アジアのRCEP、インド離脱で張り子の虎に
2019 年 11 月 6 日 08:42 WSJ By Mike Bird
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東アジア地域包括的経済連携(RCEP)は、中国にとって環太平洋経済連携協定(TPP)の代わりに
なる可能性を秘めたものであり、マンモスと評されていたが、マンモスよりもネズミに近いものに
向かっている。
RCEPの交渉参加国の中でも経済大国の上位に入るインドが、4日の交渉を受けて離脱の意向を
表明したことで、RCEPはさらに印象の薄い存在となった。インドの政策担当者らにとっては、
関税面での控えめな自由化でさえ、過大なものだった。
2020年に調印される見通しのRCEPは、アジアのアルファベット・スープ(アルファベットが並ぶ
略語ばかり)の様々な貿易合意に中国を加えるものだ。RCEPに参加する国のうち10カ国は東南アジア
諸国連合(ASEAN)加盟諸国だ。この10カ国のうち4カ国は、オーストラリア、ニュージーランド、
日本などとともにCPTPP(米国を除いた11カ国による新TTP、通称TPP11)に参加している。
これら諸国の多くは、2国間協定やその他の補足的な協定にも加盟している。
CPTPPは、米国がTPP交渉から離脱したのを受けて、日本の安倍晋三首相が推進したもので、
2018年末に発効した。RCEPがおおむね関税削減のための協定であるのに対し、CPTPPは労働、
知的財産、競争、投資方針など、より幅広い分野にわたる協定となっている。
より厳しい条件の協定に関わっている国々にとってみれば、RCEPの意味はほとんどない。
ASEAN加盟国間の平均的な関税は、既に限りなくゼロに近い。
豪クイーンズランド大学のレヌカ・マハデバン氏と、インドネシア財務省のアンダ・ヌグロホ氏が
行ったRCEPに関する最も包括的な研究は、それによる利益がいかに限定的になりそうかを示している。
それによると、インドを除外したRCEPは2030年の中国の国内総生産(GDP)を0.08%しか押し
上げないとみられる。
同時期にRCEPから0.5%を超えるGDP押し上げ効果を得られるとみられる国は2カ国しかない。
関税の削減率が大きい韓国と、とりわけ繊維および電子機器の輸出が後押しを受けるとみられる
ベトナムだ。
インドによるRCEPからの離脱決定は、自国の方針を問い直すきっかけとなるかもしれない。
インドの平均関税率は交渉に参加した他の経済大国の水準を上回っている。もしインドが今回のような
限定的取り決めさえ受け入れることができなければ、同国の東に展開する統合度合いのより大きい
アジア諸国の貿易ネットワークが規模、影響力ともさらに拡大するのを傍観するだけである。
インドが達成に失敗した貿易協定はこれだけではない。過去10年にわたる欧州連合(EU)との
交渉は何も実を結んでいない。インドのエコノミック・タイムズ紙の報道によれば、同国財務省は、
既存の協定についても他国に譲歩し過ぎているとの理由で見直す作業にさえ入っている。
RCEP参加諸国では既に2国間での関税率は低く、参加国にとって貿易協力の意味ある拡大には
つながらないとみられるほか、関税率の引き下げ余地が最もあるとみられていたインドが参加して
いないことから、今回の合意のもたらすインパクトは限定的なものにとどまるだろう。期待は低めに
設定し直したほうがよさそうだ。
【ASEAN ③ 】11/4 第3回RCEP首脳会議の開催 / RCEP参加見送り示唆したインド / 第11回日本・メコン地域諸国首脳会議