今月8日に、東大安田講堂の攻防戦までの前半をここに書いた、
哲学者、長谷川宏の「語る」の連載が終わった。今日はその続きを
まとめてみよう。
東大文学部哲学科研究生として参加した全共闘は「大学解体」も
スローガンに含めた従来の権威主義的な大学への異議申し立てで
あった。その大学に職を求めることを潔しとしなかった長谷川は、
ある国立大学の講師の誘いを断り「大学外」での研究に踏み出す。
同じ思いで大学院を中退した女性と結婚した。その妻は保育士を
目指した。長谷川は友人と二人で学習塾「赤門塾」を開いて生計を
立てた。権威の象徴である「赤門」としたのは、反語的というか、
パロディーである。
しっかり教えるが勉強を強制はしない、テストもやらない、小説
を読んで語らい盛り上がったらその日の授業は終わり。幅広い知的
好奇心をもって考える主体性と、集団の中で協力できる人格を育み
たいという思いだった。
保育園に6年勤めた後、一緒に赤門塾で教えるようになった妻は
やがて絵本作家になる。4人の子供に恵まれ、子育てに苦労したが、
ぶつかり合いながらも「砦」のような家族だった。その妻は難病と
闘ったあと、東日本大震災の2011年に67歳で亡くなった。
研究活動の成果として発表したヘーゲル「哲学史講義」の新訳が
平易で明晰な訳文が画期的と大きな反響を集めた。その前からやって
いた社会人や学生たちとのヘーゲルを原語で読む会で鍛えられた。
続いて、ヘーゲルで最も難解な「精神現象学」の新訳は、ドイツ
政府のレッシング賞を受賞。
「ヘーゲルは近代を、全体としては肯定的にとらえた人。否定だけ
では取りこぼしかねない現実の大きさ、不合理で非理性的なものも
含め目をこらし見晴らす。そうやって歴史を発展過程として見ようと
した」(長谷川宏)
学生時代(まさしく全共闘の時代)、ヘーゲルが流行った。一応
「精神現象学」も読んだ。全く歯が立たなかった。この長谷川宏の
最近著「日本精神史 近代編」(2023年10月)を図書館で借りた。
だれがリクエストした本なのか、真っ新である。
上下併せて千ページ、明治維新から現代までそれぞれの時代考証に
続いて合計数十人の思想家、作家、文化人などを論評している。
難解ではなさそうだがボリューム的に「歯が立たない」感じである。
ボチボチ読んで放り出すだろう。次は「高校生のための哲学入門」を
借りよう。