅行などで訪れているはずで、筆者も修学旅行をはじめ広島に来た際にはしばしば訪問している。ただし外国人は多くない。せっかく各国首脳が広島に来るのだから、見ないのはもったいない。
もっとも、ハードルは高かった。そもそも原爆を投下したのは米国だ。米国には、「原爆投下は日本との戦争を早く終わらせるために必要だった」と正当化する意見が多い。被害の現実を見たら米国の核保有に不利との指摘もあるが、使われたら悲惨になるだけという実例は日本にしかない。
2016年の伊勢志摩サミットの後で、オバマ大統領は原爆資料館を訪問した。これが米大統領による最初の訪問となった。しかし、その実情はあまり知られていない。その時、オバマ氏は東館に短時間滞在したのみで、本館には入らなかったといわれている。滞在中のオバマ氏の発言も一切外に出ていない。
米国側の言い分は、オバマ氏は休憩も兼ねて原爆資料館(東館)に立ち寄っただけで、原爆資料館(本館)を訪れていないという立場だ。これは米国内向けの政治メッセージでもある。実際に訪れたことがある人ならわかるが、原爆資料館で悲惨な展示があるのは本館だ。
そこで、今回のG7サミットでは、各国首脳を本館に連れて行くのが最大の見せ場だ。その目的は、核兵器の即時廃止ではなく、核兵器を使用しないこと、威嚇に用いないことだ。
これは、G7サミットで最大のテーマともいえるウクライナ問題への答えにもなる。ロシアによるウクライナ侵攻が長期化する中、ロシアは核兵器使用の威嚇を行ってきたし、現実に核兵器が使われる恐れがある。そうした脅威に対して、G7各国もロシアの行為を非難していた。
一方で、ウクライナが核兵器を保有していたら、ロシアに侵攻されなかっただろうことも留意しておきたい。日本の周辺には、核兵器を保有する非民主主義国家が3つもある。いつ何時日本がウクライナの立場になるかもしれないし、台湾も同じだ。
広島で核兵器による被害の実相を核兵器保有国に見てもらうのは、何よりの平和メッセージになるし、核兵器保有国の責任を世界に問うには絶好のチャンスだといえる。
最終的には核廃絶というのがゴールだが、当面は核抑止しかない。G7には核保有国が3つもある一方で、被爆国の日本も含まれるのだから、核問題を話し合ういい場だ。 (元内閣参事官・嘉悦大教授 高橋洋一)