石平「中国『崩壊』とは言ってない。予言したこともない」
08年の北京オリンピックの前後から、「反中国本」「中国崩壊本」はまるで雨後のたけのこのように日本で出版されてきた。
『中国崩壊カウントダウン』『中国の崩壊が始まった!』『私たちの予測した通り、いよいよ自壊する中国!』......。あおりにあおった
タイトルの本が今も書店には並ぶ。なぜ、この種の書籍の出版は続くのか。複数の「崩壊本」を執筆してきた中国問題・日中問題
評論家の石平(せきへい)にジャーナリストの高口康太が聞いた。
――いわゆる「中国崩壊論」に対する批判が最近高まっている。現実とは真逆ではないか、という指摘だ。あなたは崩壊本の
代表的筆者として位置付けられている。
誤解があるのではないか。私自身のコラムや単著で「崩壊」という言葉は原則的には使っていない。対談の中で触れたことはあるが。
私の主張は「崩壊」というより「持続不可能」という表現が正しい。消費拡大を伴わず、公共事業と輸出に依存した、いびつな経済成長
は持続不可能という内容だ。
――『中国──崩壊と暴走、3つのシナリオ』という単著もあるが。
書名は出版社の管轄だ。見本が送られてくるまで私がタイトルを知らないこともあった。出版不況の中、出版社がなるべく過激な
タイトルを付けたい気持ちは理解できる。出版社がなければ言論人は本が出せない。
譲れない一線もある。それは人種差別だ。中国を批判しても漢民族を差別してはならない。この基準が守られないなら本の出版は
撤回してもいい。実際に一度決まった書名を抗議して変えたこともある。
人種差別以外の場合では、書名を変えるよう出版社とよくケンカするがいつも私が負けている(笑)。
――では共著で言及している「崩壊」とは、具体的にどのような状況を意味しているのか。
(バブル経済崩壊で)日本も崩壊したが、日本人全員が路頭に迷ったわけではない。同様に中国経済もいきなりゼロになることは
あり得ない。
ただし、中国共産党の体制は国防費と治安維持費の拡大、出稼ぎ労働者のための雇用創出など経済成長を前提としているため、
成長がストップまたは鈍化すれば現体制を維持できない。私が言う「崩壊」とはこの意味だ。
――地方と中央の統計誤差など一部の問題をあげつらい、中国全体の危機に仕立てているのでは。
私は経済学者ではないので、細かい数字は論評していない。しかし中国の統計が正式な実態を把握していないことは間違いない。
危機については前述のとおり構造的な問題だ。
――ドローンやキャッシュレス決済など中国発のイノベーションをどう評価するか。
中国の新しい経済については注目している。しかし私有財産が保護されていない中国では、時間も資金もかかる研究開発に取り組む
姿勢が弱い。実際に中国人経営者との付き合いも多いが、企業の存続よりも家族の蓄財を優先している。
国外留学組の力もあり、一部企業は先進的な技術開発を進めているが、それが国家の産業構造を変えるものなのか、疑問を持って
いる。
――中国崩壊論は10年以上前から続いているが、いまだにその兆しは見えない。いつがXデーなのか?
いつ崩壊するなどと予言したことはない。持続不可能と指摘しているだけだ。ただし、誤算があったことは認めたい。
中共(共産党)は胡錦濤(フー・チンタオ)政権末期の危機的状況に際し、成功体験である毛沢東時代を再現すべく習近平
(シー・チンピン)に権力を集中させた。この対応力は私を含めチャイナウオッチャー全員が予想できなかった。
それでも先送りしているだけで構造的問題の解消にはなっていないと思うが。
次の著書では自らの誤算と中共の変化について詳述する予定だ。