【新型コロナと米中新冷戦】大失敗だった中国のプロパガンダ作戦 コロナ「米軍犯人説」は取り下げも…メンツ維持へ引くに引けず
2020.6.4 夕刊フジ
高圧的な言動で知られる中国外務省の趙副報道局長(共同)高圧的な言動で知られる中国外務省の趙副報道局長(共同)
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、米国と中国は全面的な競争から全面的な対決に
向かっている。歴史上最悪の米中関係の中で、中国共産党が行っている情報戦、特に
プロパガンダ戦は独善的で火に油を注ぐ結果となっている。
中国は、武漢ウイルスの世界的な感染拡大について、世界の人たちに対する謝罪を
していない。謝罪するどころか、「中国政府はウイルスの拡散を防ぐため、都市封鎖を
行った。中国は世界を救うために巨大な犠牲に耐えた。だから世界は中国に感謝すべきだ」
と主張している。
中国の「感謝しろ」という外交は「感恩外交」と表現されるが、世界各国の中国に
対する怒りに油を注ぐ結果となっている。
そして、中国が世界に対する自己主張を強めるなかで、世界各地の中国外交官は、
相手の大小を問わず攻撃を仕掛けている。これは、中国外務省内の姿勢変更の一環であり、
中国指導者が世界における自国の正当な地位を求めていることと連動している。
この戦闘的な外交を中国では「戦狼外交」と呼ぶが、この名称は中国のアクション
映画「戦狼」に由来する。
中国はまた、偽の情報を使った「情報戦」まで展開している。
例えば、中国外務省の趙立堅副報道局長は3月12日、ツイッターで「米軍が新型
コロナの流行を武漢に持ち込んだのかもしれない。データを公表し、透明性を向上
させるべきだ。米国は中国に説明する義務がある」と米国を批判した。中国の報道官が
明確な証拠もなく、ここまで踏み込んで米軍関与陰謀説を主張するのは極めて異例だ。
ただ、この米軍犯人説は世界中からの批判を浴びて取り下げられた。
彼らが「米軍犯人説」のような明らかな虚偽の主張をする背景には、「超限戦」に
通じるものがある。「嘘は方便、嘘も100回言えば真実になる」という発想だ。
ナチスの宣伝大臣、ヨーゼフ・ゲッベルスがよく使ったフレーズだ。
しかし、中国のあまりにも荒唐無稽なプロパガンダは逆効果で、米国内では中国に
対する超党派の怒りが沸き起こっている。「中国政府は、武漢ウイルスが引き起こした
危機を利用して、世界中で経済的・政治的優位を確立しようとしている。中国政府の
誠実さや善意を期待してはいけない。より強固で現実的な対中戦略が必要だ」という
点で、共和党と民主党の意見が一致している。
硬直した中国当局のプロパガンダ戦は大失敗であるが、中国共産党の国内における
メンツを保つために、引くに引けない状況になっている。
■渡部悦和(わたなべ・よしかず) 元陸上自衛隊東部方面総監、元ハーバード大学アジアセンター・シニアフェロー。1955年、愛媛県生まれ。78年東京大学卒業後、陸上自衛隊に入隊。その後、外務省安全保障課出向、ドイツ連邦軍指揮幕僚大学留学、第28普通科連隊長(函館)、防衛研究所副所長、陸上幕僚監部装備部長、第2師団長、陸上幕僚副長を経て2011年に東部方面総監。13年退職。著書・共著に『中国人民解放軍の全貌』(扶桑社新書)、『台湾有事と日本の安全保障』(ワニブックスPLUS新書)など。