米朝首脳会談の裏で、日本が打ち上げた事実上の「偵察衛星」の目的とは
情報収集衛星レーダー6号機を搭載したH-IIAロケットの打ち上げ (C) nvs-live.com
2018年6月12日、史上初となる米朝首脳会談が開催された裏で、日本は「情報収集衛星」の打ち上げに成功(JAXA)
した。情報収集衛星は、1998年の北朝鮮による「テポドン」発射事件を契機に導入が決定された、
事実上の偵察衛星である。現時点で8機が稼働しているが、その将来には課題もある。
情報収集衛星とは
情報収集衛星は、1998年に起きた北朝鮮による「テポドン」発射事件を契機に導入された、「事実上の偵察衛星」
である。
当時、日本の宇宙開発は「平和利用に限る」という決まりがあり、偵察衛星のような軍事衛星は保有できず、
民間の地球観測衛星が撮影した画像を購入したり、米国から提供を受けたりといった形で衛星写真を利用していた。
しかし、それでは自由に情報が得られないという問題があり、実際にテポドンの発射も、事前に察知できなかったという。
その「テポドン・ショック」が、それまでの慣例を打ち破り、事実上の偵察衛星を導入することを決断させた。
情報収集衛星は、日中の雲のないときに地表を細かく見ることができる「光学衛星」と、あまり細かくは
見られないものの、夜間や雲があるときでも観測できる「レーダー衛星」の2種類がある(参考)。
打ち上げは2003年から始まり、打ち上げ失敗で2機が失われたものの、これまでに15機が打ち上げられ、
現時点で光学衛星が3機、レーダー衛星が5機の、計8機が稼働しているとされる。今後、さらに新しい衛星の
打ち上げも計画されている。
情報収集衛星をはじめ、多くの偵察衛星は、地球を南北に、それも周期的にある地点の上空を通過できるように
回る軌道を飛んでいる。8機あると、単純計算では半日に1回、どれかの衛星が地球上のあらゆる地点の上空を通過し、
観測ができる。
逆にいえば、ハリウッド映画によくあるような、ある場所を常時監視し続けるようなことはできない。
北朝鮮のミサイルにも、災害時の情報収集にも
情報収集衛星の運用は、内閣官房の内閣情報調査室にある内閣衛星情報センターが担当している。
これまで1兆円を超える予算が投入された、日本で最もお金のかかっている宇宙プロジェクトでもある。
しかし、導入の経緯やその目的もあって、衛星が撮影した画像が、大々的に公になることはない。
情報収集衛星が撮影した画像や分析結果は、特定秘密保護法に基づく特定秘密にも含まれている。
もちろん、これは偵察衛星を運用する他国でも同様で、べつに日本だけが特殊というわけではない。
しかし、情報収集衛星にはただ軍事基地などを偵察するだけでなく、「大規模災害への対応」も目的のひとつと
なっている。これは情報収集衛星が、偵察衛星とは呼ばれない所以でもある。
だが、前述のように情報収集衛星の画像が公にされないことから、肝心の「大規模災害への対応」に支障が
出ていたのも事実である。たとえば東日本大震災では、省庁や民間企業などに画像が提供されず、米国の民間企業が
運用する地球観測衛星の画像を購入、利用したことが報じられている。
こうした問題や批判があったことから、内閣官房は2015年から、大規模災害が発生した際には、
「衛星の性能がわからないように画像の解像度を落とした上で公開する」という方針を発表。
同年、平成27年9月関東・東北豪雨が発生した際には、さっそく画像が公開された。
情報収集衛星の課題と揺らぐ意義
もっとも、これで情報収集衛星にまつわる課題が消えたわけではない。
たとえば北朝鮮問題が今後、解決に向けた進展を見せることになれば、その導入が決まった動機のひとつが
なくなることになる。こうした国際情勢が変化していく中で、情報収集衛星の運用や体制をどうするかは、
今後も課題になり続けるだろう。
また、地表を撮影できる衛星を、軍や情報機関しかもっていなかった時代は終わり、近年では多くの民間企業が
衛星を保有し、撮影した画像を販売している。なかには、数多くの衛星を打ち上げることで、かつては不可能だった
「ある場所を常時監視し続ける」ことを実現させようとしている企業もある。実現すれば、誰もが、いつでもどこでも、
地球のあらゆる場所の様子を見ることができるようになるかもしれない。
こうした宇宙ビジネスの発展や技術革新といった流れは今後も止まらず、より高性能で、使いやすい方向へ
進歩していくことだろう。そこにおいて情報収集衛星の意義は、少なくとも現在の形のままでは、失われていく
ことになる。
こうした時代や技術の変化に合わせて、情報収集衛星のあり方を、その目的に合わせ、
性能やコスト・パフォーマンスをより良いものに変えていく必要があろう。