ありがとう護衛艦「くらま」 日本の海を護り続けた36年
2017.3.23 07:00 産経新聞
海上自衛隊の艦艇で最も古い護衛艦「くらま」が22日、36年間の任務を終えて退役した。東西冷戦下の昭和56年に就役してから積み重ねた航行距離は地球を43・6周した分に相当するという。搭載した装備はその後に他の艦艇の手本となり、3機のヘリコプターを搭載できる利点を生かして4回連続で観艦式の観閲艦を務めるなど、常に第一線で活躍してきた。
くらまの退役と入れ替わる形で、海自最大の艦艇であるヘリ搭載護衛艦「かが」が就役。日本を取り巻く安全保障環境が冷戦時代同様に厳しいなか、巨大な新造艦に後を託して“老兵”は静かに表舞台から姿を消した。
くらまは全長159メートル、幅17・5メートルで基準排水量は約5200トン。乗員約350人を乗せて速力31ノットで航行する。後部には2機のヘリが同時に駐機できる全長約50メートルのヘリポートを備え、当時としては画期的なスタイルの艦船だった。
兵装としてはCIWS(シウス)と呼ばれる高性能20ミリ機関砲や、短距離艦対空ミサイル(短SAM)シースパロー発射装置などを搭載。曳航式ソナーも備えており、哨戒ヘリと連携して対潜水艦戦で活躍した。
くらまでの実績が評価されたCIWSや曳航式ソナーは、その後に建造された海自の護衛艦が標準的に装備することになった。いわば護衛艦の“お手本”とも呼べるくらまだが、対外的にもさまざまな国際共同訓練や国際交流といった場で存在感を発揮してきた。
冷戦崩壊後の平成8年夏には、かつて対峙していたロシア海軍の300周年記念式典に参加するため、自衛艦として初めて同国を訪問。ウラジオストクで開かれたロシア太平洋艦隊の観艦式に参加したほか、初の日露共同訓練も日本海で行った。当時ロシアに向かった元乗組員は、「日本の代表として恥ずかしくない振る舞いをしなければいけないと思い、とても緊張した」と振り返る。
一方、16年に中国海軍の原子力潜水艦が沖縄県の石垣島と宮古島の間の領海内を潜航したまま通過し、海自が海上警備行動を発令した際には護衛艦「ゆうだち」ととも現場周辺海域へ急行。対潜能力を生かし、重要情報の収集に努めた。
くらまが36年間で積み重ねた総航程は地球を43・6周した分にまで達し、総航海時間は7万8772時間にも及ぶ。平成27年4月にはヘリの無事故着艦回数が5万回に到達し、古参の風格を見せつけた。
3月22日、母港のある長崎県佐世保市で行われた退役の式典では、艦長の水田英幹1佐以下すべての乗組員が退艦し、くらまに掲げられていた自衛艦旗を返納。乗組員らは先人たちが培ってきた「くらま魂」を継承すべく、それぞれが次の勤務地へと旅立つ。
そして、くらまは今後、解体されスクラップになるという。ただ、その魂は旧帝国海軍の航空母艦「加賀」にちなむヘリ搭載護衛艦「かが」が立派に引き継いでくれることだろう。