中国の微笑外交の限界
2018年12月18日 WEDGEInfinity 岡崎研究所
11月19日付のProject Syndicateのサイトに、米国カリフォルニア州にあるクレアモント・マッケナ大学の
ミンシン・ペイ教授が、「中国の魅力攻勢の限界」と題する論説を寄稿した。その要旨、以下の通り。
・中国は過去10年間、東アジア諸国に対し強い態度で接してきたが、ここ数か月、微笑外交をするように
なった。何が変わったのか。
・2013年、中国は日本の尖閣列島を含む東シナ海に一方的に防空識別圏を設定した。翌年には、
領有権争いのある南シナ海に人工島を建設した。そして、2016年には、在韓米軍にミサイル防衛システムを
設置することに対抗して韓国に制裁を課した。
・しかし、今、様相は変わってきた。先月、安倍総理は、日本の首脳としては7年ぶりに、北京を訪問した。
そして、習近平の訪日は来年予定されている。中国首脳の訪日は10年振り以上である。
・先週、中国の李克強首相はシンガポールを訪れ、両国間の新FTAに署名した。
中国は、TPPに対抗して、RCEPの署名も望んでいる。
・中国の新たな非対立的アプローチは、中国指導部の心や目的が変わったからではない。それは、地域の
地政学的環境の変化による。この6か月間で、米国は40年間の中国関与政策を止め、中国封じ込め戦略に
転じた。中国は、米国との競争激化で、地域の友人を得ようと必死である。
・このような中国の微笑外交の中身は明確である。多くのアジア諸国の第1の貿易相手国である中国は、
シンガポールとこの程行なったように、魅力的貿易項目を提示する。
・中国のもう一つのやり方は、首脳レベルの外交を展開することである。韓国、インドネシア、ベトナム、
日本等地域の主要国に焦点を当てている。11月20-21日には習近平がフィリピンを訪問する。
これらを通じて中国は友好ムードを作りたい。その間、宣伝機関には、攻撃的広報を止めさせる。
・一時的に中国は領有権の主張を抑制するかもしれない。例えば、2012年にフィリピンから奪った
スカボロー礁への人工島建設を中断したり、尖閣諸島への船舶派遣を抑えて日本との対立を避けたりする
かもしれない。
・東アジア諸国は中国の新外交を今の所プラスに受け止め、中国の攻撃的態度の一時停止を歓迎している。
が、だからと言って、これら諸国が米中対立の中で、どちらか一方に付きたがっているわけではない。
ただ、中国覇権の蔭にいたいという国はほとんどない。いざ米中対立が激化すれば、日本、韓国、ベトナム、
マレイシア、シンガポールは米国を支持するだろう。
・もし中国が頼れる友人を得たいなら、安全保障、特に領土問題で譲歩すべきである。例えば、尖閣問題で、
中国が脅威とならないことを日本に理解してもらうとか、南シナ海問題で仲裁裁判所の判決を受諾して
東南アジア諸国を安心させるとか、である。
・今のところ、習近平から譲歩の様子は見られない。中国が戦術的アプローチに固執する限り、その程度の
果実しか得られないし、米中対立の中では、まだまだ不十分である。
ペイ教授の指摘は、鋭い。米中対立が激化すると、中国は、アジア諸国に対して微笑外交になり、
米中が協調しているか米国が強く出ない時は、近隣諸国に対して、強圧的態度で臨む。日本を含む
アジア諸国は、米中対立を決して好むわけではないが、中国が脅威となって行動することは困る。
ここにジレンマが生じる。
この中国外交のアプローチの変化には、騙されないことが重要である。ペイ教授も指摘しているように、
中国の表面的変化に惑わされるのではなく、真の意図、目的を見失なわないことが重要である。
実際に、中国の動きを見ていると、微笑外交に転じても、反日教育がなくなったわけでもなければ、
尖閣諸島周辺への船舶の出入りが少なくなったわけでもない(この点、ペイ教授の観察は必ずしも
正しくない)。
甘い経済の提案も、いつそれが変化してしまわないか、気を付けながら慎重に進めるべきだろう。
出典:MINXIN PEI ‘The Limits of China’s Charm Offensive’ Project Syndicate, November 19, 2018