常滑 3
散歩の足を伸ばしてユニクロへ行った 知恵光院中立売なのだが 京都の地図に詳しくない人 京都の人でも難しい 堀川戻り橋にやゝ近いのだが 説明は困難だから省く。
肌着と靴下を買い 帰路を久しく通らない道を歩いた 高校生のトキの先生の家の前で ちょっと気になり表札を確かめたが黒くて読めない 同級生のK君の家は・・これも表札の名前が変わっていた。
街の様相の変化は当然だろう。
変わらないモノもあった 地蔵堂である 古い友人に会ったような懐かしさを覚えた。
この辺り一円は平安京の御所北辺にあたり 栄枯盛衰 また2~30年まえには 力織機が立ち並び その音がケタタマシイところであった。
イマは昔 同級生O君の下宿していたところでもある よく訪れたが いわゆる平安京の禁裏であった。
斑になった建物 木造とコンクリートがその対比を造っていた 不協和音の解消はこれからだろう 夫々の家に 夫々の生活がある。
わたしは一軒路地の魅力に惹きつけられているが 一軒路地とは一軒だけに設けられた その家のための細い道をもった路地である 路地は持ち主の家へと導いていくのだが・・・まことに悩ましい家であり路地である。
ところでいまわたしが歩いている道は・・・たしか・・上長者町(かみちょうじゃまち)であっただろう・・その路傍に赤い標識がある・・「本屋」と書いてある・・咄嗟に中へ入ってみようと思い 細路を入って行くと 丁度その一軒路地だ・・両手を広げるとイッパイくらいの幅 奥は6~7mわたしはその奥の「不思議の国」へと入ていった。
入り口にはダンボール一杯の見慣れた本 中にある本も若い日に読んだ本である これらの一冊 一冊はわたしの過ぎ去った日々であった。
中には女性がいた
「拝見してもよろしいですか・・?」
と断りながら その神秘の世界に入った。
ここでは ただ置かれている処が「不思議の国」なのだ まぼろしのように去って行った日々が具現化されている。
部屋の内部 鈍い光が微妙であり 並べ方が・・・いや・・わたしのもつ言葉では書けない空間の在り方が マニヤックなのだろう。
部屋の中程には四角形の窓があり 窓の外は庭一杯の葉蘭がところ狭しと ジャングル状態に生えている 窓イッパイがミドリに蓋われていた。
客はわたし一人・・・だがそこには買う本がない 現実となれば おじさんとしての・・わたしはなにも買うモノがないのである
「アリガトウ なにも買わずにゴメン」
と云って店を後にした 20分ほどの白昼夢となった。
上長者町の千本通り西にを横切ると むかし廓跡の街・・水上勉著「五番街夕霧楼」の夕子が・・・立ってはいない・・しかしそれと想わせる 佇まいがあちこちに・・
空しい夢の跡がある・・・
わたしは現実とまぼろしの狭間を散歩していたようだ。
あゝなにだ・・面白 可笑しの・・散歩となった。