いま最も“ヤバい”レアメタルとは?
タンタルを巡るアフリカDRCの紛争の動向
タンタルとは何か?
ではタンタルは何に利用されるのか? 特にタンタルの主用途であるタンタルコンデンサはノートPC、タブレットPC及び
スマートフォン等の情報通信機器をはじめ、液晶テレビ、デジタルカメラ、ビデオカメラなどデジタル家電や自動車部品等に
使用される。
タンタルコンデンサ以外には、耐熱・耐食材料、合金添加物、スパッタリングターゲット等に使用されている。
また、タンタルの酸化物や炭化物などの化合物は、切削工具、光学レンズ、さらに近年はSAW(表面弾性波)フィルタも主要な
用途となっている。
産業情報調査会によればHEV/EV を含めた自動車の生産は堅調に推移しており、ADAS(先進運転支援システム) などの普及で
車の電装化はさらに加速している。スマートフォンについても高機能化は進展し、電子部品の搭載数量が増加している。
このような状況を受けて、コンデンサ市場は2016 年以降、平均年率約3.7%で堅調に推移し、2021年には2兆4000億円台に
達すると予測される。そのコンデンサ市場の世界需要の約4割以上がタンタルコンデンサである。
まさにタンタルは電子分野の高機能化時代の申し子なのである。
タンタルに罪があるわけじゃあないが過去にはあまりにも血塗られた歴史がある。資源としてタンタルが遍在しているのは
ルワンダ、DRコンゴである。この2カ国だけで世界生産量の60%を占めるが供給量の安定性は保証されてはいない。
さて、DRC(コンゴ民主主義共和国)は今でも国連軍が常駐しているが、いまだに紛争が絶えないのは資源を巡る各国の思惑が
渦巻いているからだ。政治的にも反政府軍の存在は無視できないようだ。
実はDRCやルワンダには、搾取を続けた西欧列強の侵略主義の歴史があることを、忘れてはならない。人類史に残るルワンダの
大量虐殺事件は1974年にルワンダで起こった。しかし史上最悪の植民地支配を続けた宗主国ベルギーによるレオポルド3世時代には、
3000万人の大量殺戮が起こされたと報告されている。これほどまでに熾烈な歴史の中で地下資源があまりにも豊富であることから
DRCへの陰に隠れた資源戦争がくすぶっているのである。
タンタルは、DRC及びその周辺国の生産が多いことから、紛争鉱物の対象となっている。米国では、2010年にDRC及び
その周辺国で生産される紛争鉱物(錫、タンタル、タングステン、金)の使用の有無を調査し、情報公開義務を課す
ドッド・フランク法第1502条が可決された。
これはあくまでアメリカの法律における定義であり、EUやOECDでは、その定義が異なるのだが、アメリカの金融法が全世界の
取引に影響が及ぶので、無視するわけにはいかない。少し前までは中国やインドは気にしなかったが、グローバル時代の今では
そうもいかなくなった。その結果、コンフリクトミネラル(紛争鉱物)という言葉が独り歩きするようになり、紛争地域で人権侵害、
環境破壊、汚職など、不正に関わる組織の資金源となっている鉱物を指すようになった。
「紛争鉱物」という言葉は、何となく我々日本人には嫌なイメージがつきまとうので「さわらぬ神にたたりなし」とばかりに
この地域にはあまり近づきたくもないので、できるだけ安全圏から最低限必要な数量だけを扱おうとする傾向があるようだ。
ルワンダを訪問した筆者
しかし、筆者自身はかつてこれらのレアメタルで大火傷をした経験があるので、2016年にルワンダに駐在員事務所を設置して
タンタルやタングステンや錫の安定供給体制を確立することにした。現在、日本人駐在員の山田耕平氏が家族とともにルワンダの
キガリで生活をしているが、この話題は別の機会にぜひ投稿する予定である。
ルワンダで事業会社「KISEKI」を立ち上げた山田氏夫妻と従業員のみなさん。AMJルワンダ駐在員事務所も兼ねる
災害は忘れたころにやってくると言うが、20年前のタンタル事件を紹介したい。実は、タンタルは、ITバブルの時に30ドル前後の
相場が370ドル/Lbまで高騰したことがある。そのころには日本企業がアフリカ(DRC)からの供給ルートがなかったので、
宗主国のベルギーや英国やオランダ経由で手当てしていた。ロンドンのメタル雑誌の相場を無批判に信じて欧州トレーダーの
いわれるままに買わされていたのが実態であった。
AMJルワンダ事務所
忘れられないのは、タンタル国際会議が2000年にサンフランシスコで開催されたときに当時のメタルトレーダーはかなりの
投機在庫を抱えていたので、何とか売り逃げるために口々に「まだまだ市況は上がる」などとデマ情報を流していた。
当時は筆者も欧米の投機筋に踊らされた結果、かなりの投機在庫を持っていたが、複数の海外の需要家からは安定供給ルートを
維持するため、筆者にも「必ず引き取るから少しだけ預かっておいてよ」と保証のない口約束を乱発されていた。
筆者も若かったので(おまけにかなり利益をためこんでいたので)深く考えずに「急落はないだろう」と、タカを括っていた。
はたして2001年にITバブルが弾けた時の恐怖たるや、いまでも忘れられない悪夢の日々となった。その時の市場はパニック状態に
なり自殺者が出たり(交通事故に見せた)不審死が世界中で発生した。まさにレアメタル取引の闇であった。
あれだけ出てこなかったタンタル在庫が一斉に売られたために「売りが売りを呼ぶ展開」で瞬く間に半値八掛けの相場になって
しまった。その結果、売り契約は反故にされるし、高値在庫は売るにも売れない状態になった。
「山高ければ谷深し」で、当時のタンタル狂想曲は終わりを告げた後も10年以上はタンタルは危険な市場だということが
定説となり、市場では代替材料を使い、できるだけタンタルの使用量は減らしてタンタルに依存しないようになった。
紛争鉱物の本質とは何か?
紛争鉱物について詳細に調査していくと、裏にうごめく米国の影が見え隠れしてくる。アメリカの国内金融法フランクドット法が
コンフリクトミネラルの元凶だという見方もある。紛争鉱物とは、略して3TGという言い方をするが、これはスズ(Tin)、
タンタル(Tantalum)、タングステン(Tungsten)、金(Gold)のそれぞれの頭文字をとった略称である。
紛争地帯で採掘される鉱物のことを言っているのではなく、これら4種類の鉱物とその派生物の総称である。
したがって、コンゴ周辺でなくとも、3TGの4つの金属と派生物をまとめて「紛争鉱物」と呼んでいるので、
コンゴ民主共和国(DRC)と国境を共有する国で、アンゴラ、ブルンジ、中央アフリカ共和国、コンゴ共和国、ルワンダ、
南スーダン、タンザニア、ウガンダ、ザンビアが対象国となっている。
これらの国に由来するからといって必ずしもそれが武装勢力の資金源となるわけではないが、一般的には紛争鉱物の対象国と
なっているのは、これら10カ国ということになっている。また、なぜかコバルトは紛争鉱物には入ってないが、最近ではコバルトに
ついてもトレーサビリティーを明確にするべきだとの意見も出てきているようだ。
一方、今年に入って米国財務省は、紛争に関連する鉱物を使用する企業からの開示を要求する規則、ならびにドッド・フランク法の
他の部分を廃止するよう求めているが、紛争鉱物の規制がタンタルの安定供給を阻害しているため先高感を煽る欧米の投機筋が
タンタルのスペキュレーション(投機)を進めている。筆者の視点からいえば、昨今の投機筋の手口は巧妙で2017年の年初から
目立たないようにタンタル資源を底値で集荷しながら情報操作を繰り返しているようにみえる。
人権保護団体と紛争鉱物監査組織の功罪
人権団体のアムネスティーがDRCの児童労働について問題視しているのは、前回にすでに述べたので多くは語らない。
一方のコンフリクトミネラルの発生場所とそのサプライチェーンをチェックする組織がある。取引現場ではEICC/GeSI 紛争鉱物
報告テンプレートを使用して記入した紛争鉱物に関する申告書を提出することを義務付けられているが、Electronics Industry
Citizenship Coalition(EICC) 及びGlobal e- Sustainability Initiative (GeSI)の組織のチェックシステムが本当に機能しているか
どうかは、さらに時間を要するようだ。鉱山の現場では多大なる手間とコストをかけるならば反政府武装組織の搾取と大きな差は
ないと否定的にみる現地の鉱山企業もいるようだ。
中国がタンタルを漁り始めた理由
しかし、やはり気になるのが中国の影響である。中国がアフリカ各国に外交関係を強化しているのはよく知られているが、
DRCやルワンダにもその進出の手を緩めることはない。欧米のタンタルワイヤーの大手企業はタンタル中間製品の製造を中国に
移転したために世界のタンタル生産においても中国の存在感が増してきている。日本企業にとっても希土類やタングステンなどと
同様、タンタル製品を中国に依存するようになりつつある。
一方、タンタル資源は中国にはあまり賦存していないため、中国のタンタル精錬業者はアフリカに進出してきた。
ところが、タンタルはルワンダやDRC及びその周辺国の生産が多いことから、紛争鉱物の対象となっているので思い通りには
いかないようである。
当然ながら中国のタンタル工場は紛争鉱物を使っていないことを国際機関に証明しなければならない。そこでアフリカだけではなく
ブラジル、オーストラリア、カナダにも供給基地を拡大しているようだ。
タンタル業界を揺るがせた買収劇
そんなタンタル市場の中で2018年2月27日に驚きのニュースが世界にリリースされた。
JX金属(大井滋社長)が、ドイツのスタルク社(HC Starck GmbH)からタンタル・ニオブ事業の全株を買収したのだ。
当社とJX金属との関係は密接なので早速、大井社長に面会を申し込み、翌々週には面談が実現したのである。
一般の方には多少専門的なので理解できないかもしれないがスタルク社のタンタル・ニオブ事業は世界No.1である。
スタルク社のタンタル・ニオブ製品(高純度金属)の開発・製造・販売のすべてを日本企業が手に入れるということは今後の
IoT時代を支える影響は多大なものである。
元々JX金属は非鉄精錬のリーディングカンパニーであったが電材加工事業についても以前から強化策を打ち出していた。
このタンタル・ニオブ事業の買収により日本がタンタル・ニオブ分野で名実ともに世界一になったことを意味する。
タンタル資源の開発をアフリカで目指しタンタルの安定供給に貢献することを目標にしてきた当社(AMJ)としては電子部品や
デバイスの飛躍的な発展がさらに見込まれるので大変心強い市場の変化であった。」
タンタル資源相場の動向
2018年になってからの国際タンタル市場は、価格が着実に上昇し続けた。
初めに報告したように2017年から2018年3月現在までに155.2%の値上がり率はすべてのレアメタルで第1位である。
現地のタンタル鉱石の価格は$97.00-98.00 / lbTa205となった。前月末の価格と比較して$ 1.00 / lbTa205の上昇となっている。
現地のコンプトワール(集荷業者)の間でも売り手市場が続いており市場の混乱は収まりそうもない。
中国の需要は引き続き堅調に推移しており、大半のスメルターの購入量は着実に増加傾向にある。一方では供給側はサプライヤーの
数が増加した為に過去数カ月よりも価格上昇率はわずかに鈍化しているようにも観測される。
しかし、筆者の経験からすれば今回のタンタル相場のようにじわじわと目立たないように上昇してゆく相場は長続きする場合が多い。
いずれにしても引き続きタンタルの動向を注視していきたい。