石牟礼道子「苦海浄土」の第三部、「天の魚」を読み
終わった。第一部から通算して千ページを少し越えた。
苦海浄土全三部、初版は2016年
第三部では、第二次水俣病認定患者の川本輝行を中心
とする「自主交渉派」の闘いの過程が主である。最後に
百ページを超える解説などを読んでから、全体を通して
感銘した点などを紹介しよう。
今日は少し長くなるが「全集版完結に際して」の副題
が付く石牟礼道子の「あとがき」の冒頭を引用しておく。
あとがきの最後「二千四年 はなふぶく夕べに」とある。
1969年、熊本において「水俣病を告発する会」が発足
した。代表になっていただいた国語教師本田啓吉先生が
おっしゃった言葉を今に忘れない。
「我々は一切のイデオロギーを抜きにして、義によって
助太刀致します」。この時、義という言葉は字面の観念
ではなく、生きながら殺されかかっている人々に対する
捨て身の義士的行為を意味した。
それは、当時高度成長を目指して浮ついていた拝金主義
国家に対して、真っ向から挑戦した言葉でもあった。
拙いこの三部作は、わが民族が受けた稀有の受難史を
少しばかり綴った書と受け止められるかも知れない。
間違いではないが、私が描きたかったのは、浜辺の民の
生き方の純度と馥郁たる魂の香りである。生き残りのごく
少数の人達と、今でもおつき合いをさせていただいている。
まるで上古の牧歌の中に生きていた人々と出会うような
感じである。
(引用終わり)
「浜辺の民の生き方の純度と魂の香り」、「上古の
牧歌の中に生きていた人々」は、この千ページ強の中に、
充分すぎるほど満ちていいる。
単行本(第一部)、初版は昭和44年(1969)