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<ウクライナ東部紛争 ①>経緯

2019-12-10 20:04:34 | 戦争・内戦・紛争・クーデター・軍事介入・衝突・暴動・デモ

ウクライナ東部の紛争問題

 解決に踏み出す大統領 「特別な地位」付与に野党は反発

 ウクライナのゼレンスキー大統領が、親露独立派が実効支配する同国東部のドネツク、ルガンスク

両共和国との紛争解決に踏み出した。両共和国に「特別な地位」を付与するという

「シュタインマイヤー・フォーミュラ」に同意すると表明したのだ。これに野党勢力は反発し、

抗議運動を繰り広げた。 (モスクワ支局)

 

 ロシアが2014年、ウクライナのクリミア半島を併合した。これと並行して、ロシアに接する

ウクライナ東部のルガンスク、ドネツク両共和国(ドンバス地域とも呼称)では、

親露独立派武装勢力が両共和国のロシアへの併合を求め、政府側との戦闘(ウクライナ東部紛争)が

勃発した。

 


 ロシアが親露独立派武装勢力を支援したとみられているが、両共和国を併合する考えはない。

独立派は「ドネツク、ルガンスク両人民共和国」を自称し、実効支配地域を拡大した。

 

 ドイツとフランスが仲介した「ミンスク合意」により15年2月、一旦は停戦したものの、

その履行をめぐる双方の隔たりは大きく、合意は崩壊。

現在に至るまで散発的な戦闘が続いている。このミンスク合意の内容の一部を柔軟に適用する枠組みを、

当時のドイツのシュタインマイヤー外相(現連邦大統領)が主導しまとめた。

しかし、このシュタインマイヤー方式についてもウクライナ側の反発は強く、合意には至らなかった。

 

 ミンスク合意では、

①ウクライナの憲法を改正してドネツク、ルガンスク両共和国に「特別な地位」を付与

②ウクライナ法に基づく選挙を実施

③その後、両共和国の対ロシア国境管理をウクライナに移管

―との流れで和平を実現するとしている。

しかし、ウクライナにとっては、①両共和国の対ロシア国境管理をウクライナに移管②両共和国武装

勢力の武装解除―がまず第一であり、その後に選挙を行うことが譲れない条件だった。


 シュタインマイヤー方式では、これらをすべて同時に行うとしているが、ウクライナが要求する

①について明確にされてない。結局、ウクライナは同方式も受け入れることができず、紛争状態が

継続していた。

2015年4月、ベルリンで、ウクライナ東部情勢をめぐる会談に臨んだ(左から)ファビウス仏外相、ウクライナのクリムキン外相、

シュタインマイヤー独外相、ロシアのラブロフ外相(AFP時事)


 ゼレンスキー大統領はこれまでロシアを侵略者として非難してきたが、交渉の必要性には

言及していた。そのゼレンスキー氏が2日、シュタインマイヤー方式を受け入れることを表明したのだ。

これに対し、野党「欧州連帯」を率いるポロシェンコ前大統領や、「祖国」のティモシェンコ元首相

などが「これはロシアへの降伏を意味する」として激しく反発。さらに、ウクライナの知識人らも

同様に反対を表明する事態となった。


 キエフ中心街で6日に行われた抗議集会には1万人を超える人々が集まった。

また、伝統的に反露感情が強いウクライナ西部の各州でも抗議運動が広がった。


 もちろん、ロシアと交渉に臨むこと自体への反発も強い。ウクライナのテレビ局「プリモイ」の

キャスター、ミコル・ヴェレセニ氏は、「ロシアは独立国家としてのウクライナにとって、

本質的に敵である」と吐き捨てた。


 ゼレンスキー氏もそのことは理解しているようだ。シュタインマイヤー方式を受け入れると

表明した上で、「(ルガンスク、ドネツク両共和国で)選挙が実施されるのは、国境管理が

ウクライナに移管され、武装勢力の完全な武装解除が行われた後だ」と表明した。

しかし、その条件を、これまで一貫して反発してきたルガンスク、ドネツク両共和国の独立派

武装勢力がのむことはないだろう。このままでは和平交渉が行き詰まることは目に見えているが、

それならばなぜ、シュタインマイヤー方式を受け入れると表明したのか。

ゼレンスキー外交に疑問符も付いている。

 

 

 

 ウクライナ東部紛争の経緯

 ウクライナのEU加盟問題からロシアによるウクライナの国家主権及び領土侵害に発展した、国際的危機をめぐる諸問題。

 


〔ヤヌコーヴィッチ政権の崩壊〕 

2013年11月,ウクライナのヤヌコーヴィッチ政権はEUへの加盟手続きを断念。

ヨーロッパへの統合を求める野党側が強く反発し抗議活動を始めた。

2014年に入り,政権によるデモ規正法の制定を機に抗議活動は一気にエスカレートし

危機的状態となった。野党側は大統領辞任を求めて徹底抗戦の構えを鮮明にした。

ヤヌコーヴィッチ大統領は2013年12月,EUへの加盟手続きを断念する見返りにロシアから

150億ドルの融資と天然ガス価格の3割値下げを取りつけていた。

しかし,その後ロシアのプーチン大統領はヤヌコーヴィッチ大統領が野党側に譲歩したことに

不快感を示し,150億ドルの融資のうち2回目の20億ドルの供与を差し止めた。

しかし,ヤヌコーヴィッチ大統領は2月7日ソチオリンピックの開会式に出席しプーチン大統領と会談,

ロシア側は融資を再開した。

2月デモ隊と治安部隊の大規模な衝突が起こり,80人以上の市民が死亡する事態となった。

この武力衝突の背後にロシアの存在を疑う見方が出された。他方デモ隊の中心に武装した

極右勢力が入り,対立を先鋭化させ抗議行動を暴力化させたともいわれる。

オレンジ革命と異なり民主的選挙で選ばれた大統領を過激な街頭行動で打倒しようとする野党側の

手法にも問題があるという指摘は西欧諸国からも出された。

しかし,2月22日野党勢力は大統領府を占拠,政権からの議員の離反が相次ぎ,23日国会で

大統領解任決議案が可決され政権は倒壊した。

ウクライナ議会は野党〈祖国〉のトゥルチノフを大統領代行に任命。ヤヌコーヴィッチは辞任を

拒否し東部ハリコフに移動しロシアに脱出・保護された。


〔ロシアによるクリミア編入とウクライナ東部の情勢〕

 


ウクライナ議会は〈祖国〉幹部のヤツェニュクを首相に任命,親EU暫定政権が発足した。

暫定政権は2月22日に,5月に大統領選を実行すると表明。

こうした動きに,ロシア系住民が強く反発,ロシア系住民が大半を占めるクリミアでは

クリミア自治共和国の独立の動きが一気に浮上し,プーチン大統領もこれを強力に支持。

同年3月クリミア自治共和国議会とセバストポリ市議会は独立宣言を採択し,住民投票で圧倒的な

賛成を得て,クリミア共和国として独立。

ロシアは直ちにクリミアとセバストポリ特別市をロシア領に編入する条約を結び,プーチン大統領が

編入を宣言,クリミア半島ではロシア軍が圧倒的に優位にあるため,事実上〈侵攻・占領〉したも

同然のかたちとなった。

ウクライナはもとより国連,米国,EU諸国等はウクライナの国家主権・領土を侵害する

違法行為として,独立・編入を承認せず,米国とEU諸国はロシアに対して経済制裁に踏み切った。

ウクライナ東部にはクリミア以外にもロシア系住民が多い地域が多数あり,それまで比較的

平穏だった東部でも,ドネツク州やルガンスク州でロシア系住民による大規模なデモが発生,

武装勢力が行政府を占拠してロシア国旗を掲げるという事態となった。

ジュネーブで開催された米国・EU・ロシア・ウクライナの4者協議で,事態の沈静化が話し合われた。

東部で庁舎を占拠する親ロシア派に対しては明け渡しと武装解除を呼びかけ,正常化に向けて

欧州安保協力機構(OSCE)の査察を導入することでは合意。

ロシアは投降すれば罪に問わないことをウクライナ暫定政府に求め,憲法改革のための国民的対話の

実行を促した。

協議ではロシアがロシア系住民自治権拡大のための憲法改革を優先すべきであるとして,

大統領選を合意声明に盛り込むことも,暫定政権が主張するクリミア半島のウクライナへの

返還も拒否した。

東部のロシア系武装勢力は武装解除を拒否,政府庁舎などの占拠を続け,さらに東部2州

(ドネツク州・ルガンスク州)のロシア系勢力は,5月11日にクリミアと同様独立を問う住民投票を

実行すると表明。4者での声明(ジュネーブ声明)はまったく実現されない結果となった。

米国は政府庁舎占拠にロシアが関与していると非難,これに対してロシアはウクライナのファシスト

勢力が親ロシア派を襲撃,ウクライナ政府がこれを野放ししていると応酬した。

こうした東部のロシア系住民とウクライナ国境に集結するロシア軍の動向とともに,軍事的緊張は

さらに高まり,ウクライナは事実上の内戦と国際紛争の危機に直面する事態が続いた。


〔ロシアへの経済制裁〕 

2014年4月28日,G7はロシアへの制裁強化を決定。ウクライナでは南部のオデッサでも,

親ロシア派と政権を支持する若者との間で大規模な衝突が発生。40人を超える死者が出た。

5月2日,ウクライナ軍は東部2州(ドネツク州・ルガンスク州)のロシア系武装勢力の制圧を

開始した。

プーチン大統領はロシア系住民に〈独立〉投票の延期を呼びかけたが,親ロシア派は延期要請を拒否,

政府軍との間で激しい市街戦となるなか,住民投票を実行。

新ロシア派の選挙管理委員会は自治権拡大を圧倒的多数の住民が支持したと発表した。

ウクライナ軍は東部で政府施設を占拠する親ロシア武装勢力の排除を加速させ,

ドネツクで国際空港を占拠している親ロシア武装勢力に対し空爆を実施するなど反撃した。

5月25日に行われた大統領選挙で親EUのポロシェンコが選出された。

6月7日に就任したポロシェンコ新大統領は東部の親ロシア武装勢力に対し停戦を呼びかけ,

プーチン大統領と紛争の早期停止を目指すことを表明。東部2州の住民に対しても

〈ロシア語を話す権利や歴史・文化の尊重,経済再建プログラムの早期準備〉を訴え,

両州で民主的な代表を選ぶため,地方選挙を実施する考えも提示した。

ウクライナ議会については,政治体制の一新を図るために解散し,総選挙を前倒しする方針を表明。

さらに将来の欧州連合(EU)加盟に向けた〈連合協定〉の締結も進めていく考えを示した。

ウクライナ側のこうした姿勢に対して,プーチン大統領は選挙で選ばれたポロシェンコに対しては

ひとまず協力する姿勢を明確にし,ロシアからの武器や戦闘員の流入を防ぐため,

ロシアとの国境閉鎖で協力することやロシアの代表団がウクライナを訪問して対話を始める

ことなどで合意した。しかし,その一方ロシアはウクライナへの天然ガスの供給停止と,

ウクライナ経由で東欧諸国などEU圏に供給しているガス供給の停止も示唆してウクライナ・EUに

対して協議に入ることを要求した。

エネルギー問題を米国・西欧諸国の経済制裁に対抗する経済・外交カードとして用いるしたたかな

対応に出た。

ウクライナ東部ではその後も,ウクライナ政府軍と親ロシア武装勢力との間で武力衝突が起こり,

戦闘は一進一退の状況が続いた。

9月に停戦合意が成立したが,親ロシア勢力が戦闘を再開,徐々に支配地域を拡大し泥沼化の

様相となった。

米国オバマ政権はウクライナへの武器供与の可能性を示唆,米ロ新冷戦の危機に国際的懸念が広がった。


〔停戦合意〕 


その後,EUの中心の役割を担う独仏首脳はさらなる戦闘拡大を食い止めようと奔走

原油安などで苦境に陥ったプーチン大統領にも,欧米とのこれ以上の対立激化を避ける意向があり,

停戦をめぐって関係首脳間で交渉が続いた。

2015年2月,ベラルーシのミンスクで,ウクライナ・ポロシェンコ大統領,ロシア・プーチン大統領,

仲介役のドイツ・メルケル首相,フランス・オランド大統領の4首脳が会談。4首脳の合意をもとに

停戦する合意文書に関係者が署名した。

ウクライナ東部では,2014年4月以降,国連の統計で約5500人の死者を出している。

停戦合意には,ロシア,ウクライナ,欧州安保協力機構(OSCE),親ロシア武装勢力代表が署名した。

4首脳はウクライナの主権と領土の一体性を尊重し,危機を平和的に解決する重要性を強調する

共同声明を発表した。しかしその後,米国オバマ政権はウクライナ東部の親ロシア武装勢力が

停戦合意を守っていないと非難,経済制裁を追加している。

 

 

在ウクライナ日本大使館

https://www.ua.emb-japan.go.jp/jpn/ukraine_jp_developments_on_ukraine.html

 
 
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