菅井滋円 作品集

絵を始めて半世紀以上の歳月が流れた 絵に向かう時何時も満たされないモノがある その場がここになりつつある。

柏野 2

2016年03月18日 | 菅井滋円 作品集
柏野 2
アトリエの登記簿に わたしのアトリエは 明治5年に建てられたのだという記録がある 路地の長屋の平屋である。
その家に安上(やすあがり)りで必要なだけのコンパクトに改装してもらった それから40年が経った。

西陣の西 紫野の一隅 柏野という地域にある。
この辺りは蜘蛛の巣のような 細い路地が張り巡らされている そこは小さな家が並び 無数に屈折した細い道がある  ここを京都市民でも探し出すことは難しいだろう 路地の中の一番奥にある家では 閑静と云うより この前には行く人は全くない  向かい隣の住人 かつて8戸あった長屋も わたしのアトリエを含めて3戸になった。

西陣織はここで織られていた 柏野は織屋の町であった。
あたり一帯激しく鳴り響いていた 力織機の音はイマ絶えてない トキはこの辺り織機を奪った そして過ぎ去った。

ここにはわたしの最も初期の作品や未完成モノや無数のエチュードなどが詰め込まれている 整理をしなければならない 多くの廃棄しなければならない山がある。

そのようなことを考えながらの入院となった。


            


                       柏野のアトリエ

柏野 1

2016年03月11日 | 菅井滋円 作品集
柏野 1
毎日バイクで通っていた 柏野のアトリエはいまでは行ってなない 年齢を考えると ここらが矛(ほこ)を収めるトキであろうと思い 節度を持って警察へ免許返還した 足を奪われたため行きにくくなった。
現実は入退院のため制作は完全に止まった いま行方を見失ってしまったのだ 繁忙な病院との付き合いに疲れたのだろう。

前回の個展はお病院のベッド上での決断であった がその作品は多くは柏野のアトリエで描いたものであった。
病になって20年 病院のベッドうえはもう沢山だと考えている  しかし外の選択枝はないのである。

憂欝は拭いようがなく積み上げられている 以前は自分にご褒美としてCDを自らに買ってやったこともあり 病院の帰途御馳走を自らに与えたこともある 嫌なことを誤魔化していた それにも通じにくいところまで来ていた。
本も買い持ちこんで若い日に繁忙で読めなかった本読んだが これも亦大体終わった。
いやな いやな峠に差し懸った これを越えて行かねばならない。

あなたの目の前で無心で草を食む動物の群れを見るがよい昨日がなにであるか 今日がなにであるかは知らない。

ニーチェの言葉だが わたしは老いてそして昨日を語る わたしにとっての 問題は柏野のアトリエもその一つなのだ わたしの憂欝は「老いる」こと「やまい」この二つは避けられない 多くはこの二つをバネに描いて来た 頻繁な入退院がそのバネを奪いつつある。
憂欝の持つ版図の領域は大きい。

このような思いで亀岡のH医師を受診した。





                                  雪の金沢

三寒四温

2016年03月04日 | 菅井滋円 作品集



三寒四温
河合望さんの個展を見に行った 率直で解かり易い作品で彼女の人柄がよく表れて好感を持った。
持って回った様な作品が多く わたくしは画家です とポーズする小生意気(こなまいき)な連中に辟易していたので 彼女の絵に癒された。

このギャラリーは夷川烏丸西入るという御所に近く むかし米屋の二階建て 京町家を改装した二階で随所に名残を留める 歩けばギシギシと音がする。
階下に中庭があり吹き抜けで蔓草が二階の窓まで伸びている 店主とも話したが 気さくな人柄に出会うことが出来た。

ギャラリーを外へ出ると風花が舞っていた。  堺町御門から御所を過った この辺りへは暫らく散策していないが ことにこの辺りは久しぶりとなった 丁度御苑の迎賓館のあたりで 松は立派な巨木となっていた 高々と天を指している その松を今更のように仰ぎ見た。
樹林を過る風に煽られた細雪が ジーンズのジャケットに吹き付ける 広々とした御苑を外へ出ると 広小路は数寄屋建ての高林和作先生の家がある 家は昔のまま また学生として通っていた立命館大学は いまは昔となっていた。

丁度昼時となっていた 昼食に府立病院のなかの喫茶室でスパゲッティーを食べ 待ち時間を「京都ぎらい」井上章一著と云う本を読んだ。

病院へは先日受けたMRIの結果を聞くためであった。
その結果はヨロシクナイ こうした時には もう笑ってしまう外に言葉は見つからない。
3月25日より入院となった。

病院を後に加茂川の堤を風花の舞う中を歩いた この日はいつも天空にある鳶は舞わない  水中には川鵜が佇立する 賀茂大橋を渡り出町からバスで帰路についた。