「車内をちょっと見わたせば、花びらのように白いマスク
が点々と見え、人びとはあらためてこのガラガラにすいた
(いつもは)ラッシュの電車の中で、隙間風の吹くような
うそ寒い感じにおそわれるのだった。・・・誰かが熱っぽい
うるんだ眼をしており、誰かがはげしい咳をすれば、人々
はうす気味わるそうに、横を向き、身をひく。」
カッコ内や句読点など、若干編集させていただいたが、
上の文は昭和三十九年(1964)、東京五輪直前の八月に
発刊された小松左京のSF小説「復活の日」の一部である。
196X年、世界的な「チベットかぜ」の感染症が日本でも
広がり、三千万人が罹患したという設定である。
2020年五月、緊急事態宣言下の東京のラッシュ時の電車
の社内風景と言っても誰も疑わないだろう。驚くべきSF
作家、小松左京の予言である。
(朝日新聞土曜版「歴史のダイヤグラム(原武史)」)
アメリカの新型コロナの感染者が一千三百万人に近づく
ことを考えると「現実」に起こった予言となった。その
五十年前に「スペインかぜ」のパンデッミクがあったとは
言え、まさに驚くべき小松左京の想像力である。
先日まで連載した千葉の旅から紅葉などアラカルトを。