マレーシア、マハティール首相が都市開発の外国人物件購入を禁止 狙いは中国人投資家排除?
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<今年5月の政権交代以降、前政権の中国寄りの政策見直しを進めているマハティール。今度は中国人投資家による
買い占めが続く都市開発で、外国からの投資にストップをかけた>
マレーシアのマハティール首相は8月27日、クアラルンプールでの記者会見で同国最南部ジョホール州
ジョホールバルの西側、シンガポールとの国境に近い地区で開発が進む巨大都市開発構想「フォレスト・シティー」で
外国人が不動産物件を購入することを禁じる方針を明らかにした。
「フォレスト・シティー」構想は国境の海を埋め立てて人口島を設置、約20万平方km(東京都港区とほぼ同面積)
という広大な土地に住居、商業施設、行政・教育施設、エンターテインメント施設などを建設する計画で、
最終的に約70万人が働き生活する都市が生まれるという巨大プロジェクト。総額約1000億ドル(約10兆円)の投資で
2026年の本格稼働、2036年頃の最終的な完成を目指している。
このプロジェクトは中国系の大手デベロッパー「カントリー・ガーデン・パシフィック・ビュー」が中心となって
担当し、2016年2月には販売ギャラリーを開設するとともにすでに一部で建設と販売が始まっている。
計画では敷地内に約10万戸の住宅物件を建設する予定で、すでに完成前物件として予約販売が始まっており、
これまでに20数棟分が完売したといわれている。
買い漁りに群がる中国人投資家
中国系の企業が関与していることから、住居部分となるコンドミニウムは中国国内でも予約販売されており、
中国人資産家などが投資目的でどんどん買い漁っているという。
日本の海外不動産情報を扱うウェブサイトなどによると、中国の広州からジョホールまで格安航空の直行便が飛び、
建設予定地をバスで訪れて見学、そのまま販売ギャラリーで成約するような光景が繰り広げられていたという。
この構想はマレーシアのナジブ前首相が中国の習近平政権が進める「一帯一路」構想に強い関心と支持を示したことと
無関係ではなく、「フォレスト・シティー」はクアラルンプールとシンガポールを結ぶ高速鉄道構想ともリンクしていた。
東南アジアで航空ネットワークのハブ、金融の中心地、最先端の科学技術研究、情報通信の拠点である
シンガポールへのアクセスのよさ(国境まで約2km)も「フォレスト・シティー」の大きな利点として宣伝されていた。
巨大都市開発「フォレスト・シティー」の紹介ビデオ
政権交代で事態が一転
ところが、2018年5月9日のマレーシア総選挙でナジブ前首相の「金権汚職体質」を批判する野党連合が勝利、
同国初の政権交代が実現した。その野党を率いたのがマハティール首相で、首相就任後は国民への公約でもある
ナジブ前政権の複数の巨大プロジェクトの見直しに着手したのだった。
シンガポールまでの高速鉄道構想についてマハティール首相は中止を決断してシンガポール側に通告。
また中国企業が関わってすでに建設が着手されている東海岸を走る高速鉄道計画もマハティール首相が訪中して、
8月20日に北京で習国家主席や李克強首相にその中止を直談判して、基本的に了承を得たとしている。
そして今回の「フォレスト・シティー」の外国人への不動産販売の禁止措置である。実は「外国人」とはしながらも
「事実上は中国人への販売禁止措置」であることは誰の目にも明らかで、投資目的の不動産取得を禁じるとともに
区域内の住居への中国人の転入を禁止したものといえる。
マハティール首相は会見の中で「フォレスト・シティーに住むという外国人にはビザを発給しない」とまで
強い姿勢を示した。
こうした姿勢の背景には中国人によるマレーシア国内での不動産取得への反発、さらに「一帯一路」構想からの
離脱というマハティール首相による「対中関係を見直し」への強い意志が反映しているといえる。
中国への配慮もみせるマハティール首相
しかし、一方でマハティール首相は「こうした住居はマレーシア人のためではなく外国人のために建設されて
いるかのようで、マレーシア人は実際のところ部屋を購入しようにもできないのが実情だ」と述べて、なにより
自国民優先が今回の方針の理由であると説明している。つまりあくまで「マレーシア人優先」「外国人を制限」を
強調することで中国の怒りの矛先が向かないような配慮も示している。
ジョホール州内のマレーシア人の間からも「フォレスト・シティー」構想と中国人による不動産買い漁りには
「不動産市場の高騰」や「埋め立てによる漁業への影響」「周辺地区の環境への余波」などを理由に不満が
高まっていたこともマハティール首相の方針の背景にはあったとの見方が有力だ。
「フォレスト・シティー」は日本でも一部の海外不動産サイトで大きく取り上げられ「今、東南アジアで最もホットな
場所であることは間違いなく、そのポテンシャルは計り知れない」などとPRされていた。
しかし今回のマハティール首相の方針では日本人も当然その対象となり、実際に居住するにしろ投資目的で
購入するにしろ、外国人である限りは事実上難しくなったことは間違いない。「外国人」がどうしても
「フォレスト・シティー」への居住を望むなら、マレーシア人が購入した部屋を賃貸するか、マレーシア人名義での
購入しか抜け道はないことになりそうだ。
それよりなにより、すでに予約販売で契約を済ませた多くの中国人に今後どう対応していくのか、販売に関わった
会社は頭を悩ませている。そもそもこういう事態に至った今となっては、建設主体となっている中国系企業が
今後も事業を継続するかどうかすら先行き不透明で、新都市建設構想そのものへの影響すら懸念される事態となっている。
8月17日、マレーシアの独立系世論調査会社「ムルデカセンター」が8月7日から14日にかけて1160人を対象に
実施した世論調査の結果、首相就任後約100日の「ハネムーン期間」が経過したマハティール首相への支持率が
71%と高い数字であったことを明らかにした。