自燈明・法燈明の考察

アジア版NATO構想はダメでしょう

 日本の政治はいまや大混乱していますね。

 その「火中の栗」を拾ったのが石破氏ですが、ちょっと最近みていて残念に思っています。

 

石破首相の「アジア版NATO」とは 抱える2つの課題 - NewSphere

自民党総裁選で逆転勝利を収め、第102代内閣総理大臣となった石破茂氏だが、安全保障の世界ではすでに大きな議論が浮上している。石破氏は9月27日付で米シンクタンク「ハド...

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 石破氏の最近の発言で残念に感じたのは主に二点。一つは「アジア版NATO」という発言と、二つ目は「日米地位協定の改定」です。

 以前、図書館で石破氏著の「国防」という本を借りて読んだ事がありました。書かれている内容は結構納得がいくものであったので、石破氏にメールを送ると秘書からは丁寧は返信を頂きました。私は国防の本を書かれていたので、自民党議員の中でもそういった知見を少しはもっている人なのかなと思っていました。しかし今回の発言を聞いた時に「ああ残念、やはりこの人もその程度の人であったのか」と思ったのです。

 今回、石破氏が提言した「アジア版NATO」ですが、概要は以下の様です。(先の記事の内容から抜粋します)

「石破氏が提唱するアジア版NATOとは、具体的にはアメリカを中心に、日本や韓国、オーストラリア、ニュージーランド、フィリピンなどが加盟国となり、加盟国間で相互防衛体制を敷き、中国や北朝鮮、ロシアなどを念頭に置くものと考えられる。」

 要はアジアで中国やロシア、そして北朝鮮に対抗するための軍事的な相互防衛体制を考えていたんでしょう。

 そもそもNATOとは「北大西洋条約機構」と呼ばれていて、これは冷戦時代の欧州で、ソ連を中心とした東側陣営に対抗する為に設立された軍事同盟です。当時のヨーロッパでは、「鉄のカーテン」と呼ばれていましたが、東西ドイツ国境からアドリア海に至るまでの間、この両陣営に属する国境線が接しており、まさに緊張状態でした。

 では今のアジアの状況はどうかと言うと、政治的には対立していても、日本もそうですが中国とは経済的な結びつきがあったり、中国は「一路一帯構想」でアジアの中での経済的影響力はとても大きな存在です。何を言いたかったかというと、欧州の安全保障体制を模して、アメリカを頂点に頂きNATOの様な軍事的な構想をぶち上げたとしても、そもそも各国がそれに乗って来る事はないでしょう。

 この点で石破氏の極東地域に対する国際情勢の認識の甘さが見て取れますよね。

 あともう一つ。これはこのブログでも過去に指摘していますが、日本という国には「軍隊」というものがありません。そんな事を言うと「自衛隊があるではないか」と言われますが、自衛隊は軍隊を模した公務員の集団組織であり、その性質は軍隊ではないのです。
 軍隊とは国内法に縛られない組織で、国際法のもとで動く組織でなければなりません。だから世界にある軍隊を持つ国家には軍法が定められ、軍人を裁くのは国内法ではなく軍法会議(軍事法廷)であり、取り締まるのは軍警察(憲兵)となっているのです。軍隊は相手国との戦闘行為の中では相手軍の兵士を殺傷します。これが国内法に縛られた場合、この戦闘行為で相手国の兵士を殺傷した兵士は殺人罪に問われてしまいます。また戦場とは特殊な環境なので、兵士と言っても人間です。そこで上官から「攻撃せよ!」と言われた時に兵士が反抗したのであれば戦闘行為が出来なくなります。だから戦場では上官に強い権限を持たせて、そういった反抗する兵士をその場で処罰する事も出来ますし、場合によっては上官が処刑する事も許されています。これは敵前逃亡でも同じで、国によって敵前逃亡した兵士はその場で上官により射殺されるという事もあるのです。

 戦争とは相手国と交渉が決裂した際に、国同士が「それでは腕ずくで勝負だ」という様な行為であり、その為の組織が軍隊なのです。いざ戦争になったら、非戦闘員(平民)は逃げても構いませんが、軍隊の兵士はそうは行きません。そこは踏みとどまって戦わなければならない存在なので、国内法の枠外組織としているわけです。

 よく昨今の改憲の議論で「自衛隊の明記」という事が言われています。これは憲法第9条の「戦力の放棄」を変えて、自衛隊を戦力として規定する事を言っているのでしょう。そして多くの人達は、それで自衛隊は「戦力」として公式に認めるのだから、「自衛隊」は「国防軍」になれる、なんて単純に考えているのではないでしょうか。

 そうではないのです。

 自衛隊を軍にする為には、日本国憲法第六章の司法の項目についても、合わせて改正しない限り、自衛隊を防衛軍には出来ないのです。

第七十六条 すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。
2 特別裁判所は、これを設置することができない。行政機関は、終審として裁判を行ふことができない。

 現行憲法では最高裁判所が司法権を持ち、第二項で特別裁判所の設置を認めていません。先にあげた軍法会議(軍事法廷)はこの特別裁判所に該当するので、当然、この箇所についても改正しなければならないでしょう。また当然、軍人としての地位などについても規定しなければならないのです。これはつまるところ、憲法の一部をチャチャっといじり、「加憲」なんて程度では済まない事を意味します。

 余談ですが自民党が最近よく言う「憲法改正」の議論では、こういった大事な事が抜けています。国内のリベラリストは「憲法改正で日本が戦争出来る国になる」なんて危機感を持っている様ですが、自民党の改憲による真の目的は、国防軍の設置等ではなく別の事がある様に私なんかは思いますけどね。これは別の機会に。

 そもそも正規の軍隊組織を持っていない国家が、周辺国に旗をふって「軍事同盟作ろーぜ」と言った処で、周辺国からはそっぽを向かれるのは当たり前で、早速、インドは「石破総理の言っている事は意味不明」という態度を表明していますよね。これは結果として日本の国際的な地位を、さらに下げるような発言になったのではないでしょうか。

 その為なのかは判りませんが、石破総理も所信表明演説でこの事は触れなくなりました。

 次は「日米地位協定」ですが、これについては次の記事で書いてみたいと思います。

 しかし何ですね。やはり日本の政治の劣化というのは、とうとうここまで来てしまったんですね。

 

 


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