「同盟国なら北説得を」「民族の利益擁護する当事者に」、米朝双方から「踏み絵」迫られる韓国・文在寅大統領
朝鮮半島の非核化交渉で「仲裁者」を自任する韓国の文在寅大統領が米朝双方から「踏み絵」を
迫られている。韓国紙は2019年4月19日付で、「ワシントンでは同盟国の韓国は米国の考えを
北朝鮮が受け入れるよう説得をとの声を耳にする」と報道。金正恩・朝鮮労働党委員長は
「民族の利益を擁護する当事者となるべきだ」と要求した。
2月にベトナム・ハノイで行われた2回目の米朝首脳会談が物別れに終わった後、初めて訪米した
文大統領は11日の米韓首脳会談でトランプ米大統領に「近く南北首脳会談を推進する計画」と説明。
トランプ氏は「南北接触を通じ、北朝鮮の立場を可能な限り、速やかに伝えてほしい」と要請した。
しかし、これは「外交辞令」だったよう。朝鮮日報はワシントン特派員発で「同盟なら同盟国の
味方をすべき、なぜ間に立つ?」とのコラムを掲載。「韓国政府が仲裁者(促進者)として
米朝対話の火をおこす方策を考えているという話が太平洋を渡って伝わると、突然同盟の役割に
ついて話す人が増えた」と報じた。
一番よく耳にするのが「米国の同盟国である韓国は米国の味方になるべきだ。なぜしきりに
米国と北朝鮮の間に立って仲裁者になると言うのか」という声で、「韓国が対話再開のための
新たな方法を考えて米国に譲歩するよう説得するよりも、米国の考えを北朝鮮が受け入れるよう
説得してほしい。それが米国の考える同盟の役割だ」とする意見もあったという。
さらに「韓国が『南・北・米』の3者をまとめようとするたび、不愉快になるという人もいた」
とも紹介。「『南・北・米』と言うと、『韓米』対『北朝鮮』の構図ではなく、
『南北』対『米国』という構図であるかのようで、韓米が同盟国ではないように感じられると
いうのだ」と説明した。
一方、北朝鮮の朝鮮中央通信などによると、金委員長は12日、最高人民会議(国会に相当)での
施政演説で、米国が正しい姿勢で臨むのであれば3回目の首脳会談を行う用意があるとの意向を
表明しながらも、「南朝鮮(韓国)当局は周囲の様子をうかがいながら、(米朝間の)
『仲介者』などと差し出がましいことをするのではなく、堂々と民族の利益を擁護する当事者と
なるべきだ」と主張。文政権に対し、南北経済協力などを盛り込んだ昨年の「9月平壌共同宣言」の
履行などを促した。
この発言について朝鮮日報は「はっきりと北朝鮮の側に立てという意味だ」と指摘。
「寧辺の核施設解体と引き換えに対北朝鮮制裁を事実上全面解除すべきだという自身の
『偽の非核化』カードをトランプ大統領が受け入れるよう説得しろとの注文でもある」と解説した。
金委員長の発言を受け、文大統領は15日、「朝鮮半島の非核化や平和構築の確固たる意志、
3回目の米朝首脳会談に臨む意向を表明した」と評価。4回目の南北首脳会談を呼び掛けたが、
同紙は社説で「金正恩氏の侮辱に反論できず、ただ言いなりの文大統領」と酷評した。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
【社説】文大統領に味方になるよう露骨に要求した金正恩委員長
北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は最高人民会議の施政演説で、「米国が正しい姿勢を
持って我々と共有できる方法論を見いだすことを条件に、3回目の朝米(米朝)首脳会談をしようと考えるなら、
もう一度やってみる用意はある」と言った。だが、合わせて「米国が今の計算法に固執するなら問題解決の
見通しは暗いし、非常に危険だろう」とも述べた。
ベトナム・ハノイで行われた2回目の米朝首脳会談が決裂した責任を米国になすりつけ、もしトランプ米大統領が
考えを改めるならもう一度チャンスを与えようということだ。国際情勢を全く知らない人が金正恩委員長の
話だけ聞けば、世界の超大国の一方の当事者が相手と神経戦を繰り広げているかのように思うことだろう。
とんでもない話だ。
金正恩委員長は「国家と人民の根本的な利益にかかわる問題では、ちりやほこりほどの譲歩・妥協も
しないだろう」とも言った。北朝鮮の「根本的な利益にかかわる問題」とは核保有のことだ。トランプ大統領が
ハノイ会談で要求した北朝鮮の核の完全な廃棄は絶対に受け入れられないという意味だ。同委員長が自身の
非核化意思を信じてくれと言い、「何をするために生きにくくしてまで核を持っているのか」「私の子どもたちが
核を持って生きることを望んではいない」と言った言葉は結局すべてまやかしだったことになる。
金正恩委員長は「南朝鮮当局は出しゃばりな仲裁者・促進者のような振る舞いをするのではなく、
民族の一員として民族の利益を擁護する当事者にならなければならない」とも言った。核爆弾を落とされたく
なければ北朝鮮の味方になり、米国に譲歩を要求しろということだ。米朝交渉の構図を戻すために仲裁者・
促進者役をするという文在寅(ムン・ジェイン)大統領に、今のように米朝間の間に立とうとせず、はっきりと
北朝鮮の側に立てという意味だ。
寧辺の核施設解体とひきかえに対北朝鮮制裁を事実上全面解除すべきだという自身の「偽の非核化」カードを、
トランプ大統領が受け入れるよう説得しろとの注文でもある。
韓国は北朝鮮の核の最大の被害者だ。米国が適当な線で北朝鮮と妥協しないように監視しつつ、完全な非核化を
最後まで貫かせなければならない立場にある。ところが、文大統領は逆に「開城工業団地・金剛山観光事業を
再開させてほしい」とせがむために米国に飛んだ。しかし、トランプ大統領は「北朝鮮の核をすべてなくす
『ビッグディール』を実行すべきだ。その時まで制裁は維持しなければならない」と拒否した。
そんなことだから、米上院議員たちは「韓国の役割は米朝間の仲裁者ではなく、米国の同盟だ」と疑いの目を向け、
さらには加害者である北朝鮮まで被害者である韓国に対して自分たちの味方をしろという、とんでもない事態が
起こっている。
金正恩委員長の演説には、窮地に追い込まれた自らの境遇をごまかそうとする虚勢があちこちに見られる。
「制裁解除問題に困って米国との首脳会談に執着する必要はないとの考えに至った」というのは、逆に言えば
制裁解除のために米国にしがみつくしかないという意味だし、
「今年末までに忍耐する心を持ち、米国の勇断を待つ」という言葉からは、制裁の苦痛に長期間持ちこたえるのが
難しいという切迫感がにじむ。
2017年から実質的に北朝鮮を締めつけてきた制裁の効果があと1-2年続けば、北朝鮮に真の非核化を決意
させられるかもしれないという希望を抱かせる。今は、韓国政府が生半可な仲裁者・促進者役をして、北朝鮮に
対する圧力という戦線を乱す時期ではない。