次第に歓迎されなくなりつつある中国の対外支援
2018年9月18日 WEDGEInfinity
日本のODA(政府開発援助)は、現在ではより戦略的になっていると思うが、かつては相手国の開発を支援し、
経済を発展させることで、日本企業の進出に資し、輸出増大に貢献するという共存共栄がODAの基本的考え方であった。
これに対し、中国の開発支援は、当初から相手国に対する影響力を増大させることを目的として行われている。
中国の対外貸付が最初から相手国を破産させ、中国の意思に従わせる、負債を落とし穴とする外交であるとは
考えられないが、結果としてそうなっているケースが多い。
この問題に関しては、ワシントン・ポスト紙の北京支局長であったジョン・ポンフレット氏が、8月27日付の同紙で、
中国の対外貸付は、相手国を支配しようとする帝国主義的手法であると述べている。その中で、ラオスとカンボジアは
今や「中国の完全所有の子会社」化していると言ったエヴァンス元オーストラリア外相の言葉を引用している。
これは、実は、由々しき事態である。なぜなら、ASEAN(東南アジア諸国連合)の意思決定は、
原則コンセンサス方式であるからだ。ということは、ラオスとカンボジアが拒否権を持っていることを意味する。
すなわち、ASEANでは、中国に不利な決定はできないことになる。
また、ポンフレットの論説では、中国は、「一帯一路」構想を持ち出し、モンテネグロ、パキスタン、
スリランカ、マレーシア等の途上国に、インフラ整備を目的に、高額な貸し付けを行ない、その結果、各国が
返済できないような債務を抱えるようになってしまうことが指摘された。
アフリカのジブチでは、中国は開発支援を梃子に、中国で最初の海外基地が建設された。
中国式の開発支援は、その行き過ぎが問題を起こしている。マレーシアのマハティール政権は、
債務が返済できないとして、中国の大型プロジェクト2件の取り消しを決めた。これは、マハティール首相だから
できたという面はあろうが、債務が返済能力を越えている例は他にも出てきている。
スリランカは、中国に対する負債が重荷となり、ハンバントタ港の運営権を99年中国に譲ることとなった。
99年というと香港を思い出すように、中国はポンフレット氏の言うところの「帝国主義」の支配者となっている。
パキスタンとモンテネグロの対中負債については、IMF(国際通貨基金)は、もはや返済できないだろうと言っている。
債務の負担の他に、中国の開発プロジェクトには、質の問題もある。ケニアでは、中国が首都ナイロビと港町の
モンバサを結ぶ鉄道を建設したが、建設費が通常の3倍かかったとのことである。
もう一つの問題は、中国が途上国で開発プロジェクトを実施する時、中国から労働者を派遣して工事を
実施することである。雇用の面で、対象国は恩恵にあずかれない。その他にも、中国の労働者や他の中国人たちが、
治外法権の待遇を受けているという事情があるとのことである。
このように、中国の対外支援は、次第に歓迎されなくなりつつあり、曲がり角に立たされているように思える。
しかし、中国が対外支援のやり方を反省している兆候はない。また途上国は、問題は認識しつつも、資金に対する
需要は大きく、中国の資金なしにはやっていけないことが多い。
中国の対外支援は、問題を抱えつつも、今後も、「一帯一路」構想等を通して、続けられるだろう。
日米両国をはじめ、西側先進諸国は、途上国のニーズを十分に把握し、二国間での支援に加えて、世界銀行や
アジア開発銀行(ADB)などの国際金融機関を通じ、如何に途上国のニーズに、より有効かつ適切に対処できるかを、
もっと真剣に検討すべきだろう。