シリアとトルコ間で軍事衝突の恐れ-アサド政権部隊がアフリン入り
-
トルコ側の侵攻に対し国民守るため民兵が向かう-シリア国営テレビ
-
トルコはシリア政権部隊のアフリン入り否定
シリア北西部アフリンを支配するクルド人勢力「人民防衛部隊」(YPG)」に越境攻撃(オリーブの枝作戦)を続ける
トルコ軍に対抗するため、アサド政権側の部隊がアフリンに入った。シリア国営メディアが報じたもので、シリア、トルコ両国間で
直接的な衝突が生じる恐れが高まっている。
シリア国営テレビによると、「トルコ側の侵攻に対しシリア国民を守る」ことを目的にアサド政権側の民兵組織がアフリンに
向け出発した。トルコ軍は国内で分離独立を求めるクルド労働者党(PKK)と連携しているとして、先月20日に国境沿いの
アフリンからクルド人民兵組織「人民防衛部隊」(YPG)を掃討するため、シリアに入っていた。
トルコのエルドアン大統領は、アサド政権を支持しているロシアのプーチン大統領と19日遅くに電話協議したことで、
アサド政権側部隊のアフリン入りを阻止していると言明していた。トルコ国営アナトリア通信はシリア政権部隊のアフリン入りを
否定している。
同通信によると、トルコは20日、アフリン近郊の部隊を増強するため約1200人を増派した。エルドアン政権はYPG掃討だけが
攻撃の目的であり、この目的を達成すればトルコ軍は撤退すると主張している。
軍事的な衝突懸念が広がり、20日のトルコ・リラは米ドルに対し大幅下落。一時1.3%安の1ドル=3.8083リラまで売られた。
トルコがシリアと戦おうとする理由 アフリン攻防
トルコ軍がシリア北部のクルド人支配地域の飛び地アフリンに対する攻勢を強めている。7年間にわたるシリア内戦は新たな段階に
突入した。トルコ軍は今週、アフリン入りを図った親シリア政府派の民兵を迫撃砲で攻撃した。
この戦闘により、過激派「イスラム国(IS)」の事実上の壊滅を受けて、覇権争いを演じているトルコ、ロシア、イラン、さらには
米国の外国勢力に注目が集まる。以下にアフリンをめぐり相争っている勢力にとって、何が問題となっているのかを簡単に説明する。
シリアのクルド人
クルド人の主要民兵組織「人民防衛部隊(YPG)」は、ISとの戦いで米国と連携したことにより利益を得た。YPGは、ISから
支配地を奪取し、アフリンを含めた一帯に「ロジャバ」と呼ばれる半自治区を設置した。ただシリア北東部とは違い、アフリンでは
米国はクルド人を直接は支援していない。
しかしイラクがかつてそうであったように独立への野望を持つクルド人は隣人、ここではトルコと衝突した。クルド人勢力は
アフリンで大きな損害を被り、今の目標はその損害を最小限にとどめ、接収した油田を含め東部の支配地域を守ることになっている。
アフリンの攻防で、クルド人は自分たちの将来がいかに不安定であるかを垣間見たかもしれない。敵意を持つトルコから脅かされる
クルド人勢力は、将来的には米軍がシリアから撤退する可能性があることから、トルコを撃退するためシリア政府に頼った。
トルコ
トルコはYPGについて、分離・独立を唱える自国の反政府武装グループ「クルド労働者党(PKK)」の拡大組織で、テロリスト集団と
みなしている。トルコ政府は、YPGが北大西洋条約機構(NATO)の同盟国である米国の支援を受けて、トルコとの南部国境沿い地域に
事実上の国家を創設したことに怒りを募らせていた。シリアでのトルコの主要目的は、クルド人の影響力を阻止することである。
トルコはクルド人の勢力拡大を阻止するために自国のシリアとの国境と、クルド人支配地域との間に29キロ幅の緩衝地帯を
設けたいとの意向を表明している。
トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領は、国内では反クルドのレトリックを使ってナショナリストの怒りを
煽っている。エルドアン氏は、力の行使ないし米国との交渉を通じてクルド人の拡大を抑え込むまで、クルド勢力への攻勢を
和らげる可能性は薄い。エルドアン氏は、シリア政府がアフリンを占拠することには反対だが、クルド人勢力をトルコの存在に関わる
脅威と見なしていることから、それを受け入れるかもしれない。
シリア政府
シリアのバッシャール・アサド大統領はこれまで、クルド人勢力とは曖昧な関係を保ってきた。アサド氏は、クルド人の自治要求は
受け入れていないが、交渉のドアを開けておき、時折クルド人への支援を行ってきた。
今週になってアサド政権は、トルコ軍の迫撃砲攻撃を受けているアフリンのクルド人支援のため、親政府派の民兵数百人をアフリンに
送り込んだ。
シリア政府は、アフリンのクルド人を保護することで、同地域を制圧できることになる。アサド政権が将来、東部の油田地帯を
含めクルド人が支配している全地域の返還を求め交渉に入った場合、アフリンの占拠はその切り札になる可能性がある。
ロシア
ロシアは、シリア内戦の主要な調停者としての役割を演じたいと思っている。アフリンで衝突が起きているが、仲介役を演じるのは
可能だ。トルコのアフリンへの爆撃は、ロシアの暗黙の承認を得ているようだ。
ロシアはまた、YPGとの関係も築いている。同国南部ソチで開催されたロシア主導のシリア和平会議にYPGを招待した。
トルコによるアフリンへの攻撃は、ロシアとクルド勢力との関係を緊張させたが、クルド勢力にはほとんど選択肢がない。
ロシアの同意がなければ、シリア政府とは何の取引も出来ない。
イラン
シリア政府の強固な同盟国であるイランのハッサン・ロウハニ大統領は、外国がシリアに介入する場合にはシリア政府の承認が
必要であると主張し、トルコによるアフリン侵攻を非難した。
イランにとってアフリンの理想的な結末は、アサド政権がアフリンを占拠し、イランがシリアのクルド人勢力とトルコ双方との
友好関係を維持できる状態になることだ。そうなれば、シリア北部での米国の影響力に対抗するのに役立つ。
一方、アフリン入りを図っている親アサド派の民兵は、イランで訓練を受けたとみられている。これら民兵がアフリンを制圧すれば、
イランの代理人がトルコとの国境に足を踏み入れ、国境地域にイランの足掛かりが築かれることになる。
米国
アフリンでの戦闘で米国は厄介な立場に立たされている。ISとの戦闘で米国の信頼できるパートナーとなったYPGが、米国の同盟国で
あるトルコと戦うことになったためだ。
米政府は、クルド人勢力を見捨てることは望んでいない。しかし、同時にNATO同盟国であるトルコとの亀裂が、米国に取って
代わって中東での超大国の立場を得ようとしているロシアを利することを米国は分かっている。
現在のところ、米国はアフリンを事実上無視することはできる。というのも、米国がYPGと直接協力し合っているのはシリア東部
だけだからだ。だがトルコが東部に攻勢を掛ければ、シリア東部マンビジュで米軍と直接衝突する恐れが出てくる。
一方で、米政府はトルコとの亀裂を埋めるため外交的な解決策を見出そうとしており、何人からの政府高官をトルコに派遣し、
同国政府当局者と会談させている。